第35回医療情報学連合大会(その3)
メリットを生む地域医療連携システムや外部保存を考える
2015-11-5
シンポジウム2
「地域医療連携システムの評価のあり方を考える」
第35回医療情報学連合大会(第16回日本医療情報学会学術大会)の最終日の2015年11月4日(水),A会場ではシンポジウム2「地域医療連携システムの評価のあり方を考える」が開かれた。座長は,白鳥義宗氏(名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンター)と渡邉 直氏(聖路加国際大学教育センター)。まず,渡邉氏が,全国で200以上の地域医療連携システムが稼働している中で,それらが医療の質や医療費削減などの効果を生み出しているか,情報共有の価値評価について問題を提起した。これを踏まえ,最初の演者として,松本武浩氏(長崎大学病院医療情報部)が,長崎県のあじさいネットの運用評価,効果評価,患者満足度評価について,参加施設に対して行ったアンケート結果を基に報告した。あじさいネットは,2004年にスタートし,現在は279施設が参加。これまで退会した施設は5施設にとどまっている。2014年に行ったアンケートでは,参加施設の約33%から回答があり,日常的に利用している施設は85%以上で,有用度は約80%という結果が出た。このことから,あじさいネットは診療の質の向上につながる情報を得ることができ,医療安全にも効果があり,医療費削減にもつながっていると松本氏は述べた。一方,合地 明氏(岡山大学病院)は,岡山県の晴れやかネットの参加施設に対して行ったアンケート結果を紹介した。晴れやかネットは,あじさいネットを参考にして,富士通(株)の「HumanBridge」とNEC「ID-Link」を中心にシステム構築し,2013年に運用を開始した。2014年6月に行ったアンケートでは,日常的に利用している施設が約4%,まだ利用したことがないという施設が約38%となった。また不満点としては,求めている情報が得られないことや利用コストが高いことなどが挙げられた。
H会場では,シンポジウム5「医療機関における外部クラウド保存の意義と課題」が行われた。座長を松村 一氏(東京医科大学医療情報部)が務めたこのシンポジウムでは,山本隆一大会長がクラウド利用に関する法規制と解決策を述べたほか,木村映善氏(愛媛大学大学院医学系研究科)がクラウド運用での検討課題を解説した。また,相坂琢磨氏(東京医科大学病院)は,自施設で運用を開始したクラウドでの医用画像管理について紹介した。同院では,富士フイルムメディカル(株)のPACS「SYNAPSE」の医用画像データを院内サーバと外部データセンターで保存している。その年間費用は600万円に上る。相坂氏は,導入経緯を解説した上で,導入時に要件を明確に定義し,リスクを事前に評価することが大事であるとまとめた。
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午後から,A会場ではシンポジウム3「ICTによる自己情報コントロールとプライバシー保護」が設けられた。森田瑞樹氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)が座長を務め,まず,橋田浩一氏(東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター)が登壇。「個人データの本人管理に基づく自律分散協調ヘルスケア」と題して発表した。また,2番目に登壇した中川裕志氏(東京大学情報基盤センター)は,「匿名化の技術的俯瞰」をテーマに講演した。中川氏は暗号化と匿名化は分けて考えるものであり,匿名化ではなく複数の仮名を与えて,それをひも付けて管理する仕組みを提唱した。また,最後の演者である荒井ひろみ氏(東京大学情報基盤センター)は,「個人ゲノム利用における情報漏えいとプライバシー保護データマイニングによる問題解決の可能性」と題し,ゲノム情報を扱うための個人情報保護の考えを示した。
すべてのセッションが終了後,A会場では閉会式が行われた。山本大会長から参加者へのお礼が述べられたほか,2016年6月2日(木)~4日(土)にくにびきメッセ(島根県松江市)で開催される第20回日本医療情報学会春季学術大会の大会長代理の岩田春子氏(島根大学医学部附属病院),2016年11月21日(月)~24日(木)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催される第36回医療情報学連合大会(第17回日本医療情報学会学術大会)の大会長代理の白鳥氏が挨拶を行い,閉会となった。
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