巻頭インタビュー 「日本医用画像情報専門技師共同認定育成機構」 奥田保男 代表理事に聞く

2010-8-4


奥田保男氏

診療報酬の改定をきっかけにフィルムレス化が進む中で,画像情報を専門的に扱う人材の必要性が高まっています。その中で,医用画像の特性や標準規格など専門的な知識や技術を持った人材の育成と認定を行う「日本医用画像情報専門技師共同認定育成機構」が日本放射線技術学会(JSRT)日本医療情報学会(JAMI) の共同事業として発足しました。
日本放射線技術学会の医療情報分科会会長として,医用画像情報専門技師制度の構築に力を注ぎ,新しい機構の代表理事に就任した奥田保男氏に,医用画像の専門技師の役割,機構の今後の活動についておうかがいしました。

Q1 医用画像情報を扱う専門技師認定制度が必要とされる背景からおうかがいします。

奥田 2008年の診療報酬改定で電子画像管理加算が認められたことで,大規模病院だけでなく中小規模の病院でもPACS導入とフィルムレス化が急速に進んできました。しかし,医療情報の安全管理や電子保存のガイドラインへの準拠などが十分になされないまま導入されるケースが見られます。そこで,これらを理解した上で,医用画像情報の導入,管理,運用を行うことができる人材の教育や育成が必要になってきました。
日本放射線技術学会では,今年(2010年)3月に診療放射線技師の育成機関向けの教科書である放射線技術学シリーズに『放射線システム情報学-医用画像情報の基礎と応用 』を刊行し,学校教育の場で医用画像に関しての基礎学力を養う体制をつくりました。今後,その教育を受けた診療放射線技師が社会に出てくることを受けて,医用画像情報の領域で一定レベルの専門的な知識と技術を習得した人材を認定する指標が必要とされてきたことが,認定制度の立ち上げにつながりました。

Q2 認定制度の設立にはいつから取り組まれてきたのですか。

奥田 2005年度に日本放射線技術学会のST認定制度委員会に,医療情報専門技師認定班を立ち上げたのが最初です。その後,2007年にいったん認定班を再編成し,2008年度に日本医療情報学会との共同事業として再スタートしました。それから2年が経過して,今年の6月1日に2団体による「日本医用画像情報専門技師共同認定育成機構」が発足しました。
認定機構は2団体の共同運営ですが,われわれの特長は一般社団法人化をめざしたところです。法人格を持った団体とすることで,より透明性の高い運営が求められ,今後の認定制度の運営の中でも社会的な認知度が高くなるのではと考えています。人事構成は,理事6名,監事2名,事務局長1名で,理事,監事に関しては,双方の学会から同数が参画しています。

日本医用画像情報専門技師共同認定育成機構
人事構成
理事(代表) 奥田 保男(JSRT)
理事 松田 恵雄(JSRT)
理事 小笠原 克彦(JSRT)
理事 安藤 裕(JAMI)
理事 近藤 博史(JAMI)
理事 長澤 亨(JAMI)
監事 真田 茂(JSRT)
監事 渡邉 亮一(JAMI)
事務局長 山本 和子(JAMI)

 

機構の名称には両団体の思いがこもっていて,スペシャリストの認定を主とする日本放射線技術学会と,医療情報技師の育成に力を注ぐ日本医療情報学会の方針があって,“認定”と“育成”という単語が並ぶ形になりました。機構の活動に関しては,2団体のほか日本画像医療システム工業会(JIRA)日本医学放射線学会 に,試験の問題作成や運営などでご協力いただく予定です。

Q3 専門技師には,どのような技能やスキルが求められるのでしょうか。

奥田 医用画像情報専門技師の資格の特徴のひとつが,日本医療情報学会の医療情報技師 の資格を持っていることが受験資格になるということです。医用画像情報専門技師は,医療情報技師として電子カルテなど病院情報システムに関する幅広い知識や経験を持っていることをバックグラウンドとして,その上に放射線部門,医用画像に関する専門的な人材を育成することがねらいです。医療情報技師には,システムの構築や管理に関する全体的なマネジメントを行う上級医療情報技師の資格がありますが,それとは違うベクトルで医療情報技師の中で部門におけるスペシャリストを育成することが目的です。

医用画像情報専門技師とは

Q4 受験する対象者はどういったところを想定されていますか。

奥田 認定制度では,医療情報技師の資格があれば所属する学会や団体は問いません。また,経験年数などの要求もありません。ですから,診療放射線技師である必要はなく,医用画像の構築や管理に興味のある他職種の方にも広く受験していただきたいと考えています。
実質的には,診療放射線技師で医療情報技師の資格を持っている方が中心になるでしょう。対象となるのは,医療情報技師を持っている放射線技師が約600名,そのほかJIRA関係の企業で画像に興味があって受験資格を持っている方などを含めてトータルで約1000人と考えています。年間では100名程度の受験者を想定しています。

Q5 試験のロードマップと試験内容について教えてください。

奥田 第1回の試験は,2011年2月中旬に東京と大阪で行う予定です。詳細については,第38回日本放射線技術学会秋季学術大会第30回医療情報学連合大会 などでお知らせする予定です。
試験問題は,記述式で3問を予定しています。範囲としてはPACS,放射線部門システムなどに関する(1)システムの開発,構築,管理,(2)情報の管理,(3)運用管理,(4)標準と標準規格,(5)セキュリティ,(6)法令,(7)マネジメント(情報の適切な抽出・分析)などです。
問題例としては「PACSを導入したところ,超音波装置から送られた氏名の漢字表示ができないというクレームがきた。この原因と問題点を挙げ,解決方法を述べよ」といったもので,解としては,DICOMの基本的な構造の理解,放射線部門のワークフローの把握,運用的な対策と技術的な対策など,具体的に問題を解決する方法を答えることを要求します。記述式ですので,曖昧ではない,しっかりとした知識が必要であり,少しハードルは高いかもしれません。合格率としては50%程度を想定しています。

Q6 医用画像情報専門技師には,どのような業務や役割が求められるのでしょうか。

奥田 医用画像情報専門技師には,PACSの導入やその管理・運用を担当する責任者としての役割が期待されます。それには,DICOMやHL7などの標準規格の知識,法令に関わる理解,現状の分析や企画・提案ができることが求められます。具体的には,画像情報システムに関して的確な仕様書を作成できる,あるいはベンダーやメーカーからの要求,仕様書を読み取って対応できること,さらに,電子カルテなどとの連携やPACSの運用・保守管理,情報管理がきちんと行えること,情報の適切な抽出,分析,教育研修,学術研究ができること,などが必要になるでしょう。

Q7 育成事業の方向性についておうかがいします。

奥田 現在は日本放射線技術学会でPACSスペシャリストセミナー を年2回各地で行っていますが,今後は機構としても医学放射線学会やJIRAの協力を受けてセミナーを行っていく予定です。日本医療情報学会と連携して開催することで,単独で行うよりも,幅が広くて深い,レベルの高いセミナーができるのではないかと期待しています。

Q8 これから受験される方へのメッセージをお願いします。

奥田 放射線検査や画像診断に携わる診療放射線技師や医師は,患者さんの医療情報を預かり,それを安全に届ける役割を担っています。そのためには,検査や診断を支える画像情報システムを,定められた法令や標準規格,ガイドラインなどに則って構築,管理・運用し,医療情報を正しく安全に扱う体制が必要です。さらに,今後,地域医療連携が進めばネットワークでの情報交換や共有が行われて,正確な医療情報の管理はひとつの病院だけの問題ではなくなります。
システム構築のサイクルは,5年から10年と言われています。これは,5年先,10年先を見てシステムを構築することが必要という意味でもあります。だからこそ,医用画像に関する専門的な知識を持った人材を育成し現場で活躍できるような体制を今から整えて,明日のために準備することが重要だと考えています。

(文責inNavi.NET)

一般社団法人 日本医用画像情報専門技師共同認定育成機構
東京都文京区本郷3-42-5
TEL 03-3818-4003
●プロフィール
奥田 保男 氏
岡崎市民病院 情報管理室 室長補佐
1982年名古屋大学医学部附属診療放射線技師学校卒
岡崎市民病院放射線科を経て,同情報管理室室長補佐。 
<役職>
日本放射線技術学会-医療情報分科会会長
日本IHE協会理事
HELICS協議会副会長 
DICOM委員会臨床アドバイザー 
<著書>
IHE入門
IHE超入門
超実践マニュアル 医療情報
放射線システム情報学-医用画像情報の基礎と応用


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