巻頭インタビュー 「日本救急撮影技師認定機構」 坂下惠治 代表理事に聞く
2010年2月に発足
2010-8-4
坂下惠治氏
2010年2月19日,「日本救急撮影技師認定機構
」が発足しました。
救急診療で重要性が増す一方の画像診断において,診療放射線技師は安定して最適な画像情報を提供するという大事な役割を担っています。今回の認定制度によって,救急診療にかかわる放射線技術の向上と普及を図り,チーム医療のメンバーとして社会に貢献することを目指しています。
日本救急撮影技師認定機構設立に奔走し,この度初代の代表理事に就任された坂下惠治氏に,これまでの経緯や目的などについてお話しをうかがいました。
Q1 救急撮影の専門技師を認定することはなぜ必要なのでしょうか?―救急現場の現状など,医療界の背景も踏まえて
坂下 今日の救急医療における画像診断は,画像診断機器の性能向上によって損傷部位の詳細な把握や治療方針の決定に用いられるなど,その重要性はますます増加する傾向にあります。加えて,昼夜の別なく患者を受け入れる救急医療施設で働く診療放射線技師(以下,技師)は,医師はじめ他の医療職と意志疎通を図りながら連携して診療にあたる必要があります。
したがって,救急診療に携わる技師は少なからず救急診療に関する知識が必要であり,患者の重傷度評価や治療方針の決定に影響を及ぼす画像を撮影するという重要な役割を担っています。
日本救急撮影技師認定機構は,救急診療に関わる放射線技術の領域でその技術を集約し,発信する取り組みを行います。これらを通じて最新の適正な放射線技術を普及し,外傷や救急疾患に罹患された方々に貢献することを目的としています。
Q2 いつ頃から構想され,どのような経緯を経て発足までに至ったのでしょうか?
坂下 平成18年日本放射線技術学会
のST認定制度委員会に救急撮影専門技師認定制度が発足しました。同時に,日本救急医学会
および日本臨床救急医学会
に横田順一朗先生を通じて協力を依頼しました。日本医学放射線学会
には中村仁信先生を通じて協力を依頼し,日本放射線技師会
には北村善明専務理事(当時,現会長)を通じて協力依頼を行い,認定機構設立に向けた準備委員会の活動が始まりました。
その後,現在の構成団体となり今日の設立に至りましたが,その中に救急の撮影技術を扱う認定であるがゆえの重要な要素がありました。一つは,救急撮影セミナーの実施であり,一つは全国に広がるおよそ100名にも及ぶ各委員の委嘱でした。
救急患者の撮影技術に関する情報が本邦では普及しておらず,それに関する研究会や学会活動がないため,その技術をお知らせするためのセミナーが必要でした。また,その受講者や応募者を中心に協力委員を募り,機構の運営メンバーを依頼することができました。このアイデアをサポートしていただいたのは,日本放射線技術学会ST認定制度小委員会の大西英雄氏と土井司氏でした。
Q3 どのようなコンセプトで,何を目的とするのか具体的にお聞かせください。
坂下 日本救急撮影技師認定機構は,救急撮影認定技師を認定することにより,進歩の著しい救急医療に関する知識や技術を救急診療に携わる技師に普及し,個々の患者に対し適正な放射線診療を提供することができる技師を育成します。
認定技師に要求する事柄は,継続的な救急診療と救急撮影に関する自己研鑽と,臨床経験としての症例報告および症例検討を,少なくとも所属する施設内で継続して実施することです。これにより,いわゆる臨床能力を育成していただきたいと思っています。認定技師は所属する施設において,救急診療に従事する技師の指導的役割を担います。
これらの取り組みにより,救急医療における画像情報の質向上を実現し,他の医療職と協力して救急患者の予後改善を目指します。さらには,救急診療に特化した放射線技術を考案し,救急診療に貢献したいと考えます。
救急医療における放射線技術は未熟であり,多くの研究課題を残しています。この認定制度が定着することにより,救急診療における放射線技術がさらに高度化し,速やかに普及することを願っています。
Q4 救急撮影認定技師にはどのような業務や役割,スキルが求められるのでしょうか?
坂下 救急撮影認定技師は,救急診療における放射線技術の質を担保するための技術や知識を施設内で広める指導的役割を担っていただきます。すなわち認定技師は,救急診療とそこで必要とされる特徴的な画像所見を知り,各種の撮影を適切な放射線技術を用いて安全に実施できる能力を要求されます。
たとえば,気管内挿管チューブを留置した際に行う確認目的の胸部X線撮影であれば,その目的はチューブの位置確認と合併症の検索ですから,チューブの正しい位置はどこで,合併症にはどのようなものがあるか,その所見はどのようなものか,その所見を得るための適切な撮影技術を知っている必要があります。
項目として挙げると,次の4項目になります。
1. 救急診療における撮影技術
2. 救急診療の知識
3. 医療安全に関する知識,技術
4. 救急放射線技術を指導・教育する能力
Q5 組織としての特徴はありますか?
坂下 本機構は日本救急医学会
,日本臨床救急医学会
,日本医学放射線学会
,日本放射線技術学会
の4学会より構成されています。救急診療に用いる放射線技術はその重要性は認識されていましたが,学会内で専門部会を設置したり,全国的に救急撮影に関わる研究会が広がる状況ではありませんでした。実際に機構を設立し,恒常的に機構を運営することに関する問題点はそこにありました。そこで,全国の救急診療を担当しておられる方々に本機構の各委員会に属していただき,運営に協力していただくようお願いしました。
今後,必要に応じて,全国におられる委員会の方々に機構主催の講演会を各地で企画・開催していただき,さらには救急放射線技術に関する研究会も,可能であれば立ち上げていただきたいと思っています。
Q6 受験資格,試験内容について教えてください。
坂下 救急撮影認定技師は,初期から三次までのすべての医療機関に勤務する診療放射線技師を対象にしています。技師歴が5年以上としているのは,撮影に高度な技能を要求するのではなく,救急診療に用いる診断機器を一通り経験する年数を考えています。加えて,救急診療従事歴を3年以上としています。総合病院や大学附属病院などの大規模病院では,二次もしくは三次救急診療を行っている施設が多くありますが,そこに働く技師は,救急診療に従事することは当直の時のみで,月に数度しか担当しない場合が多くあると思いますが,本機構では,そのような場合であっても,救急診療の従事歴として認めることにしています。
このような基準と,必要とするポイントを取得することにより認定試験を受験し,筆記試験に合格した場合には臨床実習をしていただき,所定のレポート提出をもって救急撮影技師認定に至ります。レポートは専門家により査読をさせていただきますので,多少の修正が必要となる場合もあります。臨床実習は,機構が指定する病院における実習が2日間,ご自身の勤務する病院が8日以上となっています。
Q7 第1回目の試験予定や今後の日程はどうなっていますか。
坂下 第1回の認定試験は,下記の日程で開催されます。
平成23年3月6日(日) 13時~
申込期間:平成23年1月4日~2月18日(必着)
申込方法:機構事務局に必要書類を添え郵送
費用:試験費用 10,000円
東京会場:読売理工医療福祉専門学校
大阪会場:東洋医療専門学校
認定試験に合格しますと,前記の臨床実習を経て,認定技師として機構より認定されます。
認定試験は,現状では原則として東京と大阪で,年一回の実施を考えています。
Q8 これからの目標や抱負をお聞かせください。
坂下 救急領域の放射線技術は多くの検討課題を残しています。今後,日本救急撮影技師認定機構は,各地の多くの救急医療施設に向けて認定技師を輩出していきます。それぞれの施設で行われる臨床経験に基づく症例検討や臨床研究をもとに,救急診療に有効な技術が蓄積され,速やかに広く伝播することを願います。それにより,救急診療における画像情報が適正化され,救急患者の予後改善に必ずや貢献できると信じています。
(文責 インナビネット)
日本救急撮影技師認定機構事務局
〒598-0048
大阪府泉佐野市りんくう往来北2-24
大阪府立泉州救命救急センター内
TEL 072-464-9911 FAX 072-464-9941
[email protected]
http://www.jert.jp/
●プロフィール
坂下 惠治 氏
独立行政法人りんくう総合医療センター 泉州南部卒後臨床シミュレーションセンター
教育研修企画調整監
昭和55年 | 近畿医療技術専門学校放射線科 卒業 | |
大阪大学医学部附属病院中央放射線部 | ||
昭和60年 | 国際電信電話株式会社大阪支社 | |
平成4年 | 大和脳神経外科病院放射線科 | |
平成6年 | 大阪府立泉州救命救急センター 放射線科 技師長 | |
平成19年 | 大阪教育大学大学院教育学研究科 卒業 | |
平成27年〜 | 現職 | |
平成22年〜30年3月 | 日本救急撮影技師認定機構代表理事 |
<役職> | ||
社団法人日本放射線技術学会 評議員 | ||
社団法人日本放射線技術学会 スーパーテクノロジスト認定制度委員会 | ||
救急医療専門技師認定班 班長 | ||
社団法人大阪府放射線技師会副会長 |