医療放射線防護連絡協議会が第30回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催
テーマは「当協議会設立30周年から−医療放射線防護の課題と今後−」
2019-12-18
総合討論ではフロアも交え,活発な議論が行われた
医療放射線防護連絡協議会は2019年12月13日(金),島津ビル(東京都千代田区)で年次大会として第30回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催した。日本の放射線防護に大きな足跡を残した高橋信次・古賀佑彦両氏の名を冠した本シンポジウムは,毎年12月に行われており,30回の節目を迎える今回は,「当協議会設立30周年から−医療放射線防護の課題と今後−」をテーマに開催された。
同協議会会長の佐々木康人氏による開会の挨拶の後,大野和子氏(医療放射線防護連絡協議会企画委員長)を座長に,黒澤忠弘氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所)による教育講演「医療分野における実用量と防護量−X線診断領域を中心に−」が行われた。黒澤氏は,防護量や実用量の定義や両者の関係,診断領域のX線場の特徴などについて説明した後,ICRP/ICRUによる新しい実用量の定義について紹介した。新しく定義された実用量は従来の定義に比べ,防護量と深く関連付けられており,防護量を考える上で理解しやすいものとなっている一方で,特に低エネルギー領域では,新しい実用量の方が小さく表されることなどが解説された。
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続いて,佐々木氏を座長に,高橋信次記念講演として菊地 透氏(医療放射線防護連絡協議会総務理事)が「医療放射線防護の今昔と未来」と題して講演を行った。当協議会の総務理事を務める菊地氏は,これまでの高橋信次記念講演のテーマや医療放射線防護の歴史について,菊地氏自身の歩みとともに紹介し,1990年に医療放射線防護連絡協議会設立に至った経緯について語った。また,2020年4月には医療法施行規則の一部改正により,適正な放射線管理による安全確保を義務とする省令が施行され,医療放射線安全管理者の役割が増すことになる。菊地氏は,医療放射線防護は安全で安心な医療の放射線利用を保証するシステムであるとした上で,協議会は今後も医療放射線防護の中心的な役割を担っていきたいと述べ,講演を締めくくった。
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休憩を挟み,午後は古賀佑彦記念シンポジウムが行われた。福士政広氏(首都大学東京)が座長を務め,「医療放射線防護の課題と今後の対応」をテーマに,放射線科医,放射線技術,専門診療放射線技師認定などの立場から講演が行われた。最初に,前田恵理子氏(東京大学医学部附属病院放射線科)が「医療放射線防護を考える*放射線科医の立場から*」と題して講演を行った。前田氏は,線量管理において放射線科医に求められる役割として,(1)多職種からなる線量管理チームのリーダーとして施設の線量管理を主導する,(2)病院に求められる放射線防護のビジョンやミッションを提示する,(3)検査目的に応じたALARA(as low as reasonably achievable)な画質を設定する,などを挙げ,そのためには,放射線科医への早期の被ばく関連教育が必要であるとした。また,放射線検査のメリットはエビデンスが示しにくく,受診者への説明と同意(IC)が難しいという特殊性がある半面,推奨グレードDの検査が高頻度で行われているというデータもある。前田氏は,検査の適応のエビデンスの拡充や,依頼医に対し予定する検査の被ばく線量を伝えるルートの確立などが放射線科医の今後の課題であるとした。
次に,松原孝祐氏(金沢大学医薬保健研究域保健学系)が登壇し,放射線技術の立場から講演を行った。松原氏は,医療放射線管理にあたっては,患者被ばく管理と従事者被ばく管理に分け,かつ放射線技術的要素と臨床的要素の視点から取り組む必要があると指摘。放射線技術的要素の視点からは,患者被ばく管理については(1)線量データに基づく防護の最適化や(2)低線量で撮影可能な機器や技術の導入が,従事者被ばく管理については(1)空間線量率や被ばく量の把握や(2)放射線防護用具の積極的な導入が有用だとした。
3題目として,坂本 肇氏(順天堂大学保健医療学部診療放射線学科)が「IVR診療における放射線防護を考える*専門診療放射線技師認定の立場から*」と題して講演した。坂本氏が理事長を務める日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構(JAPIR)は,2008年の設立以降,認定の申請時と5年ごとの更新時に基準線量の測定データの提出を義務付け,全国的なデータの収集を行っている。それらのデータを解析,公表した結果,他施設との基準透視線量の比較が可能になり,最適化が推進されつつあることが示唆された。また,2020年4月の法令改正により,循環器用X線透視装置(血管撮影装置)は線量管理や記録が義務化され,IVR領域ではDRLs2015を参考とした最適化が必要となる。坂本氏は,それらへの対応をJAPIRとして後押ししていきたいと述べた。
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最後に,「医療放射線防護の今後の発展に向けた提言」をテーマに総合討論が行われた。座長は赤羽正章氏(国際医療福祉大学)が務めた。中村仁信氏(医療放射線防護連絡協議会協議会監事)と佐々木氏の指定発言の後,黒澤氏を除くすべての座長・登壇者と参加者による議論が行われ,特に2020年4月の法令改正に関連して,線量計の管理や従事者の異動などに伴うフォローアップについて,活発に意見が交わされた。最後に,菊地氏が閉会の挨拶を行い,シンポジウムを締めくくった。なお,2020年2月23日(日)には,第41回「医療放射線の安全利用」フォーラムが首都大学東京荒川キャンパス講堂(東京都荒川区)で行われる。
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●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会(日本アイソトープ協会内)
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FAX 052-526-5101
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