“SOMATOM Definition Flash”from a radiologist’s point of view
本田憲業(埼玉医科大学総合医療センター放射線科)
<Session III Latest Stories in Dual Source CT>
2015-11-25
Dual Energy Imagingでは機能画像の作成が可能であり,胸部領域においては“LungPBV(Lung Perfused Blood Volume Imaging)”を用いた血流画像や,“Xenon”を用いた換気画像が得られる。本講演では,Dual Source CT「SOMATOM Definition Flash」を用いた肺血流・換気イメージングについて述べる。
新しい画像指標が求められる背景
画像評価のうち,重症度判定・治療効果判定は主に形態評価で行われるが,主観的で観察者内・間の再現性が低いという問題がある。一方,画像から適切な数値指標を導き出せれば高い再現性が得られ,臨床的に有用な画像指標となる。その良い例として左室駆出率(LVEF)がある。また,画像指標を用いることで読影者の負担軽減にもつながるため,臨床的有用性の高い適切な画像指標の開発が望まれている。
換気血流比の重要性
LungPBVとXenon画像から得られる換気血流比(V/Q比)画像は,新しい画像指標の候補の一つになると考えている。V/Q比は肺の血液酸素化効率の決定因子であり,低V/Q比は換気に対して血流が多すぎること(静脈血混合:venous admixture)を示し,高V/Q比は換気に対して血流が少なすぎること(無効換気:wasted ventilation)を示す。適切なV/Q比は0.8〔心拍出量(CO)=5L/min,肺胞換気量(VA)=4L/min〕であり,COとVAの分布のバランスが変化することで,血液の酸素化能の指標である動脈血酸素分圧(PaO2)の値が変化する。つまり,V/Q比は,血液の酸素化能の評価に重要なパラメータと言える。
肺血流画像
LungPBVは,造影CTにおける肺野のヨード分布を画像化し,肺血流画像を得ることができる。この時,気管支動脈血流の関与はわずかなので,正常であれば無視できるが,病的な状態の場合は除外する必要がある。
この点を考慮して作成した当院の肺動脈(PA),肺静脈(PV)分離造影法の撮影プロトコルを図1に示す。本法で撮影することによって,PAとPVがきわめて良好に分離でき(図2),PA相のデータから肺血流量(PBV)が測定可能となる。
肺換気画像
肺換気画像は,Xenon 1回吸入法によりXenon-CTをDual Energyモードで撮影する。
図3は,60歳,男性,非喫煙健常者のXenon画像であるが,気管内のXenon濃度が最も高く,背側の方が換気が多いことがわかる。本症例では換気はきれいな正規分布であり,これにより換気量が測定可能である。
V/Q比画像
図4は,69歳,男性,喫煙者,肺腺癌症例のXenon画像(図4 b)とLungPBV画像(図4 c)である。両者を除算してV/Q比を算出し,V/Q比画像を作成するが,そのためには2つの画像の位置合わせが重要となる。しかし,換気と血流の撮影は順次行うため,位置ズレは避けられない。また,「0」で除算することを避ける必要もあることから,換気と血流それぞれの関心領域(ROI)の理論和の範囲内でのみ計算し,さらに,計算対象範囲内の分母=0の画素は計算しないことで,正規化したV/Q比が得られる。なお,正規化した値は定量値ではないが,真のV/Q比に比例する量であると言える。
1.V/Q比画像の指標に関する検討
V/Q比画像の指標の候補の一つに変動係数(CV)がある。CV=標準偏差値(SD)/平均値(mean)で求められ,正規分布からのズレを見るため歪度(Skewness)や尖度(Kurtosis)を測る。また,今回,フラクタル解析によるフラクタル次元についても検討した。さらに,もっと簡単な指標として,mean,最頻値(mode),中央値(median)を候補とした。
1)検討方法
フラクタルとは自己相同性を意味し,肺はフラクタル構造を持つ。フラクタル次元とはフラクタル性の指標であり,その計算法にはボックスカウント法とヒストグラム累積頻度曲線を用いた方法がある。
本検討では,上記のV/Q比画像の統計値が肺機能変化を示す指標になるかどうかを,術前と術後のV/Q比画像を作成して検討した。術前1か月以内と術後3〜6か月にそれぞれ1回ずつ,計2回の換気および血流CTを施行した。対象は12症例で,年齢は38〜86歳,疾患は肺がんが11症例(肺葉切除),肺動脈肉腫が1症例(肺全摘)であった。
2)結果
術後画像のない1症例を除く11症例の22対の術前・術後画像のうち,換気と血流の位置合わせが良好だったのは9症例の18対,中等度は3対,不良は1対であった。位置合わせが中等度であった1症例の術前V/Q比画像から得られた統計指標は,mean 0.724,SD 0.517,median 0.57,mode 0.5,Skewness 3.059,Kurtosis 14.591,FD 2.712であった(図5)。一方,位置合わせ不良例では,造影剤から出るストリークアーチファクトや心臓近傍のモーションアーチファクトのV/Q比が大きく,ノイズが増強されており,きわめてSNRの悪い画像となった(図6)。
また,全症例の統計指標を調べたところ,統計学的有意差は認められないものの,術前と比較し術後では,mean,SD,medianはやや小さく,Skewness,Kurtosis,FDはやや大きくなる傾向が認められ,CVは低下していた。
3)考察
体動や呼吸停止位置の違いによる撮影時の位置ズレや,画像アーチファクトがV/Q比画像の精度の低下因子であり,その解決策としては,画像のマトリクスサイズを小さくすることでピクセルピッチを大きくしてSNRを改善することが最も簡単な方法と考えられる。
4)検討のまとめ
V/Q比画像の統計指標に手術前後で統計学的有意差は認められなかったが,これは,もともと肺手術のみではあまり変化しないためと思われる。われわれは以前,血流SPECTにおけるヒストグラム累積頻度曲線からFDを求めた経験があるが,その際はFDに有意差が認められたため,本検討ではサンプルサイズが小さすぎた可能性もある。また,生理学的側面から見ると,肺葉切除により肺が小さくなっても,手術前後の身体活動量が同じであれば酸素消費量は不変であり,それだけの酸素を得るためには機能している小葉の割合を増やさなければならないため,当然CVは小さくなると予想される。本検討では実際に,この推測に近い結果が得られた。
なお,Xenon画像の被ばく線量は4.0〜4.4mSvであり,許容範囲と思われた。
2.Xenon画像に関するその他の検討
われわれは,ほかにもXenon画像における定量的指標を用いたいくつかの検討を行った。その一つとして,Xenon画像から全肺のヒストグラムを作成し,統計指標を用いて従来の肺機能検査との関連を見た。アーチファクトは除外して検討した結果,健常肺ではCVは約0.21,modeは約34であるが,COPDのステージ3ではCVは約0.5,modeは8であった。さらに,CTにて肺気腫が認められないにもかかわらず,Xenon画像でははっきりと診断可能な例があった。従来の呼吸機能検査との相関も良く,治療によってCVやmodeが上昇する例も経験した。
まとめ
これまでのわれわれの経験から,LungPBVを用いた血流画像やXenonによる換気画像は,今後,臨床に役立つ指標を生み出す可能性について十分に検討していく価値があると考える。
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