患者待ち時間の心理的緩和に向けた取り組み─診察表示システム・モバイルサービスの導入
佐藤 法昭(JA北海道厚生連 帯広厚生病院 医療情報課)
2017-2-1
医療や介護の現場において,タブレットやスマートフォンなどの利用が進んでいる。本シリーズでは,毎回,モバイルデバイスを有効活用している施設の事例を取り上げる。シリーズ第4回は,帯広厚生病院の佐藤法昭氏が,診察表示システム・モバイルサービスの導入事例を紹介する。
はじめに
当院が所在する北海道十勝地区は,岐阜県とほぼ同じ1万831km2の広大な面積を誇り,二次医療圏と三次医療圏が同一である全国唯一の地域となっている(図1)。その中で最大の病床数を誇る当院は,救命救急や周産期医療の中心的役割を担っているのはもちろんのこと,外来受診のため遠方から車で片道2時間以上かけて来院する患者も少なくはない。院内の混雑状況ならびに複数科受診,院内調剤による処方待ちなどの要因により,なかには終日を院内で過ごすことを強いられる患者がいることも事実である。検査や診療サイドの要因により,時間短縮を行うこと自体はすぐには困難であっても待ち時間をどのように過ごしていただけるかをテーマに,モバイルデバイスを対象としたサービスの提供に取り組んだ。
診察表示システムの刷新
当院では2014年9月に従来のオーダリングシステムから電子カルテシステムへのバージョンアップを行った。関連する周辺部門システムに関しても,更新や新規導入となるこのタイミングを好機ととらえ,外来診察室において順番が近づいたことを番号表示で知らせるる診察表示システムの刷新を行った。
各診察室前に設置した17インチモニタでは,従来は医師名と直近の呼び込み番号のみの表示であったが,新たに現在診察中患者の予約枠時刻やテロップによる病院からのメッセージも表示するなど提供情報の充実を図った。また,外来12か所に新規設置した42インチの大型モニタでは,全診察室の進行状況など,外来診察室前の表示内容を集約し,約5分で循環表示するとともに,新たな情報発信ツールとして,病院からのお知らせを投影するなど,デジタルサイネージ機能を用いた患者向け情報掲示板として放映することとした(図2)。本稿で紹介するモバイルサービスは,この診察表示システムのオプション機能であり,2014年12月から運用を開始した。
モバイルサービス
今回,新規導入したモバイルサービスでは,患者個人が事前にメールアドレス登録を行うことにより,主に外来診察当日における案内メール配信と,ブラウザによるWeb参照機能など,計5つのサービス提供を行っている。メールアドレス登録には,専用端末に診察券を読み取らせることで登録用のQRコードが表示され,バーコードリーダアプリなどで読み取ると,メールアプリと連動して登録用URLへ接続される仕組みとなっている。
サービス内容の詳細としては,(1) 診察当日朝7時30分に予約があることをお知らせする「当日案内メール」(図3a),(2) 予定診察室の進行状況をブラウザで確認できる「診察状況Web」(図3b),(3) 診察直前に表示モニタへ番号が表示されたことをお知らせする「診察案内メール」を提供している。ここまではシステム標準機能を用いたものであり,(1) の当日案内メールは診察予約患者のみを対象とすることで,予約の優位性を図っている。登録されたメールアドレス自体は,最後の利用から1年半は自動的に有効となっており,次回以降のメールアドレス登録は不要である。
1つの患者IDに対して5つまでアドレスを登録でき,高齢者に付き添う子や孫,小児科や未成年の親も併せて登録を行うことで,複数のモバイルデバイスでの利用が可能となっている。また,地域や患者の高齢者層の割合が高いため,従来型の携帯電話にも対応している。
当院では院内調剤による窓口での処方引き渡しを行っているため,診察や会計が終了しても,さらに待ち時間が発生してしまうことが,患者からの待ち時間に対する苦情やクレームの要因となっていた。そこで,番号表示システムベンダーと協議し,調剤支援システムベンダーにも協力を得ながらインターフェイスを新規開発し,(4) 引き渡し準備のできた処方番号をブラウザで確認できる「調剤状況Web」(図4),(5) 処方完成時にメールでお知らせする「調剤完了メール」を当院独自機能として提供を開始した。病院から配信したメールの下部には,参照サービスにリンクするURLが記載されており,複数の経路からアクセスができる仕組みとした。
以上,外来エリア設置の番号表示モニタと5つのモバイルサービスにより,受診日における来院前から離院までをフォローしている(図5)。前述の大型モニタは,ブロック受付や診察室エリアのほか,院内レストランやカフェテナント内にも設置し,モバイルサービスと合わせ外来診療エリア以外でも待ち時間を過ごすことを可能とした。また,調剤状況に関しては,メールアドレス登録なしにホームページや院内の掲示からもアクセスできるようにし,院外でも処方受け取りを待つことができる。これらの充実を図ることで,モバイルサービスの認知度向上をめざしている。
サービスの利用状況
本サービスの特徴は,診察状況の目安を院内のどこでも確認可能としたことにある。待ち時間の有効利用方法として,院内のカフェやレストラン,患者図書室,ギャラリー,院外においては駐車場の車内や近隣施設など目的の時間まで自由に過ごすことができるといった点は,患者から一定の評価の声をいただいている。モバイルサービスは,患者自らメールアドレスの登録が必要であるものの,稼働した2014年12月から約半年で1000件の登録数を達成し,現在は月50件ペースで増加を続けている。一方,月単位におけるメール配信の実績は,直近で外来患者全体の4~5%程度にとどまっており,まだまだ十分な利用率とは言えないことがわかる。また,利用率だけでなく,患者の来院時間などの変化を定量的にとらえ,効果について具体的な検証を行う必要があると考えられる。
今後の展開
運用上の課題としては,モバイルサービスの利用率向上とともに,診察前において予診などが必要な際に対象患者が診察室前にいない場面が増加することが予想され,運用での対策の検討が必要となっている。
機能面では,予約患者へ前日にも診察をお知らせする「前日案内メール」,料金計算終了時に金額などをメールで通知する「会計案内メール」,スタッフより任意のメッセージを適時送信できる「個別連絡メール」など,まだ未稼働のパッケージ機能があり,利用可能なシーンを増やすことで診察待ちや調剤待ち時間以外の場面においてもモバイルサービスを用いてフォローできるよう充実を図りたい。さらには,病院からの通知情報だけでなく次回予約の取得や変更,来院前の受付手続き,処方内容の確認など,モバイルデバイスやアプリを活用した患者サービスとして取り組むべき事項を,ベンダーとともに検討を行っていく予定である。
当院は,2018年に約1km離れた場所への新築移転が予定されており,移転後は現在よりも外来エリアの面積が拡大するとともに,構造が大きく変化する(図6)。当モバイルサービスの利用拡大や,診察進行状況を確認できる大型モニタの大幅増設を行い,診察室前に患者が集中することなく,どこにいても同じ情報が手に入るような工夫を計画している。併せてギャラリーや休憩スペースの拡充とともに,現在も患者から要望のある無料Wi-Fiの施設内全エリアへの提供なども行いながら,長時間拘束される受診の待ち時間を自由に過ごしてもらうためのツールとして,サービス機能の充実は欠かせない。
まとめ
今回のモバイルサービスにより,従来患者側では参照することのできなかった情報を提供し,待ち時間の心理的緩和に向けた仕組みづくりができた。また,標準機能にはなかった調剤関連機能を新規開発し,帰宅前の処方待ち時間のストレス軽減を図ることもできた。今後については,利用率向上に向け,機能追加や定量的評価,患者周知を継続していく必要があると考えている。
(さとう のりあき)
2001年北海道厚生農業協同組合連合会へ入職。本部電算課へ配属され会全体のシステム開発,運用,保守業務に従事。2012年に帯広厚生病院へ赴任し,主にインフラ担当として電子カルテ導入などに携わる。2015年7月に医療情報課課長となり,現在に至る。
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