コニカミノルタが「第3回X線動態画像セミナー」を開催
2021-6-21
デジタルX線動画撮影システムの最新研究を発表
コニカミノルタ(株)は2021年6月5日(土),「第3回X線動態画像セミナー」をWeb開催した。X線動態画像とは,同社が開発したデジタルX線動画撮影システムで得られる単純X線写真をベースにした動画像。パルスX線を15fpsで連続照射して,得られた画像をアニメーションのように動画として表示できる。システムは,ワイヤレスFPD「AeroDR fine」,診断用X線装置「RADspeed Pro」〔(株)島津製作所〕,X線動画解析ワークステーション「KINOSIS」で構成されており,2018年11月から日本国内での販売を開始した。セミナーは,これまで2018年,2019年に開催。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて開催を見合わせ,2021年はWeb開催となった。開会に当たり挨拶した同社の小林一博氏(ヘルスケア事業部長)は,X線動画撮影システムは,形態診断を基本していたX線画像に動きの情報を加えることで機能診断へと進化させ,疾患の検出を簡便にすることをめざしていると説明。長年研究を続け,2020年には米国,中国でも販売を開始したと述べた。そして,すでに約30の論文発表がある日本発のこの技術を,先生方とともに世界に発信していきたいとまとめた。小林氏の挨拶に続き,幡生寛人氏(Professor of Radiology, Harvard Medical School)が開会の辞を述べた。幡生氏は,自身がX線動画撮影システムの研究にかかわる経緯を振り返り,上市に至るまでの研究者の取り組みを紹介し,北米放射線学会(RSNA)などの国際学会で多くの受賞をしてきたことを説明した。さらに,現在も研究成果が多数,国際的なジャーナルに採択され,新たな知見をもたらしていると述べた上で,「ぜひとも新たなる未来のページを皆さんの力で!」とメッセージを送った。
次いで,同社の中村一起氏(ヘルスケア事業部モダリティ事業企画部)がメーカー講演を行った。中村氏は,デジタルX線動画撮影システムの原理を解説したほか,KINOSISの新機能として,肺内の縦方向の動きの大きさを可視化するLM-MODEと,心拍と同期する肺野内の高周波信号の変化量を可視化するPH2-MODEを紹介。さらに,今後の展望として,動きの基準値の確立と適用領域の拡大,海外への展開の3つを挙げ,その取り組みを説明した。
この後,X線動態画像の技術と呼吸器外科での適用に焦点を当てた第1部が行われた。座長は,長谷部光泉氏(東海⼤学医学部医学科専門診療学系画像診断学領域教授)が務めた。最初に,⿊⽥⼤悟氏(公益財団法人天理よろづ相談所病院放射線部)が「胸部X線動態画像における呼吸動作の再現性」をテーマに発表した。同院では2019年6月から間質性肺炎患者に対してX線動態撮影を開始している。黒田氏は,その撮影プロトコールを解説した上で,呼吸動作の再現性についての検証結果を報告した。15名の患者に対する検証では,呼吸動作の変動が大きく再現性が呼吸機能検査に劣り,検査者の説明や患者の理解度による影響が大きかったという。これを踏まえ黒田氏は,撮影時のポイントとして,検査内容を十分説明すること,音声ガイドを利用した練習を行うことが大切だと述べたほか,未露光ロスフィルムを用いたグリッド表示により再現性を確認するといった工夫を紹介した。
2番目の発表では,大内基史氏(社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷横浜病院呼吸器外科副院⻑)が,「呼吸器外科における術前癒着評価:動態XPと⼿術所⾒の比較」と題して報告した。大内氏は,肺がん手術における術前の胸壁癒着や浸潤の評価について,X線動態撮影で行った経験を報告した。胸壁癒着の評価については,KINOSISのFE-MODEを用いて血管影の移動の程度から判定を行った。大内氏は,単純X線撮影やCTも施行していたためバイアスがかかり十分な評価ができなかったと述べた上で,新機能として追加されたLM-MODEによる評価に期待を示した。
第1部の3演題目は,「呼吸器外科におけるX線動態画像:我々の経験と今後の発展への期待」と題して,近藤晴彦氏(杏林大学医学部呼吸器・甲状腺外科学教室教授)が発表した。同大学では2020年6月からX線動態画像の撮影を開始している。近藤氏は,肺結節の視認性向上,体位・姿勢などによる臓器の位置変化,術前・術後の呼吸による横隔膜運動の変化,胸腔内癒着の有無や程度,声帯麻痺の非侵襲的観察,気胸症例における肺虚脱の呼吸性変化,気道ステントによる換気改善評価など,従来の単純X線写真では得られなかった情報が取得できるかについて,これまでの経験を報告した。発表のまとめとして近藤氏は,X線動態画像は生理的な状態の観察ができるので機能的評価が可能となり,CTよりも被ばくが少ないことから検診での有用性が期待されると述べ,撮影条件,画像処理,解析アルゴリズムのさらなる進化が望まれるとまとめた。
続いて,循環器をテーマにした第2部へと進み,座長を高瀬 圭氏(東北⼤学⼤学院医学系研究科放射線診断学分野教授)が務め,2名の演者が発表した。先に,山崎誘三氏(九州⼤学⼤学院医学研究院臨床放射線科学分野)が,「肺⾎流イメージングの臨床応⽤」をテーマに,放射線科領域,循環器/呼吸内科領域,一般内科領域,心臓外科領域におけるX線動画撮影システムの使用経験を報告した。放射線科領域では,肺動静脈奇形の経カテーテル塞栓術において術前・術後の評価に有用であったと述べた。また,循環器/呼吸内科領域については,肺高血圧症の原因探索において有用であると症例画像を提示して解説した。このほか,一般内科領域では呼吸苦の原因精査目的,心臓外科領域では慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の術後評価におけるX線動態画像の有用性を紹介した。
次いで,「胸部X線動態画像で急性肺⾎栓塞栓症を診る」と題して,細川和也氏(九州⼤学⼤学院医学研究院循環器内科学)が発表した。細川氏は,急性肺⾎栓塞栓症が近年急増しており,見逃すと高確率で死亡すると述べ,造影CTを施行するまでの診断アルゴリズムの解説をした。その上で造影剤や被ばくの問題を指摘し,対策としてKINOSISを使用した肺血流解析を行った経験について,症例画像を交えて説明した。細川氏は,X線動態画像による急性肺⾎栓塞栓症の診断について,造影剤を用いずに低線量で検査ができ,造影CTの代替モダリティとなることが期待されると述べた。また,空間分解能についても,肺血流シンチグラフィと同程度で,中枢性急性肺⾎栓塞栓症の診断において代替モダリティになる可能性があるとまとめた。
呼吸機能を取り上げた第3部では,⿊﨑敦⼦氏(公益財団法人結核予防会複⼗字病院放射線診療部部⻑)が座長を務めた。まず,同社の角森昭教氏(ヘルスケア事業部開発企画部)が「動きのアトラス構想について(続報)」と題して,X線動態画像における動きを定量化して正常モデルを構築する「動きのアトラス構想」について現状を報告した。同構想では,健常例における呼吸機能にかかわる組織の変化を同時間軸で計測して,連動性などのデータを収集する。これにより,X線動態画像のエビデンスを確立するねらいがある。今後は参加する医療機関数を増やし,データを蓄積していく計画である。角森氏の発表に続いて,同構想にかかわる礒部 威氏(島根⼤学医学部内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学教授)が,臨床においては検査で異常なしと否定できる診断能が重要であることから,主要な呼吸器疾患の診断だけでなく健常例のデータを集積することが今後重要であると述べた。
次いで,「X線動態解析を⽤いた呼吸機能評価について」と題して,⼤倉徳幸氏(⾦沢⼤学呼吸器内科)が発表した。大倉氏は,X線動態画像の解析から得られた気管径変化や横隔膜変位,肺面積変化などと,換気障害との関連について検討結果を報告した。その結果,最大吸気時肺面積/身長は,重度の閉塞性換気障害において健常例と比べ有意に上昇し,中等度・重度の拘束性換気障害では低下したと述べた。また,気管径変化については,閉塞性換気障害の重症度とともに上昇し,拘束性換気障害では健常例と差が見られなかったという。さらに,横隔膜変位と肺面積変化については,閉塞性換気障害・拘束性換気障害のいずれも重症度とともに低下した。この結果を踏まえて大倉氏は,X線動態画像について,呼吸器疾患のスクリーニングや重症度評価,疾患挙動のモニタリングでの有用性が期待されるとまとめた。
第3部最後の発表では,上山維晋氏(公益財団法人天理よろづ相談所病院呼吸器内科)が,「胸部X線動態撮影による間質性肺疾患の呼吸機能評価」テーマに,これまでの使用経験を報告した。上山氏は,間質性肺疾患の診療では,呼吸機能検査が不可欠であったが,患者への負担など課題も多いと述べた上で,X線動態画像と呼吸機能検査の相関性,努力性肺活量の予測モデルの構築などを検討結果を説明した。上山氏は,検討結果について,肺面積・推定肺容積は間質性肺疾患の呼吸機能と有意に相関しているとし,努力性肺活量などの呼吸機能評価で有用だと述べた。そして,X線動態画像は呼吸機能検査よりも低侵襲でアクセシビリティの高い検査であるとし,臨床応用に期待を示した。
すべての発表終了後に,総評として,井上義⼀氏(独⽴⾏政法人国⽴病院機構近畿中央呼吸器センター臨床研究センター長)が今回のセミナーを振り返った。井上氏は,X線動態画像について,低侵襲かつ造影剤不要,低コスト面といったメリットが多く,エビデンスも蓄積されており,保険適用や胸部疾患の各ガイドラインに盛り込まれるレベルに来ていると感じると述べた。そして,この技術が国際的に広まり,技術が発展していけば,呼吸器疾患だけでなく,全身の画像診断学を革新する可能性を秘めているとまとめた。また,同じく総評を述べた工藤翔二氏(公益財団法人結核予防会理事長)は,今回の発表はいずれもすばらしかったとして,第2回セミナー以降のわずかの期間に30近い論文が発表されて,急速に発展していると評価した。さらに工藤氏は,X線動態画像は生理学的な評価であり,幡生氏が開会の辞で述べたとおり,新たなる未来のページであり,世界中の臨床で役立つよう力を合わせて頑張っていきたいと力を込めて語った。
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