量研が「MRIアライアンス第2回国際シンポジウム」を開催
2018-1-25
シンポジウムの様子
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研,欧文略称:QST)は2018年1月19日(金),放射線医学総合研究所(放医研,千葉市稲毛区)を会場に「MRIアライアンス第2回国際シンポジウム」を開催した。
2016年4月に発足した量研は,産業界の課題解決に向け,複数の企業とのアライアンス事業をスタートしている。2017年度開始の事業として,(1) 先端高分子機能性材料アライアンス,(2) 量子イメージング創薬アライアンス「脳とこころ」,(3) 量子イメージング創薬アライアンス「次世代MRI・造影剤」の3つがあり,(1) は高崎量子応用研究所(群馬県高崎市),(2)(3) は放医研を主な研究開発拠点とし,それぞれ業界の垣根を越えた複数の企業と提携して研究開発を進めている。
今回の国際シンポジウムは,(3) 量子イメージング創薬アライアンス「次世代MRI・造影剤」(略称:MRIアライアンス)における取り組みの一つであり,2017年5月のキックオフ国際シンポジウムに続き,2回目の開催となる。MRIアライアンスは,産学連携のオープンイノベーションにより,安全性・機能性が高い次世代の造影剤や,新たな診断薬・試薬・セラノスティック医薬の創出,創薬における病態評価に資するイメージング技術・解析技術の研究開発を加速することをめざして活動している。
プログラムには,併催のQST未来ラボ・量子MRI講演会,理事長ファンド創成講演会,ダイバーシティ講演会も盛り込まれ,前回同様,国内外の新進気鋭の研究者による講演とパネルディスカッションが行われた。後援は,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST),国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)。
冒頭,開会挨拶に立った量研理事の田島保英氏は,「アライアンスは,従来,大学と企業などが1対1で行ってきた共同研究を,量研が持つ施設や研究の蓄積,人材などの研究ポテンシャルと,複数の企業の技術力や情報を持ち寄って,速やかで効率的な技術の実用化などを進め,社会に貢献することをめざしている。今回のテーマであるMRIは,日本国内では6000台あまりが稼働し,医療に幅広く浸透しているとともに,生物医学や創薬のツールとしても活用されている。量研名誉フェローの小川誠二先生が原理を発見した機能的MRI(fMRI)は臨床でも高く評価され,2017年の第22回慶應医学賞を授与されるなど,研究水準もきわめて高い分野と認識している。次世代MRI・造影剤アライアンスは,MRI技術の発展を背景に,創薬や研究開発に役立つ新たな撮像法や造影剤技術を産学官が連携して開発・活用していこうという取り組みであり,今後増えていく共同研究が実を結ぶことを期待している」と挨拶した。
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シンポジウム前半は,英語セッションであるシンポジウム1,2が行われ,後半は日本語にてQST未来ラボ・理事長ファンド創成の紹介(3演題)とシンポジウム3が行われた。
シンポジウム1は「量子ドットと酸化鉄微粒子」をテーマに行われた。はじめに基調講演として,量子ドットの生体応用の創始者であるマサチューセッツ工科大学(MIT,米国)のMoungi G. Bawendi氏が,MRI造影剤として重要な酸化鉄微粒子の開発と応用,短波赤外線での生体内イメージングについて講演した。2題目に宮島大悟氏(理化学研究所)が「Iron-oxide Based MRI Contrast Agents Toward Safer and More Accurate MRI」,続いてダイバーシティ招待講演として,Bulgarian Academy of Science(ブルガリア)のBiliana Nikolova氏が「Multimodal, Image guided and theranostic nano-DDS」を講演した。続くパネルディスカッションでは,浦野泰照氏(東京大学)と曽我公平氏(東京理科大学)が座長を務め,3名の演者に加え,パネリストとして横山昌幸氏(東京慈恵会医科大学),岸村顕広氏(九州大学),Rumiana Bakalova氏(量研機構・千葉)が登壇し,議論が交わされた。
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シンポジウム2は「生体センサーと機能」をテーマに2名が登壇した。基調講演としてfMRIの第一人者であるMITのAlan P. Jasanoff氏が「Mapping brain activity with molecular-level fMRI」と題して,ヒトを対象としたmolecular fMRIなど前臨床MRIの最新研究を紹介した。次いで,西山伸宏氏(東京工業大学)が「Development of Smart Nanodiagnostics for Targeted Cancer Therapy」を講演した。パネルディスカッションは,Horacio Cabral氏(東京大学)と青木伊知男氏(量研・千葉)が座長を務め,小川誠二氏(量研名誉フェロー),壹岐伸彦氏(東北大学),八幡憲明氏(量研・千葉)がパネリストに加わって行われた。
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後半のシンポジウム3「診断薬開発,日本に何が必要か?」では,医学放射線領域から2名の演者を迎え,医療分野におけるMRIについて概説が行われた。阿部 修氏(東京大学)は,マグネットやMRIシステム,パルスシーケンス,造影剤など,現在までのMRIに関する研究について紹介した。また,山田 惠氏(京都府立医科大学)は,ガドリニウムに関する自身の研究と,放射線科医の立場から造影剤に求めるポイントについて解説した。パネルディスカッションは,座長を小畠隆行氏(量研・千葉)と青木氏が務め,演者2名と西山氏,山田尚之氏(AMED),堀 邦夫氏(JST),半田敬信氏(理化学研究所),原田良信氏(量研・本部)が登壇した。
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また,「QST未来ラボ・理事長ファンド創成の紹介」では,高崎・千葉の研究所で取り組んでいる研究について現況や成果について報告があった。量研では,平野俊夫理事長直下に部門横断的組織「QST未来ラボ」を設置し,現在,量子MRIや量子メスなど5つのグループで研究が進められている。報告でははじめに,青木氏がMRIアライアンスや理事長ファンド創成の研究の枠組み,QST未来ラボの「量子制御MRIグループ」の概要などを説明した。続いて,田口光正氏(量研・高崎)が,「量子ビーム架橋技術を駆使したナノゲルMRI造影剤の創製」と題し,加工において毒性のある薬剤が不要で,加工と同時に滅菌できるといった特性を持ち,細胞の三次元培養や創薬,診断に応用できる量子ビーム架橋ハイドロゲルの開発について,研究の概要や成果を報告した。3題目に,下川卓志氏(量研・千葉)が量子メスによるがん治療に資する生物学的基礎研究として取り組んだ「MRIを利用した量子メス治療による腫瘍内変化の解析」を報告。反復照射による放射線抵抗性の獲得や悪性度の変化について,γ線と重粒子線を比較し,MRIで腫瘍内微小血管の分布を評価した研究について紹介した。
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最後に,放医研所長でMRIアライアンス代表を務める野田耕司氏が挨拶に立ち,「放医研は,2017年に創立60周年を迎えた。2016年に量研に再編統合したが,放射線の影響研究と医学利用研究という2つの柱は変わらず,いっそう推進していく。同時に,量研のQST未来ラボではほかの研究機関と協力し,量子科学技術の利活用を進めている。アライアンスの活動を通じて多くの機関の橋渡しを行い,量子科学技術と生命科学をつなぐ重要な役割を果たしていくだろう」と展望し,国内外や産学の連携が進み,医療に貢献し,さまざまな学術課題を解決する研究開発への期待を述べた。
●問い合わせ先
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
放射線医学総合研究所
量子イメージング創薬アライアンス「次世代MRI・造影剤」事務局
[email protected]
http://www.qst.go.jp