第43回医療情報学連合大会が「医療情報の安全な流通と活用」をテーマに開催(2)
2023-12-26
会場は六甲アイランドの神戸ファッションマート
2023年11月22日(水)〜25日(土)に開催された第43回医療情報学連合大会(第24回日本医療情報学会学術大会)では,25日A会場に大会長講演「電子カルテをベースとする臨床研究基盤の構築を目指して」が行われ,松村泰志氏(国立病院機構大阪医療センター)が登壇した。座長は小笠原克彦氏(北海道大学)が務めた。松村氏は,大阪大学医学部附属病院(阪大病院)で電子カルテシステムの構築を進める中で,データを収集・管理して臨床研究の基盤とするべく手掛けた,DWH(Data Warehouse),ダイナミックテンプレートによる診療記録データの構造化,診療記録文書統合管理システムであるDACS(Document Archive and Communication System)の導入と部門システムの記録のデータ収集,自然言語処理技術によるフリーテキストの構造化データへの変換の取り組みなどを概説した。その後,多施設への展開として阪大病院を中心に構築した臨床研究ネットワークを構築したが,ここでもテンプレートを活用したCDCS(Clinical Data Collection System)を構築,電子カルテから必要な情報を抽出するCRFレポータ,検体検査結果データの取り込み,画像情報の取得,サンプルID発番システムなどを開発し,多施設の臨床研究を進めた。臨床研究ネットワークは2012年からスタートし,CRFレポータは19の阪大関連病院の電子カルテに組み込み,2023年8月現在で47件の臨床研究で活用されていることを紹介した。さらに,長期のアウトカムデータを得るための試みとして,PHR(Personal Health Record)での長期フォローアップデータの収集とそのための新しいテンプレートシステムの開発,阪大病院と三井住友銀行による実証事業などを紹介した。最後に,松村氏は未来の医療情報システムへの期待について,「1患者の診療記録が施設の壁を越えて一連の記録として管理され,医療従事者が閲覧できる仕組みであってほしい。そして,真のアウトカムに基づいて治療が評価できる仕組みであってほしい」と述べて講演を締めくくった。
25日午前には,A会場にてKeynoteレクチャー3「政府の創る医療DX基盤」が行われた。オーガナイザーは黒田知宏氏(京都大学),座長は松村氏と黒田氏が務めた。
最初に「医療DXの取組と全国医療情報プラットフォームの今後」と題して,田中彰子氏(厚生労働省医政局 特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室)が講演した。田中氏は,データヘルス改革から始まるこれまでの医療DXの取り組みの経緯を概説し,最新の動向を含めて報告した。データヘルス改革は,コロナ禍を契機に取り組みを加速させる集中改革プランがスタート,オンライン資格確認等システム,電子処方箋,PHRの構築を核とした3つのACTIONに集中して進められてきた。2022年に閣議決定された骨太の方針では,「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化等」および「診療報酬改定DX」が盛り込まれ,政府の医療DX推進本部が発足し,2023年6月には医療DX推進の工程表が策定された。電子カルテ情報の標準化等については,3文書(診療情報提供書,退院時サマリ,健康診断結果報告書)6情報〔(傷病名,アレルギー,感染症,薬剤禁忌,検査(救急および生活習慣病),処方〕を定めて,各ベンダーの対応も進められている。また,標準型電子カルテは,電子カルテ未導入の200床未満の医療機関を対象にしたもので,2024年度中にα版の提供を開始し,2030年までにすべての医療機関で患者の医療情報が共有可能な電子カルテの導入をめざすとした。また,医療機関におけるサイバーセキュリティ対策については,医療法施行規則第14条第2項を新設して医療機関にサイバーセキュリティ確保に必要な措置を講じることが義務付けられた。医療機関は,「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を参照して適切な処置を行うことが求められる。厚生労働省では,医療機関やベンダー向けに対応すべき事項を記載したチェックリストを公開していることなどを説明した。
続いて,島添悟亨氏(厚生労働省保険局 診療報酬改定DX推進室)が「診療報酬改定DXのめざすもの」について講演した。診療報酬改定DXでは,クラウド上に共通算定モジュールを構築し,ここを核として改定内容の反映,疑義照会の対応や公費や資格確認などへの対応を進めることが予定されている。これによって,患者はマイナンバーカードによって保険診療も国や地方の公費負担医療の資格をオンラインで確認でき,医療機関はレセプトコンピュータでアクセスすることで患者負担金情報を受け取り,紙でのやりとりを廃止し電子化することが可能になる。島添氏は,今後,請求業務の省力化のため,併用レセプト方式の拡大や自治体の公費事業の共通化を進めると同時に,そのマスタをベンダー側にも提供することで改定作業にかかわる負担の軽減を進めていくことを紹介した。
最後に,「次世代医療基盤法による医療ビッグデータの利活用の更なる推進について」を日野 力氏(内閣府健康・医療戦略推進事務局 参事官)が講演した。日野氏は,次世代医療基盤法の成立の背景とデータ利活用の現状を振り返り,その後の中間取りまとめを経て2023年5月に改正法が公布されるまでの経緯を概説した。改正次世代医療基盤法では,仮名加工医療情報の作成・提供を可能にしたほか,NDBなど公的データベースとの連結などで研究での利活用の利便性の向上を図った。日野氏は,2024年5月の施行に向けて進めている利用事業者の類型化などの取り組みの現状について説明した。
25日午後のA会場では,産官学連携企画「みんなでつくるセキュリティの医療現場改革に向けて 情報共有体制の重要性」が行われた。オーガナイザーは木村通男氏(川崎医療福祉大学),座長は武田理宏氏(大阪大学)と並川寛和氏(JAHIS)が務めた。医療法の改正で今後医療機関での対応が求められるサイバーセキュリティ対策について,政府(厚生労働省)の取り組みや金融業界で取り組みが進んでいるISAC(Information Sharing and Analysis Center)について,金融機関での実際の取り組みと医療ISAC設立に向けた動向について報告された。
閉会式では,松村大会長,プログラム委員長の黒田氏,実行委員長の武田氏が登壇して挨拶した。松村大会長は,スポンサードセッションを含む多彩なプログラムや機器展示も多くの出展社があり,学会の参加者数も多く充実した学会になったと感謝を述べた。続いて,第28回日本医療情報学会春季学術大会(シンポジウム 2024)の大会長を務める鈴木隆弘氏(千葉大学医学部附属病院企画情報部),第44回医療情報学連合大会(第25回日本医療情報学会学術大会)の大会長の中島直樹氏(九州大学医学研究院医療情報学講座)が登壇し,それぞれの学会の趣旨を説明した。第28回日本医療情報学会春季学術大会は,2024年6月13日(木)〜15日(土)にかずさアカデミアホール(千葉県木更津市)で開催の予定だ。また,第44回医療情報学連合大会は,2024年11月21日(木)~24日(日)に福岡国際会議場(福岡県福岡市)ほかで開催される。
●問い合わせ先
第43回医療情報学連合大会
https://jcmi43.org/
大会事務局
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運営事務局
E-mail: [email protected]
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