医療放射線防護連絡協議会が第40回「医療放射線の安全利用」フォーラムを開催
2019-2-21
活発な意見交換が行われた総合討論の様子
医療放射線防護連絡協議会は,2019年2月17日(日),首都大学東京荒川キャンパス(東京都荒川区)において,「診療放射線従事者の個人管理の現状と課題」をテーマに,第40回「医療放射線の安全利用」フォーラムを開催した。
開催の挨拶に立った医療放射線防護連絡協議会会長の佐々木康人氏は,眼の水晶体の被ばく線量限度に対する国際放射線防護委員会(ICRP)の引き下げ勧告を受け,規制への取り入れに関する検討が進む反面,医療現場への影響が懸念されることから,今回のフォーラムでは,検討の最前線に立つ講師らの講演をもとに,身近な問題として議論を深めていきたいと述べた。
午前中は,佐々木氏が座長を務め,産業医科大学産業保健学部教授の欅田尚樹氏が,「診療放射線従事者の個人管理の現状と課題」と題して基調講演を行った。欅田氏は,原子力規制庁放射線審議会「眼の水晶体の放射線防護検討部会」や,厚生労働省「眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会」で委員を務めており,白内障の発症機序や国内外の規制の動向,放射線被ばくマネジメントなどについて解説した。眼の水晶体の等価線量限度について,2011年のICRPの勧告(ソウル声明)を受け,放射線審議会が2018年2月にまとめた「眼の水晶体に係る放射線防護の在り方について」報告書では,5年間の平均で20mSv/年,年間最大50mSvとされた。また,特に線量が大きい医療分野や東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業では,事業者が防護の最適化に取り組むこと,加えて医療分野では,関連学会によるガイドライン策定が期待されることが明記されている。欅田氏は,医療現場で眼の水晶体が受ける被ばく状況の実態について,等価線量が経年的に増加傾向にあること,また診療科ごとに等価線量のばらつきが見られ,特に線量が高い一部の術者では,全検出者の平均の約10倍にのぼることを報告し,対策の必要性を指摘した。同時に,防護眼鏡や防護板などの使用により,被ばく量が低減可能であると述べた。また,放射線防護を進めるにあたっては,従来の法令をベースとした法規則に基づく対策(法準拠型)では限界があり,PDCAサイクルを繰り返して進める労働安全衛生マネジメントシステム体制の構築・運営が重要だと述べた。
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午後のパネルディスカッション「水晶体被ばく線量引き下げに伴う個人被ばくの課題」では,まず,座長の藤田医科大学の横山須美氏が,医療分野における個人被ばくの状況を整理し,(1)他分野に比べて線量が高い人が多い,(2)適切な測定および防護で被ばく低減が可能,(3)手技や使用機器,職種などによって被ばく状況が異なる,(4)防護策や測定が医療行為の妨げにならないよう配慮が必要,(5)ガイドライン策定や放射線防護教育が重要,などを主な論点として提示した。
続いて,各分野から4名の演者が登壇し,これらの点を踏まえて講演を行った。まず,国立研究開発法人産業技術総合研究所の黒澤忠弘氏が「実用量と防護量について」と題して講演し,医療現場で利用されている放射線線量の単位や,実用量と防護量の違いについてまとめた。黒澤氏は,放射線は規制されている化学物質に比べて測定が容易であり,線量計を適切に使用し,自分の被ばく線量を知ることが重要であると述べた。
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次に,京都医療科学大学の大野和子氏が「医療分野におけるガイドライン作成状況—放射線科から—」と題して講演を行った。大野氏は,放射線科以外にも放射線を利用する診療科が拡大し,放射線診療従事者が増大する中,診療科横断的なガイドラインの必要性を指摘し,日本医学放射線学会が各学会や日本保健物理学会,医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)などと連携し,ガイドライン作成と関係学会での承認をめざしていることを紹介した。また,先行調査として全国の13施設11領域(83名)を対象に,1か月間,被ばく量を計測した先行調査の結果も発表された。消化器内科では,同一施設内でも,防護眼鏡や遮蔽具の使用の有無により,被ばく線量の2極化が見られたことや,核医学検査や小児放射線,歯科放射線などの領域では,問題となるような被ばく線量は認められなかったことなどが示された。
続いて,循環器分野の現状について,東邦大学大学院医学研究科循環器内科学の天野英夫氏が「循環器分野における従事者防護の状況」と題して解説した。近年,循環器分野では,経カテーテル的冠動脈拡張術(PCI)や経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)など,多くの透視下治療が施行され,特に慢性完全閉塞病変(CTO)などの複雑病変の処置では,透視線量が増加しがちな点が問題となっている。日本循環器学会では,すでに「循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン」(2011年改訂版)を作成しているが,今回の水晶体の等価線量限度引き下げの勧告に伴い,2021年に改訂を予定している。天野氏は,現状をこのようにまとめ,医療現場で可能な放射線防護策として,防護眼鏡や防護衣,防護アクリルガラスの使用,オーバーレイ表示によるロードマップ機能や血管内超音波(IVUS)の活用などを紹介した。
最後に,昭和大学医学部整形外科学講座の平泉 裕氏が「整形外科分野における従事者防護の状況」と題して,整形外科分野の状況についてまとめた。整形外科分野では,透視下観血的骨折手術や脊椎の透視下インスツルメンテーション手術など,術中X線透視を併用する手術が多く行われており,術者の放射線防護が課題となっている。平泉氏は,ガイドラインの策定や,放射線診療従事者への啓発活動が急務であるとした上で,医療現場の安全を確保しつつ,診療体制を維持していくことが重要であると述べた。
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休憩を挟んで行われた総合討論では,医療放射線防護連絡協議会総務理事の菊地 透氏が座長を務め,看護師や放射線技師,歯科医師など放射線診療に関わる幅広い職種の学会関係者から意見が述べられたほか,会場も交えて,活発な意見交換が行われた。
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●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会 (日本アイソトープ協会内)
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FAX 052-526-5101
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