医療放射線防護連絡協議会が第27回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催
テーマは「医療関係者が知る放射線の生体応答と放射線防護」

2016-12-16

放射線防護

医療被ばく


会場風景

会場風景

医療放射線防護連絡協議会は,2016年12月9日(金)に国際研究交流会館国際会議場(国立がん研究センター内:東京都中央区)において,第27回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催した。同講演会は,CTの原理となるX線回転撮影法を開発し,日本の放射線防護の草分け的存在である高橋信次氏の名前を冠し,1990年より毎年開催されている。2010年からは,高橋氏に師事し,放射線防護において国内外で大きな業績を残した同協議会前会長の古賀佑彦氏の名前を冠したシンポジウムも同時開催されている。
27回目となる今回は,「医療関係者が知る放射線の生体応答と放射線防護」をテーマに,教育講演1題,高橋信次記念講演1題,古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,最後に参加者を交えた総合討論が行われた。

はじめに,医療放射線防護連絡協議会会長の佐々木康人氏が開催の挨拶に立ち,今回のテーマであるステムセル(幹細胞)バイオロジーや胎児・小児への放射線影響は,放射線生物学,放射線影響学の重要なトピックスであるとともに放射線防護のこれからのあり方についても大きなインパクトを持っているとし,本講演会の意義は大きいものであると述べた。

佐々木康人 氏(医療放射線防護連絡協議会)

佐々木康人 氏
(医療放射線防護連絡協議会)

   

 

教育講演では,総合病院国保旭中央病院診療技術局放射線科の五十嵐隆元氏が座長を務め,量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所理事の島田義也氏が「最近の小児の低線量影響に関する話題」と題し,放射線の発がんリスクのエビデンスや実証研究を供覧した。島田氏は,たしかに小児では放射線被ばくによる生涯がんリスクが成人に比べ高くなるが,成人とはがんリスクの高い臓器が異なることや,遺伝的に発がんリスクの高い家系があることを説明した。また,放射線リスクの高い時期の幹細胞について,被ばく後の生存率が高い,つまり放射線抵抗性があるのではないか調査中であることを紹介した。

五十嵐隆元 氏(総合病院国保旭中央病院)

五十嵐隆元 氏
(総合病院国保旭中央病院)

島田義也 氏(量子科学技術研究開発機構)

島田義也 氏
(量子科学技術研究開発機構)

 

 

高橋信次記念講演は,座長である佐々木氏の進行の下,放射線影響研究所(Radiation Effects Research Foundation)理事長の丹羽大貫氏が「幹細胞生物学からの放射線防護」と題し,幹細胞同士の競合が発がんリスクを考える上でどのような意味を持つか,自身の考察を交えて講演した。丹羽氏は,正常な細胞を確保し,不適切な細胞を排除する品質管理と最適化のための幹細胞同士の競合がどのように行われるかの概要を示し,細胞学的ながん細胞の発生の機序から,放射線発がんにおける幹細胞競合の役割や幹細胞競合が線量率効果に果たす役割について,自身の考察を語った。また,これらの研究から,幹細胞の競合現象を明らかにすることは,細胞動態レベルでのがん化リスクを考えていく上で重要な課題の一つになるであろうと展望を述べた。

丹羽大貫 氏(放射線影響研究所)

丹羽大貫 氏
(放射線影響研究所)

   

 

午後は,医療放射線防護連絡協議会総務理事の菊地 透氏が座長を務める古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,「新たな生体応答から見た医療放射線防護」をテーマに3名のシンポジストが講演を行った。
まず,京都大学iPS細胞研究所未来生命科学開拓部門の余越 萌氏が「幹細胞研究の基礎から今後の展望」と題し,幹細胞の基礎から最新のiPS細胞の研究までを紹介した。余越氏は,幹細胞研究が進むことで,幹細胞を用いて個人に合わせた予防や治療が可能になるのではないかとの期待を示した。
次に,量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所放射線影響研究部の今岡達彦氏が「幹細胞研究における放射線影響の解析」と題し,放射線発がんにおいて,幹細胞がどのような役割を果たしているかについて講演した。今岡氏は,放射線誘発乳がんを中心にがん細胞となる起源細胞と原因遺伝子の研究を供覧し,放射線影響で放射線がつくった遺伝子変異を1細胞レベルで定量的に検出する技術を作ることができれば,低線量のがんリスクの研究や変異を持った細胞の追跡も可能になるのではないかと述べた。
最後に登壇した京都医療科学大学医療科学部放射線技術学科の大野和子氏は,「幹細胞から見た医療放射線防護の展望」として,ICRP publ.131が医療にどのように役に立つのかについて,その展望を講演した。大野氏は,今回のICRP publ.131の勧告により,放射線利用の防護体系の中で,確定的影響,組織反応,低線量域での疫学などを合わせて考えることができるようになれば,医療放射線利用の最適化をより啓発していくことができるのではないかと語った。

菊地 透 氏(医療放射線防護連絡協議会)

菊地 透 氏
(医療放射線防護連絡協議会)

余越 萌 氏(京都大学iPS細胞研究所)

余越 萌 氏
(京都大学iPS細胞研究所)

 
     
今岡達彦 氏(量子科学技術研究開発機構)

今岡達彦 氏
(量子科学技術研究開発機構)

大野和子 氏(京都医療科学大学)

大野和子 氏
(京都医療科学大学)

 

 

その後,東京医療保健大学東ヶ丘看護学部の草間朋子氏が登壇し,指定発言を行った。草間氏は,放射線防護というのはメカニズムの視点から説明ができるようになるべきであるとし,今回の講演は,今後のサイエンティフィックデータを作っていく上で大変重要な示唆を与えているのではないかとした。また,これからはチーム医療の時代であり,看護師の立場から同協議会について,もっと看護師が関心を寄せる取り組みやがん放射線認定看護師を増やすための活動を行っていってほしいと訴えた。
最後に,演者・シンポジストが登壇し,大野氏の進行の下,「幹細胞研究など新たな放射線の生体応答と医療放射線防護を考える」をテーマに総合討論が行われた。

草間朋子 氏(東京医療保健大学)

草間朋子 氏
(東京医療保健大学)

   

 

なお,2017年2月18日(土)には首都大学東京(東京都荒川区)にて「CTの最適化・防護」をテーマに,第38回「医療放射線の安全利用」フォーラムが開催される予定となっている。

 

●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会 (日本アイソトープ協会内)
TEL 03-5978-6433(月・水・金のみ)
FAX 03-5978-6434
Email [email protected]
http://www.fujita-hu.ac.jp/~ssuzuki/bougo/bougo_index.html

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