日本福祉介護情報学会が第19回研究大会を開催
2018-11-26
「IT活用による当事者・地域の主体形成を目指して」
が大会テーマ
日本福祉介護情報学会〔代表理事:生田正幸氏(関西学院大学)〕は2018年11月18日(日),岩手県民情報交流センター(岩手県盛岡市)において,第19回研究大会を開催した。大会テーマには,「地域共生社会の情報環境――IT活用による当事者・地域の主体形成を目指して」が掲げられた。少子・高齢社会が進む中で,地域住民などが主体となって活動する地域共生社会づくりが広がっている。この社会づくりにおいて高齢者・障害者がITやIoT,AIを活用し,主体となって参画できる環境が求められている。今回のプログラムはその実現に向けて,基調講演のほか,事例報告3演題を含めたシンポジウム,自由発表が7演題設けられ,意見交換,情報共有が行われた。
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午前中には2会場に分かれて,自由発表があった。この中で,田井義人氏(摂南大学)は,「高齢者等の就労へのICT利活用による福祉・介護分野での社会保障環境財源対策への一考察―モザイク型就労と『手続き記憶』へのICT利活用の考察から―」をテーマに発表した。田井氏は,人口減少社会の中で,労働力確保のためにICTを用いて高齢者が時間や場所,スキルに応じて就労する「モザイク就労」の可能性について言及した。また,岡田哲郎氏(東京通信大学)は,「地域活動における個人情報の保護と活用の在り方〜2つの現場におけるアクションリサーチを通して〜」と題して,個人情報保護への過剰反応事例,信頼関係の中での情報活用事例の2つのコミュニティに対して,現場介入を行った研究成果を報告した。一方,ロボット活用に関する発表もあった。漆山純一氏(東北福祉大学)は,「人型ロボットPepperを用いた重度障害者コミュニケーション支援に関する研究―操作アプリケーションのプロトタイプの開発―」と題して発表した。この発表では,筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の意思伝達にPepperを用い,発話や感情表現,移動などを行わせ,内蔵カメラを使用して離れた場所にいる相手とコミュニケーションをとるという実証実験の概要を説明。コミュニーションが充実するなどの有用性を示したことが報告された。
午後には,高橋紘士氏(東京通信大学/日本福祉介護情報学会顧問)による基調講演が行われた。テーマは,「地域共生社会の実現とICT活用」。高橋氏は,社会福祉環境の変化に言及した上で,ユニバーサルデザインとしてのICTについて説明した。また,健康寿命の延伸ためには社会参加による生きがいを持つことが重要であるとし,ICTで支援する実証実験などを紹介した。
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次いで,シンポジウム「IT活用による当事者と地域の主体形成」が設けられた。このシンポジウムでは,障害者,高齢者,医療福祉連携の3テーマごとに事例報告が行われた後,パネルディスカッションが設けられた。まず,「障害者と地域の主体形成」と題して,伊藤史人氏(島根大学),板倉ミサヲ氏(岩手県立となん支援学校),菊池直美氏(岩手県立盛岡青松支援学校),笠井 健氏〔北良(株)〕が発表した。この発表では,障害者がiPadを使用してコミュケーションをとることで就学などの自立支援した事例や,特別支援学校でのIT活用に向けた活動,避難困難障害者向けの安否確認システム「ANPY」が紹介された。次いで,小川晃子氏(岩手県立大学),東根弘子氏(お元気発信利用者/元・民生委員/老人クラブ),酒井和雄氏(川前地区高齢者支援連絡会)の3名が,「高齢者と地域の主体形成」をテーマに発表した。小川氏らは,岩手県と岩手県社会福祉協議会が運用している,高齢者が1日1回電話機で安否確認の連絡を行う「お元気発信」の導入後の成果などを報告した。3番目に発表した鎌田弘之氏(盛岡赤十字病院)と古川明良氏(社会福祉法人清風会特別養護老人ホームあいぜんの里)は,「医療福祉の連携と地域の主体形成」をテーマに,在宅患者向けの血圧値記録とお元気通信を組み合わせた高齢者見守りサービスの成果を紹介した。
3事例の発表後に行われたパネルディスカッションでは,小柳達也氏(八戸学院大学)がコーディネーターを務め,各発表者に加え,コメンテーターとして佐藤哲郎氏(岩手県立大学),齋藤昭彦氏(岩手県立大学),長谷川高志氏(日本遠隔医療協会/岩手県立医科大学)が加わり,障害者・高齢者と地域の主体形成にITをどのように活用していくかが話し合われ,盛況のうちに閉会を迎えた。
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●問い合わせ先
日本福祉介護情報学会
http://jissi.jp