訴訟社会におけるMRI検査の問診を考える「第4回 MRI安全Webワークショップ」が開催
2022-6-27
トラブルを防ぐための問診を考えるワークショップ
一般社団法人安全なMRI検査を考える会は2022年6月25日(金),「トラブルを防ぐための問診を考える 訴訟社会におけるMRI検査」をテーマに,「第4回 MRI安全Webワークショップ」を開催した。医療機関は医療過誤など多くの訴訟リスクを抱えている。放射線部門においても,MRI検査は,非対応体内植込み型デバイスや入れ墨など禁忌の多い検査であり,事故が発生するリスクも高い。そこで,トラブルを防ぐための問診が重要となる。今回は,問診のポイント,トラブルを防ぐための体制づくりなどを考える機会となった。
最初に司会進行を務める土`井 司氏(高清会高井病院)が,患者のスキルが向上し,医療機関に対する要求が高まっていることにより,医療者はていねいな検査説明,問診により誠意を示すことが大事であると指摘。病院全体で安全管理に取り組むこと,MRI検査の一次問診,検査説明が重要であることに言及して,ワークショップ開催のねらいを述べた。
また,同会の発起人の一人である後藤和久氏〔元・キヤノンメディカルシステムズ(株)〕が,自身がMRI検査を受けた経験を紹介した。後藤氏は,検査着に着替えた後に問診が行われたとし,MRI検査の禁忌の患者ならば,仕事を休んで検査を受けに来たのにもかかわらず,着替えた後に検査を受けられないこともありうるとして問題を提起した。さらに,高橋順士氏(虎の門病院)が,これまでに経験したインシデントについて報告し,検査後にMRI非対応の体内植込み型デバイスの使用患者であることがわかった事例などを紹介した。
一方,土橋俊男氏(令和あらかわクリニック)は,人工内耳装用者のMRI検査の現状について報告した。土橋氏は,装用者数は増加している一方で,MRI非対応の人工内耳は減っていると説明。しかしながら,医療機関では人工内耳とMRI検査に関する認知度が低く,装用者が検査を受けられない状況が少なくないと指摘した。
この後,視聴者のアンケートを挟んで,高橋光幸氏(横浜栄共済病院)が,同会のMRI安全Web(https://mri-anzen.or.jp )で行ったアンケート結果を報告した。同氏は,検査の適応可能,体内植込み型デバイスなどの装着状況,検査当日の注意事項といったことを検査予約時に確認しているかなどの回答を提示した。
次いで,矢部邦宏氏(山形県立新庄病院)は,大規模病院におけるMRI検査の問診,適合性評価の問題点について説明した。矢部氏は,各診療科の医師がMRIを熟知することが困難であることや,インプラント,デバイスメーカーの添付文書の改訂情報などが放射線部門まで伝わらないといった問題を指摘した。
続いて,平野浩志氏(抱生会丸の内病院)がMRI検査のオーダ画面を用いた医師への啓発の取り組みについて紹介した。平野氏の前所属先である信州大学医学部附属病院では,オーダ内容はすべて医師の責任であるとシステム画面上に表示するようにしており,ペースメーカーや体内金属の有無などをチェックしなければオーダを発行できないようにした。平野氏はこの仕様により,安全性を確保した検査につながると説明した。同じく,大学病院の事例として,土橋氏は,前所属先の日本医科大学付属病院の取り組みとして,全職員を対象とした年1回の講習会,検査前日の事前確認,検査当日の問診票によるダブルチェックなどを紹介した。
さらに,山本晃義氏(戸畑共立病院)は,「現場と病院全体で取り組む医療安全について」と題して発表した。山本氏は,医療安全管理委員会を通じて,MRI検査の安全確保を図っているとし,オーダ発生時の問診・同意書取得,説明書・動画による患者説明,受付事務員・診療放射線技師による検査直前問診という外来検査の流れを解説。安全な検査体制の構築には,医療安全管理委員会と共同作業を行い,医師との情報共有を図ることが重要だと述べた。
このほか,古川博章氏(グランソール奈良)は,検診施設での対応を解説した。同施設では,人間ドックにおいて,MRI説明兼同意書などを事前に送付し,検査当日に受付で記入漏れをチェックしている。加えて,問診時に担当者がヒアリングを行い,検査直前に担当技師が問診を実施している。また,診療所での対策について,村上峰人氏(内田クリニック)が予約受付時のチェックおよび検査依頼書の事前チェックのフローを解説した。
次に,矢部氏が,トラブル防止のための問診票・同意書を提案した。医師の問診・説明後に使用することを前提として,体内金属の発熱リスクなど従来あまり説明されていなかった対策を明記する内容となっている。また,QRコードを付して,MRI検査の説明動画を視聴できるといった工夫を凝らしてある。さらに,コーディネーターを務めた内田幸司氏(情報通信研究機構)は,説明書・問診票の将来像として,施設内の端末を用いた問診システムの開発事例を紹介した。
これらの発表を踏まえて,最後に土`井氏が,トラブルを防ぐ体制として,(1)患者のニーズを考え,患者の目線で対応する,(2)全病院スタッフ間の風通しの良い環境をつくる,(3)医療安全委員会などを含めた安全に関するフレームワークを構築する,(4)ていねいな検査説明と誠意ある対応で患者から信頼を得る,(5)患者への検査説明と同意は効率的かつ的確に,(6)確実な一次問診は安全なMRI検査の第一歩,と6項目を挙げて,ワークショップを締めくくった。
●問い合わせ先
一般社団法人 安全なMRI検査を考える会
E-mail [email protected]
https://mri-anzen.or.jp/