島津製作所,「血中アミロイドペプチド測定システム Amyloid MS CL」を発売,研究開発に向けたサービス提供へ
——アルツハイマー型認知症に関する血中バイオマーカー測定機器として世界初の承認を取得
2021-6-23
発売当日に行われた記者発表の様子。
左から,田中氏,岩本氏,緒方氏,竹内氏。
(株)島津製作所は2021年6月22日(火),アルツハイマー型認知症に関する原因候補物質を測定する「血中アミロイドペプチド測定システム Amyloid MS CL」(アミロイドMS CL)を発売した。アミロイドMS CLは,血中のアミロイドペプチドを測定し,アミロイドβに関連するバイオマーカー値を提示するシステム。アルツハイマー型認知症は,アミロイドβ蓄積に続き,異常タウタンパクが発生,神経細胞が死滅することで発症すると考えられている。そのため,アミロイドβ蓄積の兆候を察知できれば,認知機能の低下が生じる前に発症を予防できる可能性がある。島津製作所は,自社のMS(質量分析)技術を用いて血液数滴(約0.5mL)に含まれるアミロイドβを測定する“アミロイドMS”技術の一部を医療機器として開発,革新的医療機器条件付き早期制度により2020年12月に承認されており,今回の発売に至った。
アミロイドMS CLは,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計「AXIMA Performance CL」やデータ解析用ソフトウエアなどで構成され,末梢血中に存在する3種類のアミロイドβ関連ペプチドの測定値から算出されるコンポジットバイオマーカー値を算出する。バイオマーカーと脳内のアミロイドβ蓄積の相関については,同社と国立長寿医療研究センター(長寿研)の共同研究により報告されている。
アミロイドMS CLによる検査は薬機承認を受けた分析手法であるため,コホート研究や治療薬の薬事申請データとして利用可能である。島津製作所では,受託分析子会社の島津テクノリサーチが2018年8月からアルツハイマー型認知症に関する治療薬・早期予防法の研究開発を対象とした「アミロイドMS受託解析サービス」を行っており,今後は同サービスでアミロイドMS CLを使用し,医療機関や製薬企業などを対象にサービスを提供していく予定だ。また,血液バイオマーカーを用いた検査は,PET検査や脳脊髄液(CSF)マーカー検査などの既存技術とは異なり,侵襲性や費用の点でハードルが低いのが特徴である。ただし,アルツハイマー型認知症の診断は,医師が病歴や神経学的診察に加え,画像検査なども用いて総合的に行う必要がある。そのためアミロイドMS CLによる検査を行う際は,日本認知症学会,日本老年精神学会,日本神経学会が監修し,2021年3月に公表された「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカーの適正使用指針」を順守し,アミロイドMS CLの結果は補助的な情報の一つとして用いることが求められる。
なお,アミロイドMS技術の実現には,田中耕一記念質量分析研究所所長/エグゼクティブ・リサーチ フェローの田中耕一氏の2002年のノーベル化学賞受賞理由となった「MALDI」(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)が寄与している。
発売当日には,同社の京都本社(京都市中京区)およびオンラインで記者会見が行われ,田中氏のほか,田中耕一記念質量分析研究所副所長の岩本慎一氏,同社分析計測事業部ライフサイエンス事業統括部MSビジネスユニットプロダクトマネージャーの緒方是嗣氏,経営戦略室ヘルスケア事業戦略ユニットマネージャーの竹内 司氏が登壇し,アミロイドMS CLの開発の経緯や測定フロー,今後のアルツハイマー型認知症への同社の取り組みについて発表した。
アミロイドMS CLの概要について解説した緒方氏は,そのメリットとして低侵襲で被検者の負担が少ないことに加え,PET検査の代替手法,またはスクリーニングとして活用できる可能性があり,高額なPET検査の対象者を絞り込むことが可能であることなどを挙げた。また,今回はリバランス通知に基づく承認であり,今後,一部変更申請などに向けた臨床データの収集を行っていきたいと述べた。また同社は,高性能なPET画像により脳内のアミロイドβ蓄積を画像化するTOF-PET装置「BresTome」を2021年3月に発売し,同社の強みである分析計測技術と医用画像技術を用いて,認知症の超早期検査から診断,治療,予後管理全体にわたるソリューション提供に取り組んでいる。会見で挨拶に立った田中氏は,近年,治療薬の開発などでさまざまな進展を遂げつつも,今なお大きな課題を抱えるアルツハイマー型認知症に対し,より大きな貢献をめざしていきたいと展望を示した。
●問い合わせ先
(株)島津製作所
https://www.shimadzu.co.jp/