Intelligent CT:SOMATOM X.cite Exciting Report(2021年11月号)
月刊INNERVISION AI特集 シリーズ新潮流 The Next Step of Imaging Technology Vol.13 医療AIはニューノーマルになるか
「SOMATOM X.cite」「SOMATOM go.Top」「syngo.via」による最新AIを活用した撮影技術と自動ポストプロセスの実際
中根 淳(埼玉医科大学総合医療センター中央放射線部)
CT検査の撮影技術とポストプロセスは,CT技術の進歩とともに変化していると感じている。近年では,多断面再構成画像(以下,MPR),3D画像,灌流画像,手術支援ナビゲーション画像,dual energy技術による機能画像など,CT検査を取りまくポストプロセスは多様化し,需要と負担の増加は現場の皆様が実感しているはずである。一方,撮影技術は,管電圧や管電流自動変調機能などにより自動化が進み,オペレータの主な仕事は撮影範囲の調整のみと考えている方が多いのではないだろうか。しかし,筆者は撮影技術の自動化は進んでおらず,むしろCT装置の進化がオペレータの技量に依存した業務の増加につながるという弊害が生じていると考えている。
撮影技術に関して,例えば,各社フラッグシップ機に搭載されているDual Energy scan,Area Detector scan,Ultra-High Resolution scan,Organ Dose Modulation,High-resolution scanなどを活用する場合,撮影条件に制限がかかることが多いように感じる。そのため,最新技術をルーチンプロトコールにできない,もしくはプロトコールを通常用と最新技術搭載用などと数多く作成せざるを得ず,プロトコールの選択が複雑になることを悩んでいる施設が多いのではないだろうか。言い換えると,フラッグシップ機を導入したとしても,その撮影技術の恩恵を患者に享受できるかはオペレータに依存し,CT装置の技術進歩に伴って検査の二極化に拍車がかかっているのが実情であり,現場の課題と考える。
次に,ポストプロセスに関して,シングルスライスCT時代では,オリジナル画像(横断像)のみを提供し,検査後に画像処理などが発生することはなかった。CTの多列化により,短時間にthin sliceのデータが取得可能となり,MPR画像や3D画像を目的とした検査が一般的になってきた。現在では,CT検査以上の時間をポストプロセスに費やすことも珍しくない状況である。周辺機器に目を向けると,CT装置とセットで汎用ワークステーションを導入することも普通になっている。しかしながら,ポストプロセスの需要増加と相反するように,現場では人時生産性が問題となっている。なぜなら,MPR画像や3D画像に対しては,診療報酬が基本的には割り当てられていないためである。検査室を管理している立場の方は,これらポストプロセスのワークフロー改善に頭を抱えているのではないだろうか。
以上のように,撮影技術やポストプロセスには潜在的に問題がありながらも,各社撮影技術だけが進歩し,これらの問題はなおざりにされていた。そして,ついに,これらの問題を解決できる可能性を秘めているAIを活用した技術がSiemens Healthineers(以下,シーメンス)から発表された。それが,“myExam Companion”“ALPHA Technology”“Rapid Results Technology”である。myExam Companionは「SOMATOM X.cite」(図1)と「SOMATOM go.Top」(図2)に,Rapid Results Technologyは「syngo.via」に,ALPHA TechnologyはSOMATOM X.citeとSOMATOM go.Topとsyngo.viaに搭載されているAI技術である。これらAI技術は,個別に使用することも可能だが,組み合わせることで本領が発揮され,CT装置で画像が生成されてからPACSへの転送まで,ポストプロセスの完全なる自動化が実現される。本稿では,これらのAI技術について紹介したい。
myExam Companion
まず,myExam Companionに関して紹介したい。myExam Companionは,メーカーオリジナルのカスタマイズができない“myExam Compass”と,施設ごとのポストプロセスに合わせてカスタマイズができる“myExam Cockpit”から構成される。myExam Companionは,機械学習アルゴリズムの一種であるdecision treeを活用した技術である。decision treeとは,オペレータの複雑な意思決定を分解して考えたい時に活用され,検査に関連する質問と想定される結果を樹形図で可視化させた分析のことである。言葉での説明では,わかりにくい方もいると思うので,CT検査に当てはめてdecision treeの活用を紹介したい。例として,胸部CT検査を挙げる。胸部領域では,患者の息止め可能時間,病変の位置,体格によって,撮影条件の調整を行う。時間分解能と空間分解能は,一般的には相反する関係なため,high pitch factorを一様に取り入れることは許容されないと思う。また,胸部領域において最新技術の活用を考えると,局所被ばく低減技術である“X-CARE”と可動式のSnフィルタを加えた“Tin filter technology”が挙げられる。さらに,high pitch factorはFOVの制限,X-CAREはpitch factorの制限,Tin filter technologyは実効エネルギーの変化に伴いコントラスト変化を受けることとなる。これらのメリット,デメリットを複合的に考えて,該当患者に最適な最新技術や撮影条件を取捨選択できるスタッフが何人いるだろうか。そこで,上記の材料を基にして,図3にdecision treeを模式的に作成した。
仮に,検診目的の息止め可能な女性患者に対してdecision treeを活用すると,位置決め画像撮影後に質問に答えることで,X-CARE・Tin filterを用いた撮影にプロトコールが選択されるような仕組みとなる。この技術がmyExam Companionである。myExam Companionを活用することは,該当患者において最適な撮影技術の選択をオペレータにアシストしてくれることと,プロトコールの簡素化というメリットがある。さらに,myExam Companionは,撮影技術を最適解に導くのみならず,画像再構成に関しても応用が可能である。頭部CT検査の撮影技術と画像再構成に関して,当院の使用方法を図4に紹介する。通常の頭部検査では脳実質条件のみを提供するが,MPRや骨条件画像を依頼されることもある。このような依頼を想定し,骨条件付きやMPR指示用のプロトコールを作成している施設もあるのではないだろうか。さらに,撮影技術では,水晶体被ばく低減のために,X-CAREの活用も選択肢にある。これらの材料を基に作成したdecision treeと検査時の画面を図4に示す。図からもわかるように,myExam Companionを活用するために大切なことは,どのような質問事項を作成するのかである。例えば,X-CAREのon,offを尋ねる場合,被ばく低減のために必須と考えてしまうと,体動がある方にも選択してしまう。X-CAREを活用する前提としては,ポジショニングが良好で体動がないことが前提と筆者は考えている。そのため,これらを加えて質問を作成する必要がある。このように,myExam Companionは,多様なポストプロセスや撮影技術を最適解に導くためのツールでもあるが,さらに教育的側面も持ち合わせていると感じている。それは,CTに精通している方が,検査時にどのようなことを想定して検査をしているのかを疑似体験できることである。これは,ビギナーの教育にとても役立ち,施設全体のCT技術向上にも寄与する可能性を秘めていると思う。
ALPHA Technology/Rapid Results Technology
次に,ALPHA TechnologyとRapid Results Technologyに関して紹介したい。ALPHA Technologyは,CT画像のボリュームデータから自動的に解剖学的構造を識別するAI技術である。syngo.viaのVB40では,識別できる解剖学的構造は,頭部から下肢,および上肢は肩関節までプリセットが用意されている。肋骨や椎体も自動認識し,さらにラベリングまで自動に実施される。実際の使用方法は,図5のようなプリセットから,該当する部位および断面をクリックすると,該当断面が瞬時に認識される。約2か月の使用でほとんどの部位に活用し,その高い認識精度に満足している。特に,頭部のOM lineの認識精度には驚かされた。図5のように,三次元的なポジショニングのズレに対して,OM lineを認識するだけではなく,鼻先が真上を向くように画像の回転までも行ってくれる。
この精度で画像の切り出しがされると懸念されることは,ポジショニングの軽視である。MPRでの画像作成の前提として,任意断面の作成が可能であるが,オリジナル画像以上の画質になることはあり得ない。例えば,下顎が挙上されたポジショニングで撮影し,義歯のアーチファクトがある画像でMPRを作成することは,診療放射線技師として断じて許容できない。ただ,当院のような大規模な病院では多数のスタッフが在籍するため,同じ部位のポジショニングを行っても各人のクセが要因となり,画像の再現性が低下してしまう。syngo.viaは,診療放射線技師としての高い志を持ったポジショニングが前提の下,人間のクセを取り除いて画像の再現性を向上させることにも役立ち,有用と考える。冒頭にも述べたように,ポストプロセスは施設によって千差万別である。そのため,解剖学的構造を識別できたとしても,施設の決まりに従った形で作成できなければ,自動ポストプロセスは実現されない。そこで,syngo.viaは,ユーザーで柔軟にカスタマイズが可能となっており,ALPHA Technologyによる解剖学的構造を認識しつつ,FOV,スライス厚,スライス間隔,画像枚数,画像作成順序,画像表示方法(MPR,MIP,minIP,VRT),ウインドウ設定(WW,WL)を個別に設定し,ユーザープリセットとして保存することができる。
続いて,Rapid Results Technologyを紹介する。ポストプロセスは1つの検査で1つとは限らない。例えば,図6に示す椎体のCT検査では,横断像,矢状断像,冠状断像,椎体平行画像,3D画像のうち複数作成指示を求められることも少なくない。そこで,ALPHA Technologyで述べたユーザープリセットを複数組み合わせ,一連の画像処理をまとめて実行できるマクロを作成することができる。
AI技術の連携
最後に,これらAI技術の連携に関して紹介したい。SOMATOM X.citeとSOMATOM go.Topには,CT装置側でsyngo.viaに設定したユーザープリセットを選択することが可能である。
図7のように,CT装置の画面上でsyngo.viaのWorkflow(アプリケーション)とDatarole(ユーザープリセット)をリコンジョブごとに割り当てることができる。これにより,CT検査時にmyExam Companionを活用して撮影技術と撮影条件の最適解を導き出し,リコンジョブとしてWorkflowとDataroleを介してALPHA TechnologyとRapid Results Technologyを活用し,ポストプロセスの画像処理をsyngo.viaで実施し,さらにsyngo.viaの自動転送技術によりPACSへの自動転送設定をすることで,CT装置で画像が生成されてから人間の手を介することなく,PACS転送までの完全なる自動化が実現する。
◎
現在のポストプロセスの需要を考えると,今後CT検査のシームレス化が進むのは必然であり,機器選定において生産性という要素も選択肢に挙がるはずである。まさに,SOMATOM X.cite,SOMATOM go.Top,syngo.viaは,この分野の先駆者である。AIを活用することで生産性の向上は可能であるが,問題の特定や解決をAIに求めるのは難しい。今後,AIを活用するために,われわれ診療放射線技師に求められることは,発想力・想像力・創造力であると筆者は考えている。