FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.50
院長 濵 義之 氏
Case50 幕張不整脈クリニック 年間約600件のアブレーション治療のデータベースを基に統計解析を行い治療成績の向上に活用
JR総武本線幕張駅北口から徒歩3分の幕張不整脈クリニックは,2020年4月に開院した。君津中央病院で循環器内科医として多くのアブレーション治療を行ってきた濵義之氏が,不整脈治療に特化した診療を行うために開業した有床クリニック(16床)だ。クリニックという形態でありながら年間600件を超えるアブレーション治療を行っている。同クリニックでは,キヤノンメディカルシステムズの動画像ネットワーク「CardioAgent Pro」〔アブレーションレポート,開発は(株)ソフトクオリティ〕を導入して,不整脈治療の情報管理を行っているほか,蓄積された診療データを再発率や合併症発生率など統計解析に活用している。心房細動に対するカテーテルアブレーション治療に特化したクリニックの診療の現状と,Claris FileMakerプラットフォームで開発されたアブレーションレポートの活用を中心に濵院長に取材した。
心房細動のアブレーション治療を行う専門クリニック
幕張不整脈クリニックでは不整脈治療,特に心房細動のカテーテルアブレーション治療に特化した診療を行っている。同クリニックを立ち上げた濵院長は,2003年山梨医科大学卒業,2011年に千葉大学大学院を修了し,同年から君津中央病院循環器内科に勤務。これまで5000例を超えるアブレーション治療を手掛けてきた。クリニック開業の理由を濵院長は次のように言う。
「これまで数多くのカテーテルアブレーションを手掛けてきましたが,治療ができるのは基幹病院など大きな病院が中心で,患者さんには不整脈が見つかって不安があっても医療機関を受診するハードルが高いのではと感じていました。もっと気軽に受診でき治療ができる環境で,多くの患者さんにアブレーション治療を提供したいと考えて不整脈治療専門のクリニックを開業しました」
カテーテルアブレーションは,大腿静脈からのアプローチで心臓に到達させたカテーテルで高周波電流によって心筋組織を焼灼する治療法で,心房細動に対するアブレーションでは,主に肺静脈周囲を隔離(焼灼)することで異常電気信号の伝播をブロックして治療する。近年,CTや3Dマッピングシステムでのナビゲーションが可能になったことで治療件数が増えているが,治療できるのは設備やスタッフの充実した大学病院や基幹病院が中心で,クリニックで治療する例は全国でも少ない。
同クリニックは,「不整脈の悩み,不安。その100%排除をめざして」をモットーとして,最新の画像診断機器や治療装置などの設備のみならず,病棟での療養環境やスタッフの接遇まで含めて最善の治療が提供できる体制を整えている。アブレーション治療についても,全身麻酔で,肺静脈周囲の隔離だけでなく上大静脈隔離や左心房後壁隔離まで行うことで再発率を下げている。スタッフは常勤医師が濵院長1名,看護師18名,臨床検査技師7名,臨床工学技士2名,診療放射線技師1名,事務スタッフ6名など。手術は週3日13件前後を院長自ら行っている。開院から2024年1月までの累計患者数は6264人で,アブレーションの累計件数は2113件となっている。
データ管理にFileMakerアブレーションレポートを導入
同クリニックでは,アブレーションの病態ごとの再発率,合併症の発生率などの治療成績をWebサイト(https://makuhari-afcl.com/blog/
)で公開している。濵院長はデータベースの重要性について,「大学院生時に研修した東京慈恵会医科大学附属病院では,データベースソフトを使って,アブレーション治療に関するあらゆるデータを記録していました。そのデータベースを基に数を多くの学会発表や研究を行っており,その方法に感銘を受けました。データをまとめることは,自分の勉強になることはもちろんですが,今自分たちがやっている治療が正しいのか,現状を把握して振り返ることで治療法の改善につながります」と述べる。
濵院長は,君津中央病院では治療データベースを構築してデータを管理していたが,「診療科としてではなく個人のPCだったので,データの入力や転記に苦労していました」(濵院長)と言う。
今回の開業に当たっては,電子カルテシステムに加えてアブレーション治療に関する動画や診療データを管理するシステムとしてCardioAgent Proを導入,さらに治療に関するデータベースについては解析や統計処理が簡単にできるようにアブレーションレポートの開発をソフトクオリティに依頼した。濵院長は,「電子カルテだけでは集計や解析ができないので,FileMakerで電子カルテと連携して必要なデータを抽出して不整脈治療に関連するあらゆるデータを集約し,そのデータを基に治療結果を定量的に解析できるアブレーションレポートの開発をお願いしました」と説明する。
登録したデータを基に長期予後データを集計
FileMakerで構築されたアブレーションレポートは,治療患者の一覧,患者情報管理,治療レポートの入力・参照機能のほか,心電図データやエコー画像の取り込み,日本不整脈心電学会のレジストリであるJ-AB(カテーテルアブレーション全国症例登録研究)への登録データの管理機能などが搭載されている。診察所見や検査データなどは電子カルテに入力されるが,それらはアブレーションレポートに取り込まれるようになっている(図1)。そのほか,術後の外来での診察内容(再発の有無や日付,術後の抗不整脈薬の投与の有無など)や患者が持つApple Watchなどのモニタリングデータといったフォローアップ結果も蓄積される(図2)。アブレーションレポートで入力した治療情報やエコー画像などは,電子カルテからも参照が可能だ。
アブレーションレポートには,これらのデータから合併症の発生率や不整脈の再発率などを簡単に集計できる機能がカスタマイズで追加されている。治療成績の集計は,検査日の期間,心房細動の種類,持続期間などの条件を入力して検索すると,Kaplan-Meier 法による生存率曲線をExcelグラフで表示する(図3)。濵院長は,「日々の治療や診察の際にデータを入力しておけば,それらのデータを集計して自らの治療成績を簡単に確認することができます。アブレーションの手法の変更によって,再発率や合併症発生率がどのように変わるのかを,集計期間や心房細動の病態ごとに集計できます。アブレーションの手法は,最新の論文なども参考にして常に更新していますが,長期的な解析結果を基に根拠を持ってトライすることが可能です」と述べる。実際に,データを基に手技を最適化することで,再発率や合併症が減少しているという。
■Claris FileMakerプラットフォームによるアブレーションレポート
Apple Watchなどを用いたホームモニタリング
濵院長は手術予定患者や外来患者の所見は,事前にデータを確認して,診察前に所見や治療方針などを記載するように心掛けている。濵院長は,「診察しながらカルテに記入すると時間がかかるので,所見は事前に記載しておいて患者さんへの説明に時間をかけています」と言う。
同クリニックでは,再発を早期に発見するために心電図のホームモニタリングサービスを提供している。Apple Watchやオムロン携帯型心電計を使って心電図をホームモニタリングし,動悸などのイベントがあった際にはスマートフォンからLINEで同クリニックにデータを送信してアドバイスが受けられるサービス(無料)だ。濵院長は,「心房細動の約70%は自覚症状がありません。また,不整脈の患者さんには抗凝固薬を処方しますが,脳出血などのリスクがあります。Apple Watchなどのホームモニタリングによって不整脈をとらえることができれば,安心して抗凝固薬を中止することができますし,再発を早期に発見できれば,脳梗塞や心不全など重症化する前に対処することができます。寝たきりなどによる不要な介護状態を防ぎ,患者さんのQOLを保つことが可能です」と述べる。
データを活用して治療精度のさらなる向上をめざす
患者は千葉市をはじめとした近隣地域からが多いが,東京はもちろん日本全国や海外など遠方から来院するケースも多い。他院からの紹介のほか,Webサイトや口コミを見て来院する患者も多く,手術は2か月先まで埋まっている状態だ。濵院長は,「心房細動は加齢に伴う病気なので,アブレーションで治療をして1年間再発がなくても,その後加齢による変化で年間に2〜3%は再発します。患者さんの負担や不安を取り除けるように,データを活用しながら“不整脈の悩み,不安。その100%排除をめざして”,さらに取り組んでいきたいですね」と述べる。
アブレーション治療のさらなる成績向上のためにも,データの管理は欠かせない。不整脈治療にかかわる診療の質の向上をめざす同クリニックの診療を,FileMakerプラットフォームに蓄積されたデータが支えている。
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