コニカミノルタ,第5回X線動態画像セミナーをオンラインで開催
整形外科領域や海外での応用事例が初の報告
2023-6-27
RSNAでの発表報告や海外事例の講演など,
DDRの発展を示す演題が報告された
コニカミノルタ(株)は2023年6月17日(土),第5回X線動態画像セミナーをオンラインで開催した。X線動態画像とは,同社が開発したデジタルX線動態撮影システム(Dynamic Digital Radiography:DDR)で得られる動画像。診断用X線撮影装置「RADspeed Pro」〔(株)島津製作所〕や2022年3月に発売されたコニカミノルタ社製回診用X線撮影装置「AeroDR TX m01」とカセッテ型デジタルX線撮影装置「AeroDR fine motion」を組み合わせて動画像を撮影し,X線動画解析ワークステーション「KINOSIS」で解析処理を行うことで,従来の形態情報に加え,動きの可視化や定量化,動きに伴う信号値変化の抽出などが可能になる。2018年の販売開始から2023年5月までに全世界で150施設以上に導入され,関連論文が60編出版されるなど,海外でもDDRの臨床応用が進んでいる。5回目となる今回のセミナーでは,海外での臨床応用例や整形外科領域からの具体的な事例が初めて報告され,開発初期からDDRに関わる医師や診療放射線技師らによる熱い討論が行われた。
セミナーでは,コニカミノルタの小林一博氏(ヘルスケア事業本部長)の挨拶の後,原田真衣氏(ヘルスケア事業本部モダリティ事業部)が,「臨床におけるX線動画解析ワークステーション『KINOSIS(キノシス)』の現行の活用方法と今後の展望」と題してメーカー講演を行った。原田氏は,2023年4月にリリースしたKINOSISのV1.30の新機能として,汎用計測ツールや気管径(主気管支)の最大値・最小値を計測する「TD-MODE」などを紹介した。
メーカー講演に続き,第1部として山崎誘三氏(九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野)が「Dynamic Chest Radiography for Pulmonary Vascular Diseases:Clinical Applications and Correlation with Other Imaging Modalities」と題して特別講演を行った。座長は,近藤晴彦氏(杏林大学医学部付属病院病院長)が務めた。山崎氏は早期からDDRを用いた胸部X線動態撮影(Dynamic Chest Radiography:DCR)に取り組み,2022年には慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の診断におけるDCRに関する論文がRadiology誌で採択されたほか,第108回北米放射線学会(RSNA2022)でCum Laudeを受賞している。特別講演では,RSNAでの発表内容を基にDCRの概要や肺血流疾患検査における有用性について解説し,将来的には新型コロナウイルス感染症の後遺症(Long COVID)や災害医療,妊婦の肺塞栓疑い症例への検査などに有用ではないかと述べた。
続いて,第2部として3題の研究報告が行われた。座長は高瀬 圭氏(東北大学大学院医学系研究科放射線診断学分野教授)が務めた。1演題目として,昆 祐理氏(聖マリアンナ医科大学救急医学/救命救急センター救急放射線部門)が「救急診療における動態ポータブルX線検査利用の実際」と題して講演した。同大学では,ポータブルでDDRに対応可能なAeroDR TX m01をいち早く導入,昨年行われた本セミナー(第4回)でもAeroDR TX m01を用いたベッドサイドでのDDRについて報告している。昆氏は,救急集中治療領域では患者はさまざまなデバイスを装着され,検査のための移動は大変リスクが高いため,移動せずにベッドサイドで行え,かつ機能的な評価も可能なDDRは大変有用であるとした。また,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や体外式膜型人工肺(ECMO)装着患者,肺塞栓症(PE)患者へのDDR施行例を呈示し,DDRは呼吸療法や呼吸の指標となり得る上,循環の指標にもなる可能性を示唆した。さらに,PEの重症合併症の検出・否定や肺気腫の早期病態の検出などへの有用性にも期待を示した。
次に,平岩宏章氏(名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学)が「X線動態画像を用いた心不全患者の心機能および血行動態評価の試み」と題して講演を行った。平岩氏は,心不全患者20例を対象に,DDRと右心カテーテル検査(RHC)に基づく血行動態パラメータの相関について検討した結果,心不全患者の心機能および血行動態の評価においてDDRの有用性が示されたことを紹介した。さらに,DDRはRHCより低侵襲,低コストで汎用性や簡便性が高く,今後DDRを用いた汎用性のある血行動態予測モデルや心不全予後予測モデルの構築などをめざしていきたいとした。
第2部の最後に,英国での臨床応用について,Thomas Simon FitzMaurice氏(Specialty Registrar in Respiratory Medicine, Liverpool Heart and Chest Hospital)による「Implementation of dynamic digital radiography in research and clinical practice: a UK perspective」と題した講演の収録動画が供覧された。FitzMaurice氏が所属するLiverpool Heart and Chest Hospitalでは,2019年にDDRを導入後,標準作業手順書(standard operating procedures:SOP)を作成して画像診断ワークフローに組み込んだことで,地域の臨床医からのDDRの依頼が増加している。現在は横隔膜麻痺や機能障害の診断・評価などに活用しており,今後,臨床研究で得られたエビデンスを学会や専門誌で積極的に発表することで他領域での適用拡大をめざすとし,その一端が紹介された。
休憩を挟んで行われた第3部では,黒﨑敦子氏(公益財団法人結核予防会複十字病院放射線診療部部長)が座長を務め,臨床報告が行われた。まず,内田真介氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器外科)が,「いかに動態撮影を実臨床へ応用するか~胸部外科診療の現場から~」と題して,同院胸部外科におけるDDRの応用に現状について報告した。同院は2022年にDDRを導入したばかりだが,胸膜癒着や腫瘍浸潤,術前後の横隔膜運動の定量化,術後肺塞栓の検証などへの臨床応用を行っている。内田氏は,DDRの利点として,立位・座位・臥位撮影など自由な体位で,かつ単純X線撮影正面/側面像と比較して低被ばくで評価が可能であり,得られる情報も多いと指摘。胸膜癒着などの動的な評価に加え,肺血流評価が可能なことから,肺塞栓の低侵襲な評価法の一つとして期待できるとした。
続いて,藤枝市立総合病院での動態撮影の応用について3演題にわたって紹介された。同院では,当初呼吸器外科領域での動態撮影をメインに稼動開始したが,透視検査と比較して即時対応が可能で,画像をPACS端末で参照できるなどのメリットもあり,現在は整形外科領域でも多く行っている。同院の大川剛史氏(藤枝市立総合病院診療技術部放射線科)が同席の上,呼吸器外科領域,整形外科領域,診療放射線技師の立場から報告が行われた。
まず,江間俊哉氏(同院診療科呼吸器外科)が登壇し,「呼吸器外科領域における胸部動態撮影の使用経験~術前癒着予測と腫瘍部位鑑別への応用~」と題して,同院での呼吸器外科領域での臨床応用や検討について報告した。江間氏は,呼吸器外科領域でのDDRの主な用途として胸膜癒着の予測と疾患の鑑別を挙げ,そのうち胸膜癒着は手術術式の決定や手術時間の予測に重要な因子であるとした。その上で,同院の64例のデータを基に検討を行った結果,肺血管・腫瘍などの移動という視覚的な評価に加え,患側横隔膜移動量の低下という計測値も癒着予測の一助となる可能性が示唆されたことを紹介した。
次に,整形外科領域の中で特に有用であった「手関節疾患におけるX線動態撮影の臨床応用」について,鈴木重哉氏(同院診療科整形外科)が報告した。手関節は複雑な解剖学的構造を有する複合関節で,手関節痛の診断は臨床所見やMRI検査を基に行われるが,原因疾患の確定が困難な症例も多い。鈴木氏はこれらの概要をまとめ,手関節痛患者に対して行ったDDRに基づいて鑑別や治療選択を行った結果,良好な術後経過が得られた症例を紹介した。また,手外科領域では術中に覚醒した状態で手指を動かしてもらい,腱の状態などを確認する「wide awake hand surgery」を行うケースが近年増加していることを例に挙げ,DDRで自動運動時の骨の動きに関する新しい知見が得られることで,同様の効果が可能ではないかと期待を示した。
最後に,「当院における手関節X線動態撮影法」と題して,診療放射線技師の佐藤恵梨子氏(同院診療技術部放射線科)が手関節のDDRの撮影法や撮影条件などについて報告した。同院では,手関節痛患者に対する手関節動態撮影をルーチン検査として行っており,主に手関節不安定症や尺骨突き上げ症候群が疑われる患者が対象となる。佐藤氏は,撮影時は患者自身に手を動かしてもらうため,事前説明をしっかりと行って検査内容を理解してもらうことが重要であると述べた。また,DDRは胸部領域では多くの先行報告があるものの,整形外科領域ではほとんど報告がないことから,同科では撮影条件の検討を行った。手関節単純X線画像をreferenceとし,撮影時間を変更して入射表面線量をそれぞれ測定,IQFinvとCNRを算出した結果,デフォルト値の撮影では被ばく線量が高めになることが示された。他方で,動きの評価という目的においては,単純X線撮影と同等の画質は不要と考えられるため,撮影時間をデフォルト値の4msから1.6msに短縮し,同科での撮影条件として設定したことが紹介された。
以上の講演に続き,第4部として総括が行われた。長谷部光泉氏(東海大学医学部医学科専門診療学系画像診断学領域教授)が座長を務め,第1部から第3部までの座長を務めた3氏に加え,工藤翔二氏(公益財団法人結核予防会代表理事),井上義一氏(一般財団法人大阪府結核予防会大阪複十字病院顧問),權 寧博氏(日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野教授),田中利恵氏(金沢大学医薬保健研究域保健学系准教授),由地良太郎氏(東海大学医学部付属八王子病院診療技術部放射線技術科)が登壇した。
冒頭で座長の長谷部氏が,「本セミナーは回を重ねてきたが,今回は新たな臨床的知見の報告などがあり,フェーズが変わったと感じる」と述べたように,今回のセミナーでは,RSNA受賞演題に基づく報告や英国での臨床応用など,海外でのDDRの広がりを示す報告が行われた。第2部の座長を務めた高瀬氏は,FitzMaurice氏の報告について,生理学的な解析を含め,DDRにはより大きな可能性があることが示されたと評価した。また,近藤氏は,新たに登場したポータブル撮影装置などを用いた症例のフィードバックが得られれば,ピットフォールの解消などにつながるのではないかと述べた。さらに,DDRは開発当初より整形外科領域への有用性が期待されていたが,今回初めて具体的な臨床報告が行われたことを受け,第3部の座長を務めた黒﨑氏は,自身も監修を務めるDDRのデジタル症例集「DDRAtlas」において,呼吸器領域に加えて,整形外科領域でも症例を蓄積していきたいと展望を述べた。また,權氏は呼吸器外科医の立場から,第2部で平岩氏が示したように,DDRがより簡便な検査法として臨床応用されることへの期待を示した。
一方,撮影を担う診療放射線技師にとって,機能評価に有用な動画像を得るには高難度の技術が要求される。由地氏は,DDR第1号機から撮影に携わってきた経験から,「DDRは患者の負担が少なく,医師にとってオーダーしやすい検査だが,診療放射線技師にとっての簡便性も重要となる。また,特に整形外科領域では患者に自動してもらうため,患者とのコミュニケーションがポイントとなる。被ばく線量と再現性維持の兼ね合いなども考慮して,撮影手順を標準化する必要がある」と述べた。また,田中氏はDDRに関する情報を発信・共有するユーザー会が開催されていることを紹介,各診療科と放射線診療部門が協力し,撮影手技プロトコールを作り上げていきたいとした。さらに,保険収載についても触れられ,高瀬氏は「診断に応用可能な精度の動画像を得るには一定の手間を必要とするため,人件費などのコストが確保されないと施設としては臨床応用しづらい面がある。そのため,当初は例えばICUでの呼吸機能変化の観察など,限られた領域で有用性を示して保険収載を実現し,そこから対象範囲を拡大することも可能ではないか」との見解を述べた。
最後に,井上氏と工藤氏による総評が行われた。井上氏は,「動態撮影の保険収載が実現すればデータが蓄積され,用途の広がりが期待できる」とした上で,「DDR(Dynamic Digital Radiography)の『R』は,『Revolution』のRとも言えるのではないか」と述べ,今後の発展にあらためて期待を示した。また,工藤氏は,今回のセミナーでは山崎氏の講演や海外での臨床応用に関する報告などもあり,日本発のDDRという技術が世界的に医療の発展に貢献していくことに期待したいと述べ,セミナーを締めくくった。
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