医療放射線防護連絡協議会が第33回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催
「放射線被ばく線量を考える」をテーマに3年ぶりの現地開催
2022-12-12
3年ぶりの現地開催となり,熱い討論が行われた。
医療放射線防護連絡協議会は,第33回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を2022年12月9日(金)に(株)千代田テクノル本社ビル(東京都文京区)で開催した。同協議会の年次大会として毎年12月に開催される同シンポジウムは,新型コロナウイルス感染症の影響で2020年,2021年はオンラインで開催されたが,今回は規模を縮小しつつ3年ぶりの現地開催となった。「放射線被ばく線量を考える」をテーマとした講演やシンポジウムに続いて全登壇者と参加者による恒例の総合討論が行われ,医療従事者や行政,研究機関などの関係者から率直な意見が寄せられた。なお,司会進行は菊地 透氏(同協議会総務理事)が務めた。
同協議会会長の佐々木康人氏の挨拶の後,教育講演として黒澤忠弘氏(産業技術総合研究所)が「線量評価方法の動向」について講演を行った。黒澤氏は,ICRU(国際放射線単位測定委員会)Report95「Operational Quantities for External Radiation Exposure」で新たに示された実用量の定義について解説した。
続く高橋信次記念講演では,米原英典氏(原子力安全研究協会)が登壇し,「我が国の国民線量の算定*生活環境放射線第3版の概要*」と題して講演を行った。「生活環境放射線(国民線量の算定)」(原子力安全研究協会発行)は,1992年の初版以降,2011年12月に新版,2020年11月に第3版が発行されている。第3版の編集委員長を務めた米原氏は,第3版の特徴として,新版では掲載が見送られた2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うデータが盛り込まれ,事故後や復旧期の住民の外部被ばくや作業者の被ばくデータなどがまとめられていることを紹介した。さらに,医療被ばくについて,国民一人当たりの平均線量は過去10年間で低減しているものの,世界の平均値との比較では依然として高いレベルにあると指摘した上で,線量の最適化が重要ではないかと述べた。
休憩を挟んで,「今後の線量評価を考える」をテーマに古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,各分野から3名のシンポジストが講演を行った。まず,医療領域から大野和子氏(京都医療科学大学)が登壇し,ICRUの勧告に対する医療関係者の反応を基に,医療関係者への実用量に関する教育の不足や計測機器の更新に伴う負担のあり方などについて指摘した。続いて,原子力領域での状況について横山須美氏(藤田医科大学)が解説を行い,原子力領域では中央登録センターにおいて原子力放射線業務従事者の線量データなどを一元管理する体制が整備されていることを紹介した。最後に,個人放射線被ばく線量測定業界の立場から,個人線量測定機関協議会(個線協)の篠崎和佳子氏(千代田テクノル)が講演を行った。個線協は測定サービス機関相互の技術的協議団体で,産業テック(株),千代田テクノル,長瀬ランダウア(株),ポニー工業(株)の4社が加盟している。各社が提供する線量測定サービスで使用している線量計は現在の実用量に最適化されているため,新しい実用量の導入により線量の過大/過小評価が生じる可能性がある。篠崎氏はそれに伴う課題を整理し,測定サービス機関として,国内外の動向を注視しつつ線量計の設計やアルゴリズムの変更や使用者・管理者の混乱解消に向けた検討を行っていくとした。
総合討論に先立ち,吉澤道夫氏(日本原子力研究開発機構原子力科学研究所)が指定発言「新しい実用量の検討を進めるには」を行った。吉澤氏は,ICRUの変更は測定のみならず線量体系全体の大きな変更であり,特にエネルギーが低いX線領域では換算線量の値が低くなることを指摘した。その上で,新しい実用量の検討を進めるには,国や事業者,線量測定サービス機関などのステークホルダー同士の連携や国際的な動向を考慮したロードマップの策定が必要であり,特に放射線審議会など国の積極的な関与が重要だと述べた。
最後に行われた総合討論では,各講演に対する多くの質問や意見が登壇者や参加者から寄せられた。特に,医療従事者の個人線量管理について,医師は施設間の異動が多く,また自身の被ばく線量測定結果を持たずに異動することから,被ばく線量を積算で理解している者は少ないという現状が報告され,個人被ばく線量の一元管理システム構築の必要性が改めて指摘された。なお,本シンポジウムは2022年12月20日~2023年1月6日までWeb配信を予定している。
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