AIホスピタルの成果発表シンポジウムが開催

2021-11-10

AI(人工知能)


AIホスピタルの実現に向けた成果を報告

AIホスピタルの実現に向けた成果を報告

内閣府総合科学技術・イノベーション会議では現在,国家プロジェクトとして科学技術イノベーションを実現するための戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を進めている。医療分野では,2018年度から「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診療・治療システム」が2022年度までの予定で取り組まれている。その成果を報告するシンポジウムが,2021年10月16日(土),日本医師会館(東京都文京区)で行われ,オンラインで配信された。開会に当たり,プログラムディレクターの中村祐輔氏が挨拶に立ち,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により,日本の医療のデジタル化が遅れていることが明らかになったと指摘した上で,AIホスピタルの実現に向けて産官連携,日本医師会の協力によりプロジェクトが進んでいると述べた。そして,医療現場の負担を軽減し,医療の質の向上,維持をしていくために,このプログラムの出口戦略は重要であると説明した。また,共同代表挨拶として登壇した日本医師会会長の中川俊男氏は,医師は患者と向き合うだけでなく,事務作業などに時間を割かなくてはならないと指摘。AIを活用し医師の負担を軽減して,温かい医療を取り戻すことが求められていると述べた。そして,CPVID-19により医療現場がひっ迫していることを踏まえ,プログラムの成果が医療の現場を救うことになると期待を示した。また,主催代表挨拶として,内閣府科学技術・イノベーション推進事務局長の松尾泰樹氏は,SIPについて紹介した上で,医療の高度化が進む一方で,医師の負担軽減が重要であると指摘,このプログラムを広く知ってもらい,社会の課題解決につなげることが大事だと述べた。

中村祐輔 氏(プログラムディレクター)

中村祐輔 氏(プログラムディレクター)

 

中川俊男 氏(日本医師会)

中川俊男 氏(日本医師会)

 

松尾泰樹 氏(内閣府)

松尾泰樹 氏(内閣府)

 

この後行われたプロジェクト成果発表(1)では,サブテーマA〜Cについて報告があった。司会は,サブプログラムディレクターの眞野 浩氏,辻井潤一氏が務めた。サブテーマAの「セキュリティの高い医療情報データベースの構築とそれらを利用した医療有用情報の抽出,解析技術等の開発,自然言語処理のための方言も含めた医療用語集の作成とそれらの救急現場での応用及び治療薬・ワクチンの開発に資するデータ連携基盤の構築」については,(株)情報通信総合研究所代表取締役社長の大平 弘氏が発表した。大平氏は,秘密分散方式によるデータ管理と秘密計算方式を用いた医療情報データベースの構築について,国立成育医療研究センター,がん研究会有明病院などの現況を報告。さらにAIを用いた診療時記録,看護記録の自動文書化,救急医療における自然言語処理システムの説明を行った。

次に,サブテーマB「AIを用いた診療時記録の自動文書化,インフォームドコンセント時のAIによる双方向のコミュニケーションシステムの開発及びAIを活用した診断・治療支援システムの開発,AIホスピタルを実装するためのAIプラットフォームの構築,人工知能アバターを利用した新型コロナウイルス感染症の相談補助システムの開発」について,3名が報告した。(株)日立製作所ライフ事業統括本部デジタルフロント事業部シニアストラテジストの宇賀神 敦氏は,スマートコミュニケーション技術の開発について,がん研究会有明病院における外来薬物療法でのAI問診システム,国立成育医療研究センターでの人型ロボットによる誘導などを説明。また,新型コロナ感染症相談補助システムの運用も紹介した。日本ユニシス(株)フェロー/CTOの羽田昭裕氏は,「Dr.アバター」によるインフォームド・コンセント支援について解説したほか,血圧計などのデバイスやスマートフォンを連携させた糖尿病診療補助サービス,カルテ音声入力システムの現状を報告した。サブテーマBの3番目に登壇した医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)理事長の八田泰秀氏は,2021年4月に設立されたHAIPの概要やめざしているプラットフォーム,日本医師会AIホスピタル推進センターとの連携体制,医療AIサービスの利用イメージを説明した。

サブテーマC「患者の負担軽減・がん等の再発の超早期診断につながるAI技術を応用した血液等の超精密検査を中心とする,患者生体情報等に基づくAI技術を応用した診断,モニタリング及び治療(治療薬を含む)選択等支援システムの開発」については,2題の発表かあった。オリンパスメディカルシステムズ(株)メカトロニクス技術開発アソシエイトエキスパートの池田裕一氏は,内視鏡AI操作支援技術の開発について,センサと空間認識技術の成果などを報告した。また,(株)ビー・エム・エル執行役員先端技術開発本部長の山口敏和氏は,リキッドバイオプシーによる超高精度がん診断システムについて,検体の採取,保管,搬送の標準化や採血センサの開発,新型シーケンサーを用いたビッグデータ解析などを発表した。

この後,来賓として,日本医学会会長の門田守人氏が挨拶した。門田氏は,AIへの期待を示し,社会実装の早期実現を見たいと述べた。さらに,課題関係者の挨拶として,日本医師会副会長/AIホスピタル評価委員会委員長の今村 聡氏,文部科学省研究振興戦略官の高木秀人氏,厚生労働省厚生科学課課長の佐々木昌弘氏,経済産業省医療・福祉機器産業室長の廣瀬大也氏が登壇した。

門田守人 氏(日本医学会)

門田守人 氏(日本医学会)

 

続く,プロジェクト成果発表(2)では,サブプログラムディレクターの宮野 悟氏が司会を務め,サブテーマD「医療現場におけるAIホスピタル機能の実装に基づく実証試験による研究評価」について5名が発表した。最初に発表した国立成育医療研究センター病院長の賀藤 均氏は,小児周産期QIベンチマークプログラムやAIを応用した自閉症スペクトラム診断補助装置,AIを用いた義手開発,医療的ケア児に対するAIを活用した医療・生活支援システムなどの研究成果を報告した。2番目に登壇した慶應義塾大学病院副病院長の陣崎雅弘氏は,AIホスピタルに向けた取り組みとして,タブレットによる外来患者用問診システム,カルテ・看護記録の入力自動化,患者のスマートフォンへの情報提供,在宅患者モニタリングシステム,非接触遠隔完全自動操作を可能にした立位CT,ITとAIによる画像検査の効率化,案内ロボットなどの取り組みを紹介した。次いで,大阪大学医学部附属病院病院長/大阪大学医学部医学系研究科外科学講座消化器外科学教授の土岐祐一郎氏が,AI基盤病院拠点の確立に向けた研究を報告した。同院では,大阪府内の病院と連携する「OCR-net」を構築し,データバンク研究を進めている。土岐氏は,これにより家庭から病院までの循環型トータルAI医療システムの実現をめざしていると述べた。4番目の発表では,がん研究会有明病院副院長の小口正彦氏が登壇。統合がん臨床データベースの開発,病理診断支援AIおよびデジタル病理部門システム,医療安全AIなどについて報告した。続いて,横須賀共済病院病院長の長堀 薫氏が発表した。長堀氏は,看護師の業務負担を軽減するための音声入力システム,持参薬鑑別システム,アバターを活用した術前インフォームド・コンセントの成果を紹介した。

すべてのプログラム終了後には,内閣府科学技術・イノベーション推進事務局SIP/PRISM担当参事官の植木健司氏が挨拶し閉会となった。なお,シンポジウムは,YouTubeで公開されている(https://www.youtube.com/watch?v=ZXkfdh6ua-s )。

 

●問い合わせ先
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
開発振興部SIP AIホスピタル担当グループ
E-mail [email protected]
https://www.nibiohn.go.jp/sip/

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