医療放射線防護連絡協議会が第43回「医療放射線の安全利用」フォーラムを開催
医療安全の観点から見たタスク・シフトシェア推進について議論が交わされる
2022-2-24
昨年に続くオンライン開催となり,多くの関係者が視聴した
医療放射線防護連絡協議会は2022年2月20日(日),第43回「医療放射線の安全利用」フォーラムを日本医師会と日本歯科医師会の後援を得てオンラインで開催した。2024年4月に医師の時間外労働の上限規制の適用が開始されるのに伴い,診療放射線技師や臨床検査技師などの医療専門職への一部業務のシフト/シェアが推進されている。今回のフォーラムでは,「医師・歯科医師のタスク・シフトシェアと医療放射線安全」をテーマに,放射線科医や診療放射線技師,看護師など関連する職種が参加し,講演や総合討論などが行われた。なお,同協議会総務理事の菊地 透氏が総合司会を務めた。
フォーラムでは,同協議会会長の佐々木康人氏による開会挨拶に続き,日本診療放射線技師会担当理事/新潟医療福祉大学の児玉直樹氏が「医師・歯科医師から診療放射線技師へシフトする業務の概要」と題して,基調講演を行った。児玉氏は,診療放射線技師へのタスク・シフト/シェア推進に関連する法令などの改正点や,造影剤検査やRI検査の際の静脈路の確保や抜針などの新たに拡大された業務を行うにあたり,事前に行うべき告示研修の流れなどについて解説した。また,2022年1月末時点で基礎研修を8157名,告示研修(実技研修)を611名が修了しており,実技研修については2024年3月までに診療放射線技師の50%の修了をめざすと述べた。最後に,「タスク・シフト/シェアによる業務範囲の拡大は社会からの要請であり,臨床検査技師や臨床工学技士などの他職種に遅れることなく推進していきたい」と述べ,講演を締めくくった。
基調講演に続いて,「タスクシフトと医療放射線の安全利用」をテーマにパネル討論が行われた。まず,日本放射線科専門医会・医会理事長/京都府立医科大学の山田 惠氏が「放射線科医からみた働き方改革」と題して発表した。山田氏は,日本の医療は患者満足度や論文発表数などの点で海外に後れをとっており,その要因として,標準化や専門分化の欠如,縦割りの診療科による弊害などを挙げた。そして,その改善のためには,人材の流動化による標準化などが必要だと指摘した。また,米国のPhysician extenders(PE)のような職種を“競争者”として設置すべきではないかとの私見を述べた上で,医師が従来の自己完結型を理想とする意識から脱却し,完全な分業の下で協力して医療を行うことが患者のメリットにもつながると強調した。
次に,医療の質・安全学会理事長/京都大学の松村由美氏が「医療安全の立場からの期待」と題して発表した。世界保健機関(WHO)が2020年の世界患者安全の日のテーマに“医療従事者の安全”を設定するなど,医療従事者の安全の確保は世界的にも喫緊の課題である。松村氏は,医療従事者の休職や離職は患者にとっても最適ではないケアをもたらすことにつながり,医療従事者の労働環境を守ることは政府の法的・道徳的責任であるとした上で,日本では医師の長時間過重労働が良質で安全な医療の提供の妨げとなっており,医師法などの法律上の整理が必要だと指摘した。また,診療放射線技師へのタスク・シフト/シェアにあたっては,当該手技の訓練や関連する知識の習得に加え,常に学び続ける姿勢が重要になると述べた。さらに,医療は不確実性があるということを念頭に置き,医療従事者が困難に直面した際に乗り越える力やコミュニケーション力を維持するためには,スタッフの意欲や学習能力を生かす能力がある「学習する組織(Learning organization)」を構成することが重要だとした。
3番目に,日本核医学会・核医学看護分科会副会長/倉敷中央病院の原田貴子氏が登壇し,「核医学診療部門における看護師の役割〜当院での現状と取り組み〜」と題して発表した。同院放射線センター核医学部門では,現行法の下で多職種による実施が可能な核医学検査時の問診,RI核種投与などの業務を看護師が積極的に行っている。原田氏は,同部門での多職種協働の現状について紹介し,毎朝のブリーフィングや毎月のミーティングで多職種間の情報共有を行うことで,より安心・安全な検査が提供できるとした。また,複数の職種が互いの専門性を認め合い,協働する職場風土はタスク・シフト/シェアを進める上で重要であると強調した。
最後に,日本診療放射線技師会理事/埼玉県済生会川口総合病院の富田博信氏が「診療放射線技師の立場から考えること」と題して,同院での静脈路確保業務のシフト/シェア推進の過程について紹介した。富田氏は,静脈路確保は熟練が要求される技術であるとした上で,安全なタスクシフトを進めるために同院で検討した留意事項として,医師や看護師などの他職種からの理解,放射線科内スタッフへの意識付け,穿刺技術の習得などを挙げた。また,同院では看護師によるOJTを導入し,告示研修修了者を対象に看護師のIV教育コンテンツの受講や技術チェックリストに基づいた実技試験を経てから実務を開始する体制を整えたほか,院内の穿刺マニュアルを見直し,副作用や神経損傷事故などの発生時の対応を事前に想定・検討するなど,一定の期間をかけて準備を行い,徐々に業務移行を進めていることを紹介した。最後に,診療放射線技師へのタスクシフトにより,看護師の業務を病棟や外来にシフトすることで,医師の業務軽減に貢献しうるとまとめた。
休憩を挟んで,同協議会企画委員長/京都医療科学大学の大野和子氏の進行の下,総合討論が行われた。ダイバーシティ推進・働き方改革検討委員会副委員長/京都大学の木戸 晶氏による指定発言の後,全視聴者が参加した総合討論では,限られた人員の中での業務拡大や責任の増大に対する不安のほか,かつては想定されていなかった穿刺業務などへの戸惑いの声が現場の診療放射線技師から寄せられているとの指摘があった。それに対し,院内での教育などを後押しするため,地域医療介護総合確保基金による補助金の配布などが検討されていることが報告された。さらに,管理区域内に臨床工学士や救急救命士,臨床検査技師などが新たに立ち入ることになるのを受け,放射線安全教育体制の構築の必要性なども指摘された。また,新型コロナウイルス感染症による医療現場の人手不足の経験から,タスク”シェア”により,特定の業務を複数の職種で対応可能な状態にしておくことが非常時のリスク対応になるのではないかとの意見も寄せられた。
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