第33回医療情報学連合大会(その1)
医療情報学の次の“Innovation”に向けたセッション,展示を開催

2013-11-26

ヘルスケアIT


メイン会場の様子

メイン会場の様子

第33回医療情報学連合大会(第14回日本医療情報学会学術大会)は,2013年11月21日(木)〜23日(土)の3日間,兵庫県神戸市の神戸ファッションマートで開催された。テーマは「これから始まるInnovation〜未来への挑戦」。大会長は兵庫医科大学の宮本正喜氏が務め,副大会長を大阪大学医学部附属病院の松村泰志氏が,プログラム委員長を関西医科大学の仲野俊成氏,実行委員長を兵庫医科大学の平松治彦氏が,それぞれ務めた。会場となった神戸ファッションマートは,六甲アイランドにある商業施設やオフィスなどが入る複合施設で,医療情報学連合大会では初めての会場となる。

宮本正喜大会長

宮本正喜大会長

プログラムとして,特別講演2題,シンポジウム4題,オーガナイズドセッション5題,パネルディスカッション5題などのほか,他学会や団体などとの共同企画によるシンポジウムやパネルディスカッションが13題など,多彩なプログラムが行われた。
企業展示は,EIZO,アドバンスト・メディア,日立製作所,フィリップスエレクトロニクスジャパン,テクマトリックス,PSP,富士フイルムメディカル,横河医療ソリューションズ,リマージュジャパンなど60社が出展。ホスピタリティルームは,三菱電機,東芝医療情報システムズ,富士通,ネットマークス,日本電気,日本アイ・ビー・エム,シスコシステムズ,インテル/日本マイクロソフト,アライドテレシス,GEヘルスケア・ジャパンが開設し,製品デモや独自の講演,セミナーなどを開催した。

企業展示には60社が出展

企業展示には60社が出展

各社がホスピタリティルームを展開

各社がホスピタリティルームを展開

 

初日となる21日(木)には,開会式に続いて大会長講演「医療情報システム,過去の夢と未来への夢」が行われた。午後のプログラムは特別講演1「大規模ゲノムコホート研究とヒト生命情報の統合」でスタート。松村泰志氏を座長として,京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの松田文彦氏が講演した。松田氏は,ヒトゲノム解析プロジェクトからオミックスデータによる統合的な解析による生命情報解析の現状を概括し,京都大学などが2005年から滋賀県長浜市で行っているゲノムコホート研究「ながはま0次予防コホート事業(通称ながはまコホート)」の概要や成果などについて紹介した。
B会場で行われたシンポジウム2「病院情報システムのBCPを支える基幹技術の開発と運用について」では,松村氏と京都大学医学部附属病院の黒田知宏氏が座長を務め,5名の演者が登壇した。冒頭にシンポジウムの企画意図を説明した黒田氏は,国立大学病院の医療情報システムの遠隔バックアップのシステム構築がスタートするなど,災害時の医療機関における診療継続確保(BCP)の取り組みが進められているが,災害発生後の通常診療への復帰段階として,1)発災直後の緊急医療体制,2)通常の診療体制回復までの間の地域での診療体制を維持するための状態,3)各医療機関が通常診療体制を回復する段階が考えられ,それぞれの段階で有効なHISデータのバックアップが必要となるとして,シンポジウムの中で先進施設での取り組みを紹介すると述べた。
最初に講演した高知大学医学部附属病院におけるデータバックアップ構想について述べた同大教育学部の畠山豊氏は,東南海地震での被害が予想されている高知大学での災害対策の現状を解説し,想定される被害から検討した必要な病院情報システムのデータバックアップの要件として,可能な限りオリジナルデータを保存,情報粒度の損失のないのデータコピー,ミニマムデータセットの抽出システムの必要性などを紹介した。続いて講演した,宮崎大学との大学病院同士の相互バックアップを行っている久留米大学病院の病院情報システム室の下川忠弘氏は,両病院で同じ電子カルテ(コア・クリエイトシステムのWATATUMI)を使用していることから相互バックアップが可能になっており,データベースのジャーナルファイルと文書データのバックアップを行っていることを紹介した。また,災害時のデータ参照方法として,レプリケーションで構築された災害対策用サーバをSBC(Server Based Computing)による参照と,WATATUMIモバイルによるスマートフォンを使った参照を可能にしていると述べた。
長野県相澤病院情報システム部の熊井達氏は,医療機関の災害対策は事業継続(BCP)とともに診療継続(Medical Continuity Plan:MCP)を考える必要があるとして,同院ではBCPとして病院情報システム(ソフトウェア・サービス)の電子カルテデータや文書データをレプリケーションで,人事・経理システムをバッチにて大阪のデータセンターにバックアップしている。また,MCPとしては,地域医療連携の仕組みを災害対策と兼ねて利用することを考慮しており,NTT東日本と“光タイムライン診療情報連携システム”を構築したが,現在,このネットワークを地域に開かれたシステムとしてバージョンアップを進めていると述べた。
また,「電子カルテバックアップデータの圧縮による秘密分散バックアップの所要時間短縮の試み」と題して講演したNRIセキュアテクノロジーズの佐藤 敦氏は,京都大学医学部附属病院の電子カルテシステムで検証した圧縮にかかる時間の結果を中心に紹介した。現在の電子カルテシステムは,一括バックアップを前提に設計されており,圧縮やデータ伝送にかかる時間が問題となっている。検証では,1日のデータベースのダンプファイル1.07TBに対して,データベースで圧縮後,差分データを圧縮で21時間という方法が最短でなり,日々のバックアップのためにはさらなる圧縮技術の検討が必要だと報告された。
最後に登壇した松村氏は,「電子カルテ文書の秘密分散外部保存の検討」として,総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)の課題として採択された診療記録をPDFやDocuWorks形式で保存するDACS(Document Archiving and Communication System)を用いた外部保存の検討について紹介した。

シンポジウム2の様子

シンポジウム2の様子

J-SUMMITSとの共同企画のシンポジスト

J-SUMMITSとの共同企画のシンポジスト

 

A会場の共同企画3では,日本ユーザーメード医療IT研究会(J-SUMMITS) との共催シンポジウム「ユーザーメードシステムとベンダー製システムとの調和・融合」が行われた。座長は医療法人葵鐘会副理事長の吉田茂氏と松波総合病院副院長の松波和寿氏。J-SUMMITSは,ユーザーメードによる医療ITシステムの構築の普及や促進を図り,技術や知識の共有,情報の発信などを行う研究会として2008年に設立された。J-SUMMITSの代表を務める吉田氏は,冒頭で「ユーザーメードシステムとベンダー製システムが連携するだけでなく,その先の“調和,融合”に向けた取り組みをテーマにした。ベンダー製システムと対立するのではなく,両方のシステムがどのように共存していくかを,ユーザーメードシステムを牽引するエキスパートから紹介していただく」とコメントした。
最初の演者である名古屋記念病院 の草深裕光氏は,両備システムズの「OCS-Cube CL」と富士ゼロックスの「Apeos PEMaster ProRecord Medical(ProRecord)」と融合したFileMakerシステムを紹介した。基幹システムの更新にあたって従来から構築してきたユーザーメードシステムの資産を生かし,主にインターフェイスの部分でFileMakerによる開発を行い,診療録の保存の部分は基幹電子カルテシステムとProRecordを利用することで融合を図った。札幌白石記念病院 (循環器科の開設に伴い7月より病院名を改称)の高橋明氏は,FileMakerを使って構築した地域医療連携のための患者情報共有システム“DASCH Pro”について紹介した。脳卒中地域連携をサポートするシステムとしてスタートし,現在では画像共有や,iPadを利用した運用なども可能になっており,札幌地区だけでなく北見市の“北まるnet”や十勝での運用なども始まっている。高橋氏は,DASCH Proはユーザーを中心とした構築によって進化を続けており,最新のバージョンでは病院の電子カルテシステムの連携もスタートし,地域連携のための患者情報作成も容易になっていると述べた。
続いて,製鉄記念広畑病院の平松晋介氏は,FileMakerによるユーザーメードシステムと富士通の電子カルテシステム「HOPE EGMAINーGX」と構築した,“密な連携”について紹介した。GXのバージョン4から搭載された“FileMaker連携常駐プロセス”によって,GXとFileMakerシステムを同期させて,FileMakerで作成した情報のGXへ取り込む機構などを開発し,両システムのメリットと弱点を補完した連携が可能になっている。さらに,大阪医療センター の岡垣氏は,ベンダー製の電子カルテが現場のユーザーにとって使いにくいシステムになるのは,要望をフィードバックできないウォーターフォール型の開発スタイルにあり,FileMakerを使ったユーザーメードの構築では要望を反映しながらプロジェクトを進めるアジャイル型の開発が可能だとして,同院で新たに開発した救命救急での経過記録システムを紹介した。最後に講演した都立広尾病院の山本康仁氏は,同院でFileMakerを中核として構築されているハイパーシステムについて概説し,電子カルテシステム(富士通HOPE EGMAINーGX)で蓄積される膨大なデータをリアルタイムで処理し,診療状況を一括して把握できる“データキューブ”として構成されていると述べた。このシステムを開発,運用する中でEUC(End User Computing)に必要とされる継続性やコストを考慮したシステムのあり方について紹介した。

ポスター会場のHyperDEMOの様子

ポスター会場のHyperDEMOの様子

 

ネットワーク・仮想化無料相談コーナーも設けられた。

ネットワーク・仮想化無料相談コーナーも
設けられた。

産学共同企画2013のパネル

産学共同企画2013のパネル

 

展示会場とポスター会場は吹き抜けの1階に設置

展示会場とポスター会場は吹き抜けの1階に設置

 

●問い合わせ先
第33回医療情報学連合大会事務局
TEL 090-1443-2708
FAX 0798-45-6734
E-mail [email protected]

 

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