技術解説(富士フイルム)
2023年4月号
Cardiac Imaging 2023 ITのCutting edge
循環器領域における解析機能の紹介と今後の展望
西岡 大貴[富士フイルムメディカル(株)ITソリューション事業部]
冠動脈疾患に対する診断・治療について,2022年3月に新しいガイドライン1)が日本循環器学会から発表され,大規模試験などエビデンスの蓄積2)により,CTファーストが提唱されている。CTは,単一モダリティによる形態からバイアビリティ評価までの一連の解析評価が可能になりつつあるとともに,新たなCT装置が登場し,スペクトラル解析に対する期待も大きく,利用範囲の拡大が見込まれている。
一方,評価項目の多さゆえに解析に時間を要するなど,現場では大きな負担となっている場合もある。とりわけ循環器領域における疾患は多岐にわたり,生体検査や画像検査を組み合わせ,的確に判断し最適な治療を行うことが必要となるため,的確な診断に加え,診断を行うまでの速度,操作性,再現性といった要因も,解析アプリケーションにおいて重要度が高いとされている。
死亡原因第2位の心疾患3)に対する解析においては,早期発見の重要度も高いため,弊社としては「高い自動抽出精度から,誰でも簡便に扱うことができる」をコンセプトに,アプリケーションの開発を行っている。最近ではディープラーニングなどの人工知能技術開発に力を入れ,また,幅広いニーズに応えるため,新たなソリューションとして医療クラウドの提供を開始した。
本稿では,富士フイルム社製3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT(以下,VINCENT)」に実装されている機能の中から,循環器領域アプリケーションにおける特徴的な解析機能とクラウドソリューションについて紹介する。
■冠動脈解析(CT)
冠動脈CT検査はボリュームデータとしてさまざまな情報を持っており,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)治療戦略として使用が広がっている。VINCENTの最新バージョンでは, ディープラーニング技術を設計に用いたアルゴリズムを搭載し,冠動脈評価を強力にサポートする。循環器内科医の使用が多くなっているslab MIP法についてもサポート機能を搭載。本来であれば,2Dベースの画像を任意に回転させ必要な画像を表示させるといったテクニックが必要であるが,VINCENTではより直感的にわかりやすくするため,3D画像上(図1 a←)で血管を選択することで,簡単にslab MIP観察が可能となる(図1 b)。また,3D画像からの関心領域の指定が可能で,3D画像上に挿入されている緑枠がslab MIPの表示箇所を示している(図2)。
さらに,VINCENTの冠動脈解析(CT)では,冠動脈の各血管領域におけるボロノイ法を利用した心筋支配領域の算出機能を有している。一般に,心筋灌流量(myocardial mass at risk:MMAR)(図3)の評価は,冠動脈治療の戦略を検討する上での一助となっている4)。
■遅延造影解析(CT)
CT検査によるバイアビリティ評価も広がりを見せているが,撮影の簡便性がその要因の一つと考えられる。造影CTで用いるヨード造影剤は,MRIでのガドリニウム造影剤と類似した薬物動態を示すため,造影CTでも遅延造影の評価が可能である(図4)。また,造影CTと単純CTとのCT値差から細胞外容積分画(extracellular volume:ECV)解析評価(図5)を行うことも可能であることから,診断に有用との報告も出ている5)。
VINCENTでは,遅延造影解析(CT)においても非剛体位置合わせを活用することで,コントラストの淡い遅延造影でもECV解析が可能となっている。
■多彩な表示方法(コンソールモード)
循環器領域のソフトウエアは,冠動脈解析のみならず複数の解析が必要となる場合も多い。上記の遅延造影以外に,心筋の動きを評価する心機能解析,心筋への血液灌流を評価する心筋パーフュージョン(CT)などが挙げられるが,解析ごとに画面を切り替えるなどの煩雑さが問題であった。そこで,解析された結果を1クリックで1画面に表示できるコンソールモードを搭載した(図6)。これにより,多数の解析が行われていても,簡便に起動・表示することができる。より詳細に一つ一つの解析の確認をする場合は,各解析のみを表示する標準モードにも切り替えが可能である。
■医療クラウドサービス
2022年4月より,「SYNAPSE VINCENT Cloud」サービスの提供を開始した(図7)。
これまでVINCENTの導入には専用PCやサーバを施設に設置する必要があったが,インターネットクラウドでそれらを置き換える本サービスでは,インターネット環境があれば,月額にてAI技術で設計した画像解析機能を,予算や用途に合わせて利用可能になる。また,常に最新バージョンの解析を利用できるところも,利用者に評価いただける点と思われる。
◎
VINCENTは,2020年,第6世代となるVer6のリリースを行った。最大の特徴はディープラーニング技術によって設計・開発された最新アルゴリズムの搭載である。VINCENTは,発売当初から臨床現場のニーズに応えながら成長し続けてきたこともあり,再現性,操作性,簡便性の高さが評価され,循環器領域の臨床現場で多く活用されている。今回は触れていないが,循環器領域でも期待されているDual Energy解析についてもソフトウエアのリリースを行った。今後も富士フイルムは,多様化する医療ニーズに対応するため,現場の要望を集約して開発を進めるとともに,クラウドモデルの活用など,変わりゆく時代の流れの一歩先をめざすことで,メディカルITソリューションに関するリーディングカンパニーとしての役割を果たしていきたいと考える。
3D画像解析システム SYNAPSE VINCENT
販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941型
認証番号:22000BZX00238000
●参考文献
1)日本循環器学会, 他 : 2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Nakano.pdf
2)Newby, D.E., Adamson, P.D., Berry, C., et al. : Coronary CT Angiography and 5-Year Risk of Myocardial Infarction. N. Engl. J. Med., 379(10): 924-933, 2018.
3)令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況. 厚生労働省.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/index.html
4)Sumitsuji, S., Ide, S., Siegrist, P.T., et al. : Reproducibility and clinical potential of myocardial mass at risk calculated by a novel software utilizing cardiac computed tomography information. Cardiovasc. Interv. Ther., 31(3): 218-225, 2016.
5)Marcelo, S., Nadine, K., et al. : Interstitial Myocardial Fibrosis Assessed as Extracellular Volume Fraction with Low-Radiation-Dose Cardiac CT. Radiology, 264(3): 876-883, 2012.
●問い合わせ先
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