書評:めざせMRIの達人
2013-11-11
2013年9月10日発行
著者:巨瀬 勝美(筑波大学物理物質系教授)
書 評
町田 好男 先生
(東北大学大学院医学系研究科保健学専攻画像情報学分野教授)
良い本を読む機会に恵まれました。聞きかじりだった自分の知識が,数十年のMRI開発の流れの中でどういう位置づけにあるのか再認識できた,そういう点が多数ありました。どのトピックスも,MRIの発展の大きな流れの中で継続的に研究に打ち込まれた巨瀬先生ならではの「臨場感」をもって書かれている本です。
本書は,前半のPartⅠ(いくつかの要素技術的な内容について教科書よりも「1つか2つ上のレベルの話」として解説)と,後半のPartⅡ(歴史的論文とエピソードを紹介する形でMRIの発展について解説)からなります。
PartⅠは,いきなり「NMR信号に関する教科書の誤り?」から始まります。NMR信号とは何者か?という基本問題ですが,ごく最近の最終的な決着によれば「教科書は誤り」とのこと。その内容が,数十年の経過も振り返りながら紹介されています。併せてご自身による追試も紹介されており,信頼感をもって読むことができました。トピックスは,こうした基礎的・原理的なこと,装置・パルスシーケンスに関すること,イメージング・画質に関すること,さらにいくつかの応用に関することなど多岐にわたっていますが,いずれも,発展の大きな流れの中で高いレベルからみたエッセンスというものを教えてもらうことができます。PartⅡでは,単にMRIがどういうものかというだけでなく,どのように作り上げられてきたかについて語られています。まさに,著者の意図した「単なる歴史ではなく,臨場感のある記事」になっていると思えました。
さて,巨瀬先生は物理学専攻出身で,博士課程修了後は東芝総合研究所に在籍し,初期の臨床用MRI装置の開発に携わりました。その後の大学では,実験用MRI装置を構築しながら研究を進めた経歴をお持ちで,基礎となる物理からシステムとしてのMRIまで真に精通されています。私自身は,開発設計側の一員として東芝でMRI開発に携わってきた経歴ですが,先生が東芝在籍中の当時,例えば血流イメージングの新技術などについて,明快な説明をいただいたことが思い出されます。その明快な解説が,本書ではこれだけ多くの話題について与えられています。しかも,各トピックスが独立に読める構成になっているのが読者にとってはありがたいところです。関心を持ったテーマを,関心を持ったときに自分なりのペースで読むことも可能です。
本書は,MRIにかかわる若手からベテランまで,それぞれの立場で必ず役立つと思います。一人でも多くの方に読んでいただき,MR技術への理解を深め,次の飛躍に結び付けていただければと思います。
- 【関連コンテンツ】