第33回日本コンピュータ外科学会大会で若手研究者を表彰するCAS Young Investigator Awardを発表
2024-11-12
若手研究者を表彰するCAS Young Investigator Awardを発表
第33回日本コンピュータ外科学会大会〔理事長:佐久間一郎氏(東京大学副学長/大学院工学系研究科)〕が2024年11月8日(金)〜10日(日)の3日間にわたり,東京医科歯科大学と東京工業大学の統合により10月に誕生した東京科学大学の湯島キャンパスM&Dタワー(東京都文京区)で開催された。大会長を中島義和氏(東京科学大学生体材料工学研究所情報医工学分野)が務め,大会テーマである「可能を創る—Creating future ability—」の下,特別講演企画やシンポジウム,一般演題,機器展示などが行われた。演題数は152に上り,会場には250名を超える参加者が集まった。
2日目となる9日(土)14時からは,2023年度CAS Young Investigator Awardの授賞式および定時社員総会が行われた。冒頭,来賓として参議院議員の古川俊治氏が挨拶に立った。同学会の会員であった古川氏は,第20回大会で実行委員長を務めたほか,近年まで監事を担うなど,長年学会活動に取り組んできた。古川氏は,「医療機器の臨床研究に問題意識を持って議員となり,未承認医療機器の臨床研究を行える環境づくりに取り組んできた。これからも新しい医療機器の研究・開発側と行政の橋渡しをしていく」と挨拶した。
授賞式が行われたCAS Young Investigator Awardは,コンピュータ外科領域において今後の活躍が期待される若手研究者に対して贈られる賞で,2003年に日立メディコの支援を受けて創設され,その後も企業による支援を受け開催されてきた。今回は企業によるスポンサードはなくなったが,日立メディコ代表取締役社長や取締役会長,日本画像医療システム工業会(JIRA)会長などを歴任した猪俣 博氏からの寄付によりアワード事業が継続されることになった。授賞式に先立ち,学会から猪俣氏へ感謝状が贈られた。挨拶した猪俣氏は,「CAS Young Investigator Awardには第1回からかかわり,大変思い入れがある。アワードを授賞した先生方が着々と業績を重ねて活躍し,アワード事業が各界から支持されていることを嬉しく思う」と述べた。
2023年度CAS Young Investigator Awardは,Gold賞に良元俊昭氏(徳島大学消化器・移植外科)と津村遼介氏(産業技術総合研究所)の2名が,Silver賞にSoufi Mazen氏(奈良先端科学技術大学院大学)と横山昂佑氏(神戸大学大学院医学研究科)の2名が選ばれた。授賞式のあと,受賞者による講演が行われた。
Gold賞を受賞した良元氏は,直腸がんに対する経肛門的アプローチにおけるホログラムを組み合わせた術中定位ナビゲーションの有用性について報告した。MRIを用いたナビゲーションと,術中視野に重ねて表示し立体構造の把握を支援するホログラムを活用することで,正確に,リアルタイムかつ3Dで解剖を把握しながら安全に手術を行えることを,症例を示しながら説明した。同じくGold賞を授賞した津村は,自身の経歴を述べた上で,産業技術総合研究所で取り組んでいる研究を紹介した。津村氏は現在,医療の自動化・簡便化をめざし,超音波検査や聴診の自動化,脊髄損傷患者が簡便に排尿管理できるデバイスの開発などに取り組んでいることを説明し,今後は医療機器の実用化への橋渡しができる研究者になりたいとの抱負を述べた。
次いでSilver賞を受賞したSoufi氏が登壇し,全身筋骨格自動解析システムの開発を報告した。Soufi氏は,深層学習モデルを用いた筋骨格セグメンテーションのこれまでの研究成果を紹介した上で,現在は全身領域の筋骨格解析が可能なAIモデルで大規模データベースを自動解析するツールの開発を進めており,筋骨格の健康に関連する新しい知見の獲得につながるだろうと述べた。最後にSilver賞を受賞した横山氏がビデオ講演を行い,直感的に操作可能な内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)プラットフォームの開発について報告した。同研究では,ESD手技の難易度低減に必要な機能を解明するため,マルチベンディングな内視鏡や3Dカメラなどの有用性について検証している。被験者試験を行った3Dカメラについては,2Dと比べて特定のタスクで有意差が認められることなどを紹介した。
続いて開催された総会では2023年度の事業報告や決算承認,2024年度の事業計画の報告などが行われ,日本開催を予定しているACCAS(Asian Conference on Computer-Aided Surgery)2025,CARS(Computer Assisted Radiology and Surgery)2026に向けて取り組みを進めることや,新たに学会連携委員会を発足し,他学会との連携促進を図ることなどが報告された。
総会後に佐久間理事長がインタビューに応え,現在の課題や今後の取り組みなどについて,次のように話した。「医療現場で実際にロボット技術やAIが使われるようになっており,臨床応用が進む中での課題の洗い出しや,手術全体の複雑な工程を解析して,医療安全や教育,医療機器開発につなげていくことが現在の重要な研究課題となっている。治療支援画像においては医用画像領域と外科領域のバインディングが求められるため,日本医用画像工学会との連携も強化していく。オープンイノベーションが苦手な日本は,開発した技術のビジネス展開において欧米から後れをとっているが,ビジネスへの意識を持つ若手研究者も増えており,また,デバイスラグも解消しつつあるので,画像診断機器メーカーにも技術開発における産学連携の価値を理解して投資につなげてもらい,産学連携を次の段階に進めていきたい」
次回,第34回日本コンピュータ外科学会大会は,2025年11月21日(金)〜23日(日)に国立がん研究センター新研究棟(東京都中央区)で開催される。大会長は伊藤雅昭氏(国立がん研究センター東病院副院長,大腸外科/医療機器開発推進部門)が務める。大会では出口まで見据えて議論することをめざし,大会テーマを「Acceleration toward the Exit—工学×医学 魂のぶつけ合い—」に定めた。
●問い合わせ先
第33回日本コンピュータ外科学会大会運営事務局
株式会社インターグループ
TEL 03-5549-6916 FAX 03-5549-3201
E-mail:[email protected]
https://jscas33.jp