Dual Energy Imaging
慢性血栓塞栓症肺高血圧症におけるDual Source CTの臨床応用
大田英揮(東北大学病院放射線診断科)
<Session II Latest Stories>
2014-11-25
本講演では,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(Chronic ThromboEmbolic Pulmonary Hypertension:CTEPH)におけるDual Source CTの臨床応用について紹介する。
CTEPHとは
CTEPHは,発生機序により5つに大別される肺高血圧症の1つである。治療方針決定のためには,鑑別診断が非常に重要となる。肺血栓塞栓症はわが国でも増加傾向にあるが,そのうちの約4%はCTEPHに移行すると言われている。それ以外にも肺動脈内血栓や感染・炎症により器質化した血栓などによる血管の閉塞や狭窄,あるいは末梢側や閉塞していない血管におけるshear stressの影響やvascular remodelingなどが原因となり,肺動脈圧や肺血管抵抗の上昇を引き起こし,最終的に臨床的な病態としてCTEPHを発症するという報告1)もある。
CTEPHは,形態学的に中枢型と末梢型に大別されるが,Jamiesonらはより細かく4タイプに分類している2)。
CTEPHの画像診断では通常,肺血流シンチグラフィが行われてきた。区域性の血流欠損や換気-血流ミスマッチなどで診断され,肺血流シンチグラムが正常な場合にはCTEPHを除外できる。
また,肺動脈造影やCTAによるCTEPHの確定診断には,(1) pouch/mural defects,(2) webs and bands,(3) intimal irregularities,(4) brupt narrowing,(5) complete obstructionのうち,1つ以上の所見が必要である。急性肺血栓塞栓症のCT所見で多く認められるfilling defectは慢性症例では必ずしも認められず,存在する場合にも偏心性であることが多い。
中枢型CTEPHの造影CTでは造影欠損が明瞭で診断は容易だが,まれに腫瘍との鑑別が必要になることもある。一方,末梢型CTEPHの造影CTでは,通常の縦隔条件による撮影で末梢肺動脈の描出が不良となることが所見の1つである。また3D-CTAでは,血管の狭小化や蛇行,肺動脈の中枢側拡張を認める。
Lung PBVによるCTEPH診断
CTEPHの画像診断では上記のほかに,Dual Energy Imagingを用いた“Lung PBV”が有用である。Lung PBVは,Three-material decompositionにより肺野の造影剤成分を抽出し,ヨードマップを作成する。このヨードマップは,通常CT画像に重ね合わせて表示することが多い(図1)。
症例1はCTEPHとの鑑別が重要な特発性肺動脈性肺高血圧症だが,Lung PBVでは目立った区域性の灌流低下域は認められない。肺血流シンチグラフィでも区域性の欠損は認められないことから,Lung PBVでCTEPHの除外が可能と考えられる(図2)。
症例2はCTEPHである。CTAにLung PBVと肺血流シンチグラムをフュージョンした画像を比較したところ,灌流域のカラーマッピングはおおむね一致した(図3)。
CTEPHの治療
中枢側CTEPHの治療は,開胸による血栓内膜摘除術がスタンダードである。肺動脈造影,肺血流シンチグラフィにより血流の改善を評価するが,CTやMRIも有用である。“4D Flow MRI”では低侵襲な血流の3D表示が可能である。
CTEPHは,外科手術治療例の方が非手術適応例よりも予後が良いとの報告3)があるが,患者の40%は手術非適応であり,血栓内膜摘除術を行ったとしても10〜15%で肺高血圧症が残存する。
近年,末梢型CTEPHに対して血管を拡張する肺動脈形成術(血管拡張術)が行われるようになってきたが,治療合併症に留意する必要がある。合併症を最小限に抑えるためには,1回のセッションでは1領域程度にとどめ,複数回に分けて順次治療を行う。肺動脈形成術後の肺水腫は通常の肺水腫と異なり,拡張部位とその周囲に限局的にすりガラス状陰影やconsolidationを生じるという特徴がある。その結果,喀血や酸素化不良を来すため,リスク軽減を図り小範囲の治療を繰り返すことが,末梢型CTEPHの治療ストラテジーである。
CTを用いた術前・術中ガイドと治療効果判定
肺血管拡張術を行う上では,CTの情報が重要となる。症例3のCTEPHでは,CTAで末梢側血管の描出不良,狭小化が見られ,Lung PBVでも灌流不良域が認められた(図4)。partial MIP画像を作成し,右A8末梢の閉塞,およびS8の灌流低下域をターゲットとし,CTAガイド下にカテーテルを挿入して血管拡張術を施行した。
末梢型CTEPHでは複数回にわたって治療するため,3Dワークステーション上で治療日と治療した血管を記録することが非常に有効である(図5a)。症例4は前回左A9,今回は左A8の狭窄と末梢側の閉塞をターゲットに治療を行った。ターゲット領域をバルーンで拡張し,血流の改善が得られた様子が血管造影で確認できる(図5b,c)。また,Lung PBVでも左のS8,S9領域の血流改善が確認できる(図6a,b)。一方,肺野条件のmosaic perfusionでは評価が難しく(図6c),治療効果判定にはLung PBVが有用と言える。
症例によっては,血管拡張術の治療前後の3D-CTAを比較すると,一見して治療した末梢領域の灌流が改善していることがわかる(図7)。しかし,症例5では,治療前CTAではスリット状の狭窄病変を認識しにくく,治療前後を比較しても効果判定は容易ではない(図8上段)。それに対してLung PBVは,治療前後の変化を把握しやすく,治療効果判定に適していると言える(図8下段)。
まとめ
CT画像に基づく肺高血圧症の鑑別診断では,肺動脈形態を見るCTA,肺灌流を見るLung PBV,通常の肺野条件のCT画像を組み合わせて診断することが重要である。また,3D-CTAはCTEPHに対する血管内治療ガイドとしても非常に有用であり,Lung PBVの情報を付加することでターゲットを決定しやすくなる。さらに,血管内治療の効果判定においては,治療前後の局所灌流の変化や治療合併症の評価にもCTが有用である。将来的に,Lung PBVはCTEPHの治療予後予測を行うイメージング・バイオマーカーとなる可能性も秘めていると考える。
●参考文献
1)Wilkens, H., et al.:Chronic thromboembolic pulmonary hypertension(CTEPH);Updated Recommendations of the Cologne Consensus Conference 2011. Inter. J. Cardiol., 154, S54〜S60, 2011.
2)Thistlethwaite, P.A., Jamieson, S.W., et al.:Operative classification of thromboembolic disease determines outcome after pulmonary endarterectomy. J. Thorac. Cardiovasc. Surg., 124, 1203〜1211, 2002.
3)Condliffe, R., et al.:Improved outcomes in medically and surgically treated chronic thromboembolic pulmonary hypertension. AJRCCM, 177, 1122〜1127, 2008.