第35回医療情報学連合大会(その2)
医療等IDの導入に向けてセキュリティのあり方を考える

2015-11-4

ヘルスケアIT


A会場の大会企画2「医療福祉分野における番号制度のあり方」

A会場の大会企画2
「医療福祉分野における番号制度のあり方」

第35回医療情報学連合大会(第16回日本医療情報学会学術大会)2日目の2015年11月3日(火),A会場ではまず,石川広己氏(日本医師会常任理事)と大会長の山本隆一氏(東京大学大学院医学系研究科医療経営政策学講座/医療情報システム開発センター)が座長を務め,大会企画2「医療福祉分野における番号制度のあり方」が行われた。始めに,基調講演として,横倉義武氏(日本医師会会長)が登壇した。横倉氏は,地域に根ざした医療・介護を提供するためには,医療情報連携が重要であり,ICTを活用する必要があるとして,日本医師会のICT戦略を説明した。その戦略の中でも,医療等IDの創設に取り組むとして,マイナンバーとは異なる番号の必要性を解説。さらに,日本医師会内に設置した検討委員会の活動を紹介した。

横倉義武 氏(日本医師会)

横倉義武 氏
(日本医師会)

   

 

続いて,金﨑健太郎氏(内閣官房社会保障改革担当室参事官)が登壇し,マイナンバー制度の概要を説明した。金﨑氏は,マイナンバー制度により情報連携が進み国民の負担が軽減するが,マイナンバーそのものを使った情報連携は行わないとし,セキュリティやプライバシー保護対策をとった制度であると述べた。次に大山永昭氏が,マイナンバー制度における公的個人認証のJKPIについて解説し,将来的には利便性向上の観点からスマートフォンなどに利用者証明書を搭載する可能性を示唆した。この後に登壇した高木有生氏(厚生労働省情報政策担当参事官室企画官)は,番号制度のこれまでの検討状況を報告。続いて発表した石川氏は,日本医師会の立場から,医療等IDの検討課題として,取り扱い組織や発番のタイミング,申請の方法,医療等IDにひも付く情報とひも付け方,本人同意の取得方法などを挙げた。

この大会企画の後,A会場では,学会長講演が行われた。山本大会長が座長を務め,岡田美保子氏(日本医療情報学会学会長)が「EHRとClinical Research(EHR-CR)基盤-臨床的・技術的・社会的・倫理的観点からみた日本医療情報学会のリーダーシップ」と題して,講演した。岡田氏は,日本医療情報学会の概況を紹介し,新たに倫理委員会が設けられたことや今後の学術大会のスケジュールを報告。2018年は,春季学術大会が新潟県,秋季学術大会が福岡県での開催となることが決まったと説明した。また,日本医療情報学会の役割として,学術研究,実践・実装,人材育成を挙げた。そして,医療情報学の課題と学会の取り組みについて,バイオメディカルインフォマティクスへの対応,研究者の養成や専門医の認定制度の整備,医療機関における医療CIOの確立などのテーマを挙げて解説した。さらに,岡田氏は,医療機関に対して行った医療情報技師に関するアンケート結果を報告し,認知度を上げていく必要があると述べた。講演の後半には,EHRとClinical Researchに言及し,適切なケアには適切な共有が必要であり,適切な共有には適切な目的と情報,人材が必要であるとまとめた。

岡田美保子 氏(日本医療情報学会)

岡田美保子 氏
(日本医療情報学会)

   

 

A会場では,午後から大会企画3「二兎をおう技術」が設けられた。このセッションは,科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」の研究成果を取り上げるもの。座長は宮地充子氏(大阪大学)と山本氏が務めた。最初に,辻井重男氏(中央大学研究開発機構)が基調講演を行った。「組織通信と情報セキュリティ概念の高度化」と題したこの講演において辻井氏は,インターネットの普及などにより情報環境が劇的に変貌したと述べた。そして,組織通信の概念と組織暗号について触れ,楕円曲線暗号と日本で開発された多変数公開鍵暗号を紹介した。

辻井重男 氏(中央大学)

辻井重男 氏
(中央大学)

   

 

基調講演の後には,面 和成氏(北陸先端科学技術大学院大学)が「医療技術進展のためのビッグデータ統合利活用促進のセキュリティ基盤技術」,三本知明氏(KDDI研究所)が「CREST-KDDI研究所の取り組み」,西田佳史氏(産業技術総合研究所)が「多機関分散ビッグデータの統合活用技術に基づく生活安全支援システム」をテーマに,それぞれ発表した。また,田中勝弥氏(東京大学医学部附属病院)は,ガイドラインに基づく診療情報の外部保存,バックアップの考え方を示した上で,SS-MIXストレージを用いた国立大学病院の医療情報システムデータバックアップ事業について説明した。また,現在開発を進めているSS-MIX標準化ストレージ検索システムも取り上げた。最後の発表では,才所敏明氏(中央大学研究開発機構)が,「組織暗号の社会実装に向けて」と題して,長野県や新潟県など5県で実施した自治体向け組織暗号実証実験について解説した。この実証実験では,要介護認定結果通知業務,避難行動要支援者情報配布業務に組織暗号を用いて,個人情報を保護し,安全な通知や情報の送受信ができたという。

一方,B会場では,15時50分から学会企画2「臨床効果DBを通じて考える,医療情報学の役割」が行われた。大江和彦氏(東京大学大学院医学系研究科)と岡田氏が座長を務めた。このセッションでは,NCD(National Clinical Database)や臨床系の学会が行っているデータベース事業と,日本医療情報学会の取り組みが報告された。中島直樹氏(九州大学病院メディカルインフォメーションセンター)は,日本腎臓学会の臨床効果データベース整備事業を紹介。また,澤 智博氏(帝京大学医療情報システム研究センター)は,周産期の臨床効果データベースと偶発症例調査事業を解説した。また,合地 明氏は,「NCDの現状と課題」について述べた。最後に登壇した大江氏は,各学会のデータベース事業の課題として,データベースの目的と仕様に関する課題,事業管理サイドの課題,症例登録サイドの課題を説明。さらに,内閣府最先端研究開発支援プログラムの一環で開発された多目的臨床データ登録システム(MCDRS)を紹介した。すべての発表後に行われた総合討論では,プライバシー保護やデータベース登録の費用負担などについて,意見が交換された。

学会企画2「臨床効果DBを通じて考える,医療情報学の役割」の総合討論

学会企画2「臨床効果DBを通じて考える,
医療情報学の役割」の総合討論

 
   
展示棟でのポスター展示

展示棟でのポスター展示

聴講者が集まるポスター発表

聴講者が集まるポスター発表

 

●問い合わせ先
JCMI35事務局
東京大学大学院医学系研究科
医療経営政策学講座山本研究室内 
E-mail:[email protected]

 

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