サイバネット,AIを搭載した大腸内視鏡診断支援ソフトウェア第二弾 医薬品医療機器等法(薬機法)承認取得
-昭和大学・名古屋大学と共同開発した,内視鏡検査中に大腸ポリープの検出を支援するAI-
2020-1-30
サイバネットシステム(株)(以下「サイバネット」)は,昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英教授,名古屋大学大学院情報学研究科の森健策教授らのグループと共同で,人工知能(AI)※1 を用いて大腸内視鏡診断におけるポリープなどの病変の検出を支援するソフトウェア「EndoBRAIN®-EYE(エンドブレインアイ)」を開発し,2020年1月24日,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」※2 に基づき,クラスII・管理医療機器※3 として承認を取得したことを発表した。
●人工知能(AI)を用いた大腸内視鏡診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN®-EYE」
サイバネットは,AIを搭載した大腸内視鏡診断支援ソフトウェア第一弾として,超拡大内視鏡の画像を対象に“診断”を支援する「EndoBRAIN®(エンドブレイン)」※4 の医薬品医療機器等法の承認を既に取得している(2018年12月)。今回開発された内視鏡画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN®-EYE」は“病変の発見”を補助するもので,昭和大学横浜市北部病院,国立がん研究センター中央病院,静岡県立静岡がんセンター,東京医科歯科大学附属病院,がん研究会有明病院の国内5施設共同の臨床性能試験を経て,医薬品医療機器等法に基づき,クラスII・管理医療機器として承認(承認番号:30200BZX00021000)を取得した。
「EndoBRAIN®-EYE」は,大腸内視鏡で撮影された内視鏡画像をAIが解析し,ポリープなどを検出すると警告を発し,医師による病変の発見を補助するソフトウェア。設計上,あえて検出した病変の位置まで特定することはせずに,音と画面上の色によって医師に警告を発するにとどめている。これにより医師の診断する余地を残しつつ検出を支援することが可能で,医師の診断に寄り添った設計になっている。なお本ソフトウェアはオリンパス社製の汎用大腸内視鏡(ハイビジョン画質以上)に使用でき,多くの内視鏡機種と組み合わせて使用することができる。
本ソフトウェアはAIの一種であるディープラーニング※5 を採用しており,先進的なAI研究で実績のある名古屋大学大学院情報学研究科森健策研究室にて研究されてきたアルゴリズム・ノウハウを実装している。前述の国内5施設から集積した動画から抽出された約395万枚の内視鏡画像を学習し,臨床性能試験では感度95%,特異度89%※6 の精度で病変の検出が可能で,内視鏡医の支援に足る十分な精度を達成している。なお,本品は市販後に自律的な学習による性能向上はしないが,学習画像数の増加やアルゴリズムの改良で性能向上が期待できる場合には,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に申請し,承認取得後,適宜バージョンアップを行う方針。
開発の背景
大腸がんは日本人女性のがん死亡数の1位,男性でも3位※7 で,効果的な対策が求められるがん種である。その対策として,大腸内視鏡で早期がんや前がん病変である腫瘍性ポリープを切除することで,大腸がんによる死亡を大幅(53-68%)に減らせることが知られている(Zauber et al. N Engl J Med 2012, Nishihara et al. N Engl J Med 2014)。しかし,1回の検査当たり腫瘍性ポリープの約22%が見落とされている可能性が指摘されていた (van Rjin JC et al. Am J Gastroenterol 2012)。見落としの内訳として,大腸のヒダや便に隠れてしまって描出ができていない場合と,画面上にポリープが描出されていてもヒューマンエラーによって見落とされてしまう場合がある。サイバネットは,昭和大学横浜市北部病院消化器センター及び名古屋大学大学院情報学研究科の森健策研究室と連携して,特に後者による見落としを防ぐことを主眼として,医師による内視鏡検査を補助するAIを2013年より研究・開発してきた。
開発の意義
大腸の長短や形状の個人差が大きいことで難しいとされる大腸内視鏡の検査は,経験豊富な医師でも負担の大きい複雑な検査と言われている。「EndoBRAIN®-EYE」を使用することで,医師の内視鏡観察を支援し,病変の発見割合が向上することが期待されている。また,既に販売されている「EndoBRAIN®」との連携によって病変検出から診断の一連の工程をAIが支援する環境が整うことで,内視鏡検査に携わる医療従事者の負担を軽減させ,ポリープなどの検出率を更に高めることが期待される。
サイバネットの医療分野への取り組み
サイバネットでは,仮想気管支鏡ナビゲーションソフトウェア「DirectPath(ダイレクトパス)」,汎用DICOM※8 データ3Dエディタ「INTAGE Station(インテージ・ステーション)」シリーズ, 内臓脂肪面積計測ソフトウェア「SlimVision(スリムヴィジョン)」や,肺計測ソフトウェア「LungVision(ラングヴィジョン)」など,長年,医療用製品の開発・販売を行ってきた。2016年からは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の委託を受け,昭和大学,名古屋大学とAIを用いた高精度な画像診断支援ソフトウェアの共同研究を続けている。
本研究への支援
なお本研究開発は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医療機器開発推進研究事業「人工知能とデータ大循環によって実現する,大腸内視鏡診療の革新的転換」(研究開発代表者・工藤進英教授)の支援を受けて実施された。
※1:人工知能(AI):EndoBRAIN®-EYEが採用しているAIはディープラーニングと呼ばれる機械学習の一種であり,市販後に自ら学習を繰り返して性能が向上するタイプのAIではない。
※2:医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法):薬機法ともよばれる法律で,医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器および再生医療等製品の品質,有効性および安全性を確保し,医療機器の安全対策強化や,医薬品・医療機器・再生医療等製品などの承認・規制を目的とするもの。この法律では診断・治療を目的としたソフトウェアも対象となる。
※3:医療機器は多種多様であるため,患者に与えるリスクに応じて,一般医療機器(クラスⅠ),管理医療機器(クラスⅡ),ならびに高度管理医療機器(クラスⅢとクラスⅣ)に分類されている。クラスII・管理医療機器は不具合が生じた場合でも,人体へのリスクが比較的低いと考えられるもので,レントゲン撮影装置や心電計,注射針,さらにはEndoBRAIN®-EYEのような一部の診断支援プログラムが該当する。
※4:EndoBRAIN®:超拡大内視鏡の画像を対象に人工知能(AI)を用いて大腸内視鏡診断での前がん病変※9である腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープを推測し,腫瘍の可能性(パーセンテージ)とともに医師に提示するソフトウェア。サイバネットが製造開発/製品化を担当し,オリンパス株式会社から2019年3月に販売開始されている。「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」クラスⅢ・高度管理医療機器承認(承認番号:23000BZX00372000)。
※5:ディープラーニング(深層学習):音声認識や画像の特定など,人間が行うようなタスクを実行できるようコンピュータに学習させる機械学習の手法。人間の脳細胞を模倣した多層構造のニューラルネットワークに,大量の画像,テキスト,音声データなどを入力することで,データに含まれる特徴を各層で自動学習させることが可能。人工知能(AI)の開発や発展を支える技術の一つ。
※6:「感度」・「特異度」:感度とは画像中に病変があるときにAIが正しく病変があると判定できる確率であり,特異度とは画像中に病変がないときにAIが正しく病変がないと判定する確率である。つまり感度が高ければ高いほどAIによる見落としが減り,特異度が高ければ高いほど誤検出が減ることを意味する。
※7:大腸がん死亡者:国立がん研究センターが発表する2019年10月04日付「最新がん統計“2017年の死亡数が多い部位”」がん情報サービス統計値(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
)より。
※8:DICOM:Digital Imaging and Communications in Medicine。CTやMRI,CRなどで撮影した医用画像のフォーマットと,それらを扱う医用画像機器間の通信プロトコルを定義した標準規格。
※9:前がん病変:がんに移行する過程,または,がんの初期状態で治療することで治癒可能なもの。
●問い合わせ先
サイバネットシステム(株)
医療ビジュアリゼーション部/須貝
TEL 03-5297-3819
E-MAIL:[email protected]
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