第3回 医療革新セミナー「Japan DRLs 2020改訂の概要と被ばく線量管理・記録の動向」 開催日時:2021年2月24日(水)配信
2021-4-22
インナービジョンでは2021年2月24日(水),Webセミナー「第3回 医療革新セミナー」を開催した。月刊インナービジョン2020年10月号特集とのコラボ企画として,2020年7月に公表された日本の診断参考レベル(Japan DRLs 2020)と2020年4月から義務化された線量管理・記録についての講演に加え,スポンサードセッションとしてユーザー講演とメーカープレゼンテーションが行われた。▷ウェビナー@スイートにてアーカイブを配信中(視聴無料)。
I 基調講演
DRLs 2020改訂の概要と線量管理・記録の概要
奥田保男先生(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構情報基盤部部長)
「診療用放射線の安全利用のための指針策定に関するガイドライン」の概要
2020年4月より「医療法施行規則の一部を改正する省令」が施行され,各医療機関で診療用放射線の管理と記録,および安全利用のための指針を策定することが義務化された。厚生労働省が指針策定のためのガイドラインを公表しており,その要点を紹介する。
まず基本的な考え方として,医療被ばくに関する放射線防護では「医療被ばくに上限値はない」が,「放射線利用の正当化」と「防護の最適化」が必要であり,最適化はALARAの原則を参考に適正に実施することが求められる。研修に関する基本方針としては,各医療機関において行うほか,医療機関外の研修などでも代替可能であること,頻度としては年度あたり1回以上の研修を実施し,実施記録を記載する必要がある。
今回の改正で線量管理・記録の対象となる機器については,機器の添付文書に記載されている名称で確認できる。次に,有害事例発生時の対応においては,あらかじめ報告体制を明確にしておく。有害事例発生時には,医療被ばくに起因するものか,検査の正当化・最適化が適切に行われたかを検証し,改善・再発防止のための方策を実施する。
医療従事者と放射線診療を受ける者との情報共有についての基本方針においては,説明は主治医・歯科医が責任を持って対応することを基本に,診療放射線技師などが対応する場合には,その旨を指針に記載する必要がある。また,患者への説明には平易な言葉で作成した資料を用いる。
線量管理と記録
線量管理は,診断参考レベル(DRL)を活用して線量を評価し,ALARAの原則を考慮した上で定期的に最適化を行う。なお,例えば線量表示機能がある透視装置の国内稼働率は約40%であるなど,線量表示機能がない装置もある。Japan DRLs 2020では透視時間と撮影回数を示している。日常的に被ばく線量を測定するなど対応可能な範囲で線量を評価し最適化を実施していれば,管理していると言えると考えられる。
一方,線量記録は,機器ごと・患者ごとに行う。管理と記録は頻度や目的が異なり,記録していても管理していることにはならないと十分に理解する必要がある。管理とは,DRLを用いて自施設の状況を把握し,最適化のための検討を繰り返すことであり,記録は,患者からの問い合わせなどに対して説明できるように責任を果たすものである。
DRL
DRLは,医療機関から集められた検査線量のデータを線量の高さ順に並べ,高い方から1/4(75パーセンタイル値)をDRL値に設定している。DRLの値の根拠となる対象は,Japan DRLs 2020ではモダリティごとに「標準体格●●例の中央値」〔CTの場合:標準体格(体重50〜70kg)の20〜80歳の患者30例の中央値〕とされており,“標準的な体格”という点が重要である。そのため,各施設でDRLを用いて評価を行う際には,自施設の標準体格の患者のデータを集めてDRLと比較する必要がある。DRLは患者個人に適用するものではなく,線量限度でもない。また,DRL活用の目的は,画質を落としてまで線量を低減することではないことをしっかりと認識する必要がある。
Japan DRLs 2020改訂
わが国におけるDRLは2020年7月にJapan DRLs 2020へと改訂され,医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)のWebサイトに公開されている。DRLs 2015からの主な変更点を以下に挙げる。
・ 小児CTは,年齢幅だけでなく体重幅のDRLも策定
・ 歯科領域は,パノラマX線撮影,歯科用コーンビームCTについてもDRLを策定
・ IVRは使いやすさを考慮し,装置に表示される指標を用いたDRLを策定
・ 診断透視は,症例数が多い,あるいは被ばく線量が高い検査12種類についてDRLを策定
・ 核医学は,SPECT/CT,PET/CTについてもDRLを策定
・ 中央値を併記(線量低減の目標値として)
なお,DRLs 2015 と比較し,値の大きさが同じか超える場合はDRLs 2015の値となっている。インナービジョン2020年10月号で,各ワーキンググループ担当者が解説を行っているので,詳細についてはそちらを参照されたい。
Japan DRLs 2020は,国際放射線防護委員会(ICRP)から2017年に公開されたPublication 135に基づき改訂された。Publication 135では,DRL量(DRLが設定される線量指標)とDRL値(DRLの設定値)という用語が導入されたが,Japan DRLs 2020ではPublication 135で示されたDRL量のすべてには対応していないため,今後の改訂での対応が望まれる。
II スポンサードセッション
被ばく線量管理システム最前線
1.被ばく線量管理システムユーザーの導入事例報告
今野雅彦 先生(山形県立中央病院放射線部)/バイエル薬品株式会社
どこでも「Radimetrics」のその先に〜パッと,みえる線量情報(続編)〜
当院は「Radimetrics」(バイエル薬品社)を導入し,病院全体で活用している。PACSから連携起動でき,グラフなどによるわかりやすい線量情報を院内すべての電子カルテで表示できるため,診察ではその場で患者の不安を解消することができる。
線量管理の難しさの原因は検査装置側にある。線量管理では,評価と見直しのためにプロトコール名は必須であるが,DICOMタグはメーカー間に記載のバラツキがある。またRDSRは,プロトコール情報があいまいで最適化には不向き,接続費が高額,古い装置は対応していないといった問題もある。そのため当院では,CT3台のプロトコールを統一することで,線量管理の効率化を図っている。線量管理システムの必要条件は,さまざまなデータを収集し,臨機応変に管理できることであり,その点においてRadimetricsは,不確定な線量情報に対して柔軟に対応できる経験とノウハウを持っている。
当院では,2020年度後半から検査後のフォローを開始した。有害事象の把握では,Radimetricsで高線量患者を抽出し経過観察を行っている。また,メールと対面による被ばく相談を開設し,患者の疑問や不安を解消できるように努めている。加えて,Japan DRLs 2020を応用した当院の線量目安を作成して運用している。体重ごとに線量分布のピークを想定してDRL一覧表に記載し,プロトコール調整を行っている。スピーディな線量調整が可能になり,ひいては当院の中央値がJapan DRLs 2020の中央値に近づくものと期待している。
線量管理には膨大な時間と手間がかかるため,専任技師の必要性を強く感じる。また,診療報酬の算定も期待され,これらが整備されれば線量管理に活気が出ると考える。
2.被ばく線量管理システムガイド
株式会社アゼモトメディカル
医療被ばく管理システムAMDS×アゼモトメディカルの新ビジョン
「AMDS」と導入に必要なPCなど「ハード機器」を無料でご提供
「AMDS」は,クリニック向けから中・大規模施設向け,複数施設で比較共有できるモデルなどのラインアップを提供し,全国の医療機関に導入されている。
当社グループでは医療従事者と病院経営者を放射線医療事故から守るため,「メディカルフィールド セキュリティシステム」を開発中で,現在モニター会員を募集している。会員には,AMDSと導入に必要なハードを無料提供する代わりに,放射線漏えい監視システムの開発にモニターとして協力いただき,被ばく線量管理に診療報酬点数の算定が可能になった際にその一部を支払っていただく予定で,2021年7月末まで募集する。
現在開発中のメディカルフィールド セキュリティシステムについて紹介する。(1) 過剰な被ばくから守る:AMDSはリンケージ機能により稼働装置のプロトコール名を変更せずにDRLと連携する特徴を持つ。DRLの線量指標と自施設のデータの比較・参照・分析をオートメーション化する。(2) リアルタイムで守る:X線室内外にセンサーを設置し,散乱線や漏えい線をインターネット経由でリアルタイムにモニタリングする。いつ・どの程度漏えいしたか,被ばくしたかがリアルタイムで把握できる。地震などの災害時に漏えいしたか,誰が操作して誰がどの程度被ばくしたかがリアルタイムで把握できる。(3) ネットワークで守る:病院内だけでなく監視センターやスマホからもインターネット経由でリアルタイムに運用状況把握や危機管理を可能にする。(4) 経営効率とコスト削減で守る:常時リアルタイムの監視により,医療事故発生時の原因究明や経営判断,災害時の被害状況把握などを可能にし,役所などへの届け出を迅速化する。
インフォコム株式会社
「iRad」シリーズを活用した放射線検査・治療の線量管理
iRadシリーズでは,放射線情報システム「iRad-RS」や放射線治療システム「iRad-RT」,治療ビューア「RT Image Viewer」などをラインアップしている。
検査画像の線量情報収集では,DICOM(RDSR/画像タグ)の利用が一般的だが,接続コストやネットワーク負荷の課題があり,RDSRも万能ではない。昔から利用されているMPPSは,2017年にDICOM規格としてはリタイアしている。線量管理システムの利用では,RDSRの情報に加えてシステムの機能で算出したパラメータの取得も可能である。手入力では,撮影条件のデフォルト値反映機能を用いて情報入力の省力化を行い,将来に向けた準備として採用することが考えられる。どの方法を採用するかは,現状のシステム構成および将来展望を総合的に検討し,決定する必要がある。
ユーザーの線量管理の事例を紹介する。RIS・治療RIS の同時更新プロジェクトの中で線量管理の要望が出されたが,このプロジェクトで更新対象ではない診断PACSのRDSR取り扱いが非対応であることがわかった。一方,本プロジェクトで新規導入されるRT Image ViewerはRDSRの取り扱いができるため,線量情報をRT Image Viewerで管理することにした。さらに,iRad-RSとiRad-RTは同一データベースで動作することから,RT Image ViewerからiRad-RS/RTサーバに送信することで線量管理機能を診断・治療両方の業務に活用し,包括的に情報を管理することを可能とした。また,データピックアップ機能を用いて任意のデータを出力することで,データ加工や統計作業も可能である。このようにすることで,新システムではiRad-RS/RTを用いた線量管理を実現し,さらに将来的な線量管理システム導入も見据えた構成を実現できる。