“SOMATOM Definition Flash”from a cardiologist’s point of view 
中森史朗(三重大学大学院医学系研究科循環器腎臓内科学)北川覚也,佐久間 肇(三重大学大学院医学系研究科放射線診断学)
<Session III Latest Stories in Dual Source CT>

2015-11-25


中森史朗(三重大学大学院医学系研究科循環器腎臓内科学)

三重大学医学部附属病院では,2012年にDual Source CT「SOMATOM Definition Flash」を導入し,包括的心臓CT検査を行っている。本講演では循環器内科医の立場から,その有用性や今後の展望について述べる。

包括的心臓CT検査の有用性

当院における包括的心臓CT検査のプロトコルを図1に示す。造影前にカルシウムスコアを計測し,アデノシン負荷Dynamic CT Perfusion(負荷Dynamic CTP),冠動脈CT,遅延造影CTの順に撮影を行う。多くの症例で造影剤量100mL,約40分で検査が完了し,少量の造影剤で有効な検査を行えている。
包括的心臓CT検査の利点の1つは,冠動脈狭窄と心筋虚血の同時評価が可能なことである。従来は,冠動脈狭窄をCT,心筋虚血をSPECTで評価していたが,放射線被ばくの多さ,検査費用の高さ,SPECTの信頼性の低さが問題であった。また,心臓MRIは,空間分解能が高いCTに比べると冠動脈プラークの評価においてMRAの信頼性が低いというデメリットがあった。CTのもう1つの利点は,循環器内科医にとって鮮明な画像に説得力があることである。

図1 当院における包括的心臓CT検査のプロトコル

図1 当院における包括的心臓CT検査のプロトコル

 

●症例1:労作時胸部不快感
症例1(60歳代,女性)は,カルシウムスコアが839,冠動脈CTで左前下行枝(LAD)近位部に病変が認められたが,有意狭窄かどうかの判断は難しく,負荷Dynamic CTPを行ったところ,中隔の前壁から心尖部にかけてperfusion defectが認められた(図2)。
心筋血流量(MBF)マップでは,同部位の血流低下が明瞭であり(図2下段),LAD病変が有意狭窄であると判断できる。
さらに,冠動脈造影検査で左冠動脈(LCA)近位部に50%と75%の狭窄が認められた。冠血流予備量比(FFR)は0.78で,有意狭窄であった。また,本症例は,冠動脈CTで石灰化が強いことがわかっていたため,冠動脈インターベンション(PCI)ではロータブレータを事前に準備し,治療に当たることができた。

図2 症例1:負荷Dynamic CTP(上段)とMBFマップ(下段)

図2 症例1:負荷Dynamic CTP(上段)とMBFマップ(下段)

 

包括的心臓CT検査による診断

当院で包括的心臓CT検査を受けた患者の背景を調べると,約半数がカルシウムスコア400以上であり,21%は1000を超えていた。また,冠動脈ステントを留置している症例も42%に上った。
CTは陰性適中率が高いと言われている。現在の国内のガイドライン1)では,胸部症状があり,Dukeスコアにより中程度リスクないし判定不能の症例に対して心臓CTが適応となるが,石灰化により心臓CTで判定困難な場合には,さらに心筋血流評価が行われる(図3)。このフローでは患者の負担が大きいが,包括的心臓CT検査では,1回の検査で冠動脈狭窄と心筋虚血を同時に評価することができ,エビデンスを積むことでガイドラインを変えうる非常に有望な検査であると考えている。

図3 安定狭心症の診断樹:運動が可能な場合

図3 安定狭心症の診断樹:運動が可能な場合
(解説はガイドライン本文を参照のこと)
(冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン. Circ. J., 73(Suppl.Ⅲ), 2009.より引用転載)

 

●症例2:右冠動脈(RCA)病変
症例2(57歳,男性)はステント留置例で,ステント内の評価が難しく,ステント近位に石灰化が見られた。負荷Dynamic CTPで下中隔と下壁に血流低下が認められたが,冠動脈造影では形態的に狭窄は見られなかった。そこで,遅延造影CTを行うと,CTPと同じ部位に造影効果が認められ,陳旧性心筋梗塞と診断された(図4)。
このような症例では,虚血と梗塞の鑑別が難しい。当院の検討2)では,包括的心臓CT検査を受けた患者の27%は既知もしくは無症候性心筋梗塞を合併しており,これらの症例では負荷Dynamic CTP単独での診断能が低下することがわかっており,遅延造影CTによる梗塞の有無の評価は重要である。

図4 症例2:MBFマップ(上段)と遅延造影CT(下段)

図4 症例2:MBFマップ(上段)と遅延造影CT(下段)

 

●症例3:労作時狭心症,PCI術後
症例3(60歳代,女性)は,LAD,RCAにステントを留置しており,冠動脈CTでは有意狭窄は見られなかった。負荷Dynamic CTPでは下壁にperfusion defectが見られ,MBFマップでも同部位の血流低下が明瞭に認められた。遅延造影CTでは,MBFマップに一致して下壁に造影効果があることから,心筋虚血ではなく無症候性下壁心筋梗塞と診断された(図5)。

図5 症例3:MBFマップと遅延造影CT

図5 症例3:MBFマップと遅延造影CT

 

当院における非侵襲的心筋血流評価

1.CTとMRIの使い分け
当院における非侵襲的心筋血流評価の検査は,MRI検査が約7割を占めている。従来,MRI不適症例にはSPECT検査を行っていたが,現在は透析患者以外は心臓CTに置き換わりつつある。
心臓MRIは,CTに比べて心機能を評価しやすいことが主な特徴である。当院の心臓MRI検査では,シネMRI,負荷/安静Perfusion MRI,遅延造影MRI,冠動脈MRAを行っている。MRIは,心機能,虚血,梗塞の総合的情報が得られることや,診断能が核医学よりも高いこと,被ばくがなく検査費用が安いこと,狭窄や心筋組織性状の評価も可能なことなどが利点である。しかし,高齢患者にとっては,検査時間や息止め時間が長いことや,コイル装着による負担が大きい。
日常診療でCTを選択する症例としては,冠動脈疾患が強く疑われる症例,ステント留置後の確認造影症例,冠動脈バイパス術後症例,高齢・息止め不良症例,不整脈が頻発する症例,慢性維持透析症例などが挙げられる。MRIは多くの蓄積されたエビデンスがあり,主に心筋症評価に用いているが,冠動脈疾患が疑われる症例については,当院ではCTを優先する方針に変わりつつある。

2.糖尿病患者に対する包括的心臓CT検査
循環器内科医が包括的心臓CT検査をどのように臨床で用いるべきかを考える上で,糖尿病患者に注目した。糖尿病患者は,冠動脈疾患の有病率が非糖尿病成人の約3倍で,致死率も高いと言われている。糖尿病患者に対しては,血糖コントロールだけでなく,冠動脈病変の早期発見も重要となる。
無症候性冠動脈疾患の患者に対する診断ガイドライン3)では,糖尿病患者に対して有効とのエビデンスがあるクラスⅠの検査法はなく,クラスⅡaにカルシウムスコア計測,クラスⅡbに心筋血流イメージングが位置づけられている。そして,DIADスタディ4)では,糖尿病患者に対する負荷心筋血流SPECTスクリーニングで予後は改善されず,またFACTOR64 5)では,糖尿病患者に対する冠動脈CTスクリーニングは予後改善にあまり寄与しないとの結果が出ており,糖尿病患者においては,心筋虚血だけ,または冠動脈狭窄だけを評価しても,予後は改善しないことがわかっている。
それに対して包括的心臓CT検査では,冠動脈CTで冠動脈狭窄とプラーク性状評価,負荷Dynamic CTPで無症候性心筋虚血評価,遅延造影CTで無症候性心筋梗塞評価が可能であり,無症候性心血管合併症を有する糖尿病患者の予後を改善できる可能性が十分にある。

3.負荷Dynamic CTPによるPCI施行判断の可能性
PCI施行の判断は,冠動脈狭窄があればFFRを測定し,有意であればPCIを行うことがゴールドスタンダードであるが,非侵襲的に負荷Dynamic CTPガイドでPCI施行を検討できないかと考え,当科にて後ろ向き研究6)を行った。一般的にFFRはPCIを減少させると言われるが,負荷Dynamic CTPガイド群でもPCIが増えることはなく,予後についてもFFRガイドPCIと負荷Dynamic CTPガイドPCIに差異はなかった。
さらに,FFRガイドでPCI不要とした群と,負荷Dynamic CTPガイドでPCI不要とした群を比べても予後に差はなかったことから,CTで問題がなければPCI不要と判断できる可能性があり,今後,前向き研究で立証していく必要があると思われる。

まとめ

SOMATOM Definition Flashを用いた包括的心臓CT検査は,冠動脈狭窄,心筋虚血,心筋梗塞を1回の検査で評価できる。低線量撮影で検査可能なため,無症候性心筋虚血・心筋梗塞スクリーニングに適しており,予後改善に貢献できるほか,PCI施行判断を行える可能性もある。費用も安く,患者にとってメリットの多い包括的心臓CT検査について,今後,臨床で前向き研究を行っていきたい。

●参考文献
1)冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン. Circ. J., 73(Suppl.Ⅲ), 2009.
2)Goto, Y., et al.:Diagnostic accuracy of endocardial-to-epicardial myocardial blood flow ratio and the influence of infarcted myocardium for detecting significant coronary artery disease with dynamic myocardial perfusion dual-source CT. SCCT 2015.
3)Greenland, P., et al.:2010 ACCF/AHA guideline for assessment of cardiovascular risk in asymptomatic adults;A report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation, 122, e584〜636, 2010.
4)Young, L.H., et al.:Cardiac outcomes after screening for asymptomatic coronary artery disease in patients with type 2 diabetes ; The DIAD study;A randomized controlled trial. JAMA, 301, 1547〜1555, 2009.
5)Muhlestein, J.B., et al.:Effect of screening for coronary artery disease using CT angiography on mortality and cardiac events in high-risk patients with diabetes;The FACTOR-64 randomized clinical trial. JAMA, 312, 2234〜2243, 2014.
6)Nakamori, S., et al.:Stress Myocardial Perfusion Computed Tomography versus Fractional Flow Reserve for Guiding Percutaneous Coronary Intervention in Intermediate Coronary Artery Disease. AHA 2014.

 

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