VARIAN RT REPORT

2023年9月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.17

前立腺シード治療における治療計画装置VariSeedの有用性

石山 博條(北里大学病院放射線治療科)

はじめに

北里大学病院では2004年から前立腺シード治療を導入し,以来2000例を超える経験を積んでいる。導入当初から数年間は他社の治療計画装置を使用していたが,2007年に現在の「VariSeed」(バリアン社製)に乗り換えた。当時の泌尿器科担当医が米国で,「車に例えればVariSeedはラグジュアリーカーだ」という声を聞いたことに後押しされた形であった。VariSeedは確かに操作性も良好で信頼性が高く,シード治療の世界では当時から主流の装置であり,現在も継続して使用している愛機である。

前立腺シード治療の現状

前立腺がんの放射線治療において小線源治療の有用性は明らかであり,複数のランダム化比較試験で生化学的非再発率に関して外部照射より優れていることが証明されている。特にASCENDEトライアルと呼ばれる,外部照射にシード治療を加えるか加えないかでランダムに比較した研究は,10年まで経過観察期間を延長した結果も公表されており,エビデンスレベルも高い1)。遡及的な解析であるが,小線源治療を加えることで全生存率が改善するとの報告2)や,手術と比べても前立腺がん死や遠隔転移発生率において優れているとの報告3)もある。また,海外からの報告だけでなく国内からの前立腺シード治療のエビデンスも数多く4),5),特にJ-POPSという数千人規模の前向き研究で良好な成績が示されていることは,日々の臨床で患者にシード治療を勧めるのに強い後押しとなる。
小線源治療には,使用する線源の線量率によって高線量率組織内照射(HDR)と低線量率組織内照射(LDR)がある。治療成績に大きな違いはないが,LDRは実質1~2時間で治療が終了できる点でHDRより優れている。日本の場合は,法律の問題で挿入後数日間の入院が必要であるが,海外では日帰り治療も可能である。

VariSeedの有用性

上記のように,シード治療はすでに揺るぎない地位を確立した治療法であるが,それを支える治療計画装置の重要性は論をまたない。まず重要な機能は,1つ1つの線源から照射されるγ線の分布を正確に線量分布図に反映させることであり,米国医学物理学会から公表されている各線源のデータが正確にインプットされている必要がある。新たに発売される線源に関しても,データのアップデートが迅速に行われる必要がある。VariSeedはまず,この点で安心感がある。図1に示すようにユーザー自ら線源データを確認することが可能で,点線源モデルか線線源モデルかを選択することもできる。
良好な操作性も特長であり,大学病院など担当者が頻繁に変わるような環境でも短期間でスムーズに扱えるようになる。一方で,ベテラン放射線科医の細かなこだわりに応える機能も充実しており,辺縁部に刺入するニードルと中心部に刺入するニードルを色分けして認識しやすくしたり,斜めに挿入されたシードの線量分布を正確に反映する機能を持っている。さらに,以前は1スライスずつ囲んでいた尿道を,矢状断像で速やかに描画できたりといった機能が充実している。当然,三次元的な線源配置も把握しやすい(図2)。
シード治療で重要な作業の一つに,挿入後のCT画像で最終的な線量分布図を作成し評価する「ポストプラン」があるが,ガイドラインなどで必須事項として挙げられているものの,それなりの業務負担となるため,簡単かつ便利なソフトウエアの存在は欠かせない。
まず輪郭形成であるが,外部照射のソフトウエアで培われた機能が充実しており,ストレスを感じさせない。MRIなどのほかの画像の重ね合わせも簡単である。また,CT画像上で挿入されたシードを1つ1つ認識する作業も,VariSeedはオートマチックに行ってくれる(図3)。この時,シードが複数個重なって挿入される場合があり,なかなか判別するのに苦心することが多いが,VariSeedは重なっている線源を自動的に認識して操作者に1つ1つ示してくれる機能もあり,助かっている。当院では術中に移動型デジタル式汎用一体型X線透視診断装置(O-arm型透視装置)を使ってCTを撮影し,その場で線量分布図を作成する方法をとっているが,手術中なので長々とポストプランの時間が取れない。VariSeedのさまざまな機能によりスムーズな線量分布作成が可能であり,質の高いシード治療に大きく貢献してくれている。

図1 Source Viewerによる線源データの確認

図1 Source Viewerによる線源データの確認

 

図2 線源挿入後の三次元的な線源配置 超音波画像のスライス位置も重ねて表示できる。

図2 線源挿入後の三次元的な線源配置
超音波画像のスライス位置も重ねて表示できる。

 

図3 VariSeedでは自動で線源位置を認識し線量分布を作成

図3 VariSeedでは自動で線源位置を認識し線量分布を作成

 

おわりに

2003年に国立病院機構東京医療センターで始まった前立腺シード治療は,これまで国内で約5万400例に適用された標準治療の一つである。しかし,2011年の年間3794例のピークを過ぎてから減少傾向が続き,2021年には2098例とピーク時の半分近くまで落ち込んでいる。
歴史的に前立腺がんは,新しいモダリティが最初に導入されることの多い疾患であり,ロボット手術や粒子線治療,最近ではMRI一体型放射線治療装置などに患者が移行している可能性が考えられる。さまざまなモダリティが利用可能であることは,患者にとって選択肢が増えるという意味で有益である。ただし,それぞれのモダリティがしっかりしたエビデンスを構築していかなければ,逆に前立腺がん診療のレベル低下につながる危険がある。
現状のようにさまざまな治療法がある中で患者に選択してもらうには,結局のところ科学的なエビデンスを蓄積していくしかないのであるが,シード治療はその道を進んできたし,これからも同様である。シード治療界のラグジュアリーカーたるVariSeedは,その強力なパートナーとしてお勧めである。

●参考文献
1) Oh, J., et al. : An Updated Analysis of the Survival Endpoints of ASCENDE-RT. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 115(5): 1061-1070, 2023.
2) Miszczyk, M., et al. : Brachytherapy boost improves survival and decreases risk of developing distant metastases compared to external beam radiotherapy alone in intermediate and high risk group prostate cancer patients. Radiother. Oncol., 183 : 109632, 2023.
3) Kishan, A.U., et al. : Radical Prostatectomy, External Beam Radiotherapy, or External Beam Radiotherapy With Brachytherapy Boost and Disease Progression and Mortality in Patients With Gleason Score 9-10 Prostate Cancer. JAMA, 319(9): 896-905, 2018.
4) Ito, K., et al. : Nationwide Japanese Prostate Cancer Outcome Study of Permanent Iodine-125 Seed Implantation (J-POPS): First analysis on survival. Int. J. Clin. Oncol., 23(6): 1148-1159, 2018.
5) Katayama, N., et al. : Biochemical outcomes and toxicities in young men with prostate cancer after permanent iodine-125 seed implantation: Prospective cohort study in 6662 patients. Brachytherapy. 22(3): 293-303, 2023.

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