医療放射線防護連絡協議会が第32回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」をオンラインで開催
「令和時代の医療放射線管理」をテーマに講演や総合討論が行われる

2021-12-13

放射線防護


昨年に続いてのオンライン開催となった

昨年に続いてのオンライン開催となった

医療放射線防護連絡協議会は2021年12月10日(金),年次大会として第32回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催した。今回のテーマは「令和時代の医療放射線管理」で,新型コロナウイルスの感染予防に配慮し,昨年に続くオンラインでの開催となった。全体の司会・進行は,同協議会総務理事の菊地 透氏が務めた。

菊地 透 氏(同協議会総務理事)

菊地 透 氏(同協議会総務理事)

 

同協議会会長の佐々木康人氏による開催挨拶の後,日本原子力研究開発機構原子力科学研究所の吉澤道夫氏が「個人線量管理の動向」と題して教育講演を行った。放射線作業者の被ばくの一元管理については,2010年の日本学術会議の提言などにもかかわらず,具体化してこなかった。しかし,大学での人材流動化や眼の水晶体の線量限度変更に伴い,線量管理の必要性が増したことなどから,放射線安全規制研究戦略的推進事業(ネットワーク形成推進事業)が開始。その一環として,個人線量登録管理制度などの職業被ばくの最適化について,吉澤氏を主査とする国家線量登録制度検討グループが検討を行っている。吉澤氏は,これらの経緯を解説し,日本学術会議の提言が実現に至らなかった主な要因として,国や事業者などのステークホルダーの理解が得られなかったことを挙げ,制度実現のためには,双方が制度構築の必要性を認識するとともに,制度のためのコストの確保が必要であると述べた。また,検討グループは既存システムをできるだけ活用した実現可能性のある合理的方法を提案することを基本路線とし,制度の必要性が高い医療分野を中心としたシステム構築を進め,同時に個人識別番号の付与や登録する線量の標準化を行うなど,全分野共通の一元管理をめざした準備を行うことが重要だとした。

佐々木康人 氏(同協議会会長)

佐々木康人 氏(同協議会会長)

 

吉澤道夫 氏(日本原子力研究開発機構)

吉澤道夫 氏(日本原子力研究開発機構)

 

次に,高橋信次記念講演として,大阪大学放射線科学基盤機構の米倉義晴氏が「これからの医療放射線の安全管理を考える」と題して,患者の医療被ばくに焦点を当てて講演を行った。医療被ばくは,その目的から線量限度が適用されず,正当化と最適化が重要となる。最適化に用いられる診断参考レベルDRLは,J-RIME(医療被ばく研究情報ネットワーク)により2015年に発表され,2020年には改訂版が公表されている。しかし,放射線荷重係数(WR)と生物影響(RBE)との乖離などが指摘されるほか,高精度放射線治療や粒子線治療・ホウ素中性子捕捉療法(BNCT),核医学治療などの新たな治療により,放射線防護上は高線量となる被ばく領域が拡大,がんリスクが増加する懸念や,高LET放射線の生物作用のリスク評価といった新たな課題が生じている。これらを背景に,米倉氏は自らが座長として参画した「医療放射線の適正管理に関する検討会」で議論が行われ,2020年4月の医療法施行規則の一部改正につながった経緯を紹介した。また,個人ごとのリスク管理や高LET放射線・低線量率放射線(核医学治療)の生物影響などの解明に向け,国家的なプロジェクトとしての医療被ばくデータの収集や活用,新しいリスク評価モデルの開発などに期待したいと述べた。

米倉義晴 氏(大阪大学放射線科学基盤機構)

米倉義晴 氏(大阪大学放射線科学基盤機構)

 

続いて,古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,「今後の線量管理に向けた取り組み」をテーマに,4名の演者が各分野からに報告を行った。まず,ベルランド総合病院の鈴木賢昭氏が実務担当者としての立場から報告した。鈴木氏は,2020年に医療法施行規則が一部改正されたものの,多忙な診療業務の中での機器管理や全プロトコルの見直しは難しく,かつこれらの業務に対する診療報酬が設定されていないことを指摘した。また,放射線診療従事者の管理対象の範囲設定や個人線量計などのコスト面の課題を挙げたほか,放射線防護具は個人ごとの使用頻度のバラツキがあり,メーカーにもさらなる改良を求めていきたいと述べた。

鈴木賢昭 氏(ベルランド総合病院)

鈴木賢昭 氏(ベルランド総合病院)

 

次に,線量測定機関の立場から,長瀬ランダウア(株)線量計測センターの関口 寛氏が,「個人線量計測定機関協議会として*放射線測定の信頼性確保の義務化に向けての取り組み*」と題して報告した。RI規制法施行規則の改正により,2023年10月から外部被ばくによる線量の測定に信頼性の確保が求められるようになる。これは,2016年の国際原子力機関(IAEA)の勧告を受けたもので,具体的には,ISO/IEC17025と日本適合性認定協会(JAB)が発行したJAB RL380「認定の基準についての指針」の基準を満たす品質マネジメントシステム下で測定を行うことが必要とされ,事実上,個人線量測定サービス業の許認可制が導入される。さらに,線量測定機関には2年ごとの技能試験が課され,線量計の質の担保や新規製品のリリース・仕様変更時の認定の取得が求められることになる。関口氏は,これらの内容を解説した上で,個人線量計測定機関協議会加盟各社の認定に向けた現状や,義務化に伴う協議会の取り組みについて報告した。

関口 寛 氏〔長瀬ランダウア(株)線量計測センター〕

関口 寛 氏〔長瀬ランダウア(株)線量計測センター〕

 

続いて,医師,診療放射線技師の立場から,京都医療科学大学の大野和子氏と京都大学附属病院の矢野慎輔氏が報告を行った。大野氏は,医師の被ばく管理への意識における課題として,情報提供を受ける機会の少なさや診療報酬上の問題のほか,患者の被ばく線量管理への関心は高い半面,自身の被ばく線量より患者への診療を優先させがちという医師のメンタリティを指摘した。そして,2020年の医療法施行規則の一部改正などを受け,放射線科医が考える望ましい線量管理のあり方についての提案を目的に,日本医学放射線学会が放射線従事者の線量管理ワーキンググループ(WG)を立ち上げたことを紹介した。大野氏は,WGでの議論で,放射線科医の医療被ばくへの意識について性差や管理者と非管理者間の温度差などが見られたとし,医師の線量管理改善においては,初めて業務に従事する際の教育の徹底や働き方改革と連動した業務の分散,医学部における放射線教育の徹底などが必要ではないかと述べた。

大野和子 氏(京都医療科学大学)

大野和子 氏(京都医療科学大学)

 

矢野慎輔 氏(京都大学附属病院)

矢野慎輔 氏(京都大学附属病院)

 

最後に,診療放射線技師の立場から,矢野氏が京都大学附属病院を例に被ばく管理の現状分析について報告した。医療現場での医療被ばく管理には,RI規制法と医療法,労働安全衛生法が関連し,法ごとに管理対象の範囲や教育訓練の項目,時間数などが異なるのが現状である。それに対し,京都大学附属病院ではすべての対象者に同じ教育訓練の受講義務を設け,さらに京都大学放射線取扱者個人管理システム「KRUMS」で,全放射線業務従事者の講習会受講や放射線特別健康診断の受診状況,被ばく測定記録などを登録し,毎年更新を行っている。しかし,KRUMSは大学独自のシステムであり,一生涯の被ばく線量データの一元管理のためには,マイナンバーなどの公的個人情報との連携が必要である。矢野氏は,これらを紹介した上で,京都大学病院の課題として,個人被ばく線量計の交付や各法律に関する業務が縦割り管理され,被ばく線量管理者が不明確であることを挙げ,線量管理室の創設の法的な義務化や,被ばく線量低減化の指導と業務制限・改善を指示できる線量管理責任者の選任,従事者の被ばくの一元管理の制度化などを提言した。さらに,安全安心な医療の提供のため,線量管理室・管理者への診療放射線技師の参画を要望すると述べ,報告を締めくくった。

休憩を挟んで行われた総合討論では,古賀佑彦記念シンポジウムで紹介された各施設での線量管理の現状について視聴者も交えて活発な議論が交わされた。「個人線量計管理の信頼性担保のために行われている取り組みについて,医療従事者があまり理解していないのではないか」という意見が述べられたほか,線量計の装着率や回収率の向上の重要性が改めて指摘された。なお,本シンポジウムは2021年12月25日(土)からWeb配信される予定。

 

●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会 事務局
〒451-0041 愛知県名古屋市西区幅下1-5-17 大野ビル1階
Fax:052-526-5101 TEL:052-526-5100
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