第2回 医療現場のワークフロー変革セミナー 2019
2020年1月号
政策動向 セッション2
厚生労働省の医療におけるAI/データ利活用について
黒羽 真吾(厚生労働省大臣官房厚生科学課研究企画官)
本講演では,厚生労働省における人工知能(AI)とデータの利活用施策について,政府の取り組みを含め説明する。
政府のAI戦略
政府は,2016(平成28)年4月に「人工知能戦略会議」を創設した。本会議は,総務省,文部科学省,経済産業省所管の国立研究開発法人5法人を束ねて,AI技術の研究開発と社会実装を推進する役割を担っている。2017(平成29)年12月には,厚生労働省も本会議の事務局に追加された。
さらに,わが国のAI研究開発,社会実装を加速するために,2018(平成30)年9月には,「イノベーション政策強化推進の有識者会議『AI戦略』(AI戦略実行会議)」が設置された。この有識者会議の提言を受けて,「統合イノベーション戦略推進会議」では,2019(令和元)年6月に,「AI戦略 2019」を策定した。厚生労働省はこの中で,健康・医療・介護におけるAIの社会実装に取り組む。
データヘルス改革推進本部
厚生労働省では,医療機関などが保有している健康・医療・介護データを有機的に連結して,柔軟性を持たせて機能する情報システムの整備を推進するために,2017年1月にデータヘルス改革推進本部を設置した。厚生労働省では,今後データヘルス改革を推進することで,8つのサービスの提供をめざしている(図1)。
保健医療分野AI開発加速コンソーシアム
医療現場では,医療従事者の不足や地域・診療科での偏在化,ヒューマンエラーの発生,科学的知見・論文の急増などの課題がある。これらの課題の解決に向け,AIを活用することによって,(1) 全国どこでも安心して最先端の医療を受けられる環境の整備,(2) 医療従事者の負担軽減,(3) 新たな診断方法や治療方法の創出,が期待されている。
そこで,厚生労働省では,AI開発の推進やAIを用いたサービスの質と安全性の確保を図るため,2017年に「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」を開催した。さらに,産官学が一体となって取り組む必要があるとの認識から,2018年7月には「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を設置した。
AMEDにおける研究
日本医療研究開発機構(AMED)では,2016年度から臨床画像情報基盤事業を進めている。これは,日本医学放射線学会など関連学会が連携して画像データベースを構築して,AI技術を用いた画像診断プログラムのプロトタイプの開発をめざすものである。具体的には各学会が対象とする疾患や画像の定義,クラウド基盤の整備などを行い,プロトタイプの開発などを進めている。
AI技術を用いた医療機器への対応
薬機法に基づき,AIを用いたプログラムも,医療機器に該当するものは安全性と有効性の確保のために,承認申請が必要になる(図2)。薬機法に規定された医療機器の定義に合致し,治療方針などの決定に寄与するものやリスクの蓋然性が高いものが,「プログラム医療機器」に該当する。AIを用いた画像診断支援プログラムも「プログラム医療機器」に該当するが,一方で生活習慣改善の食事メニューを提示するプログラムなどは該当しない。また,データが自動的に学習する機能が組み込まれたプログラムは,継続的に性能が変わる。審査・承認においては,このような特性を踏まえた考え方が必要となり,厚生労働省では評価指標に関する通知を発出している。
AIプログラムと医師法第17条
AIを用いて診断,治療などの支援を行うプログラムは,医師法第17条で規定されている「医師でなければ,医業をなしてはならない」との関係を明確化する必要がある。厚生労働省では,2018年12月に「人工知能(AI)を用いた診断,治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の規定との関係について」(医政医発1219第1号)を発出した。本通知では,診断,治療などを行う主体は医師であり,最終的な判断の責任を負うこととしている。したがって,AIを用いたプログラムは,医師の診断ツールという位置づけになっている。
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