FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.46

不整脈内科 科長 芳本 潤 氏

Case 40 静岡県立こども病院 循環器センターのネットワークを「GOODNET 7」で統合し小児循環器の多彩な診療情報をデータベース化

芳本 潤 科長

芳本 潤 科長

静岡県立こども病院(坂本喜三郎院長,279床)は1977年開院,静岡県中部で小児疾患に対応する総合病院として小児医療を担ってきた。同院の循環器センターは,内科,外科,集中治療科が連携して専門医による高度な医療を提供する体制を整えている。同センターでは循環器統合ソリューション「GOODNET 7」〔ニプロ(株)〕を導入し,ローコード開発プラットフォームClaris FileMakerで開発された「G-Record」を採用し,心臓カテーテル(心カテ)検査,超音波検査,手術台帳やレポートのデータベース化を進めている。同センターにおけるFileMakerの活用の経緯とG-Record運用のねらいを,不整脈内科科長でITシステム管理室室長として病院のIT化にも取り組む芳本 潤 氏に取材した。

静岡県の小児医療の中核病院として1977年開院

循環器センターは,循環器科,不整脈内科,心臓血管外科で構成され,集中治療科と連携して小児循環器集中治療ユニット(CCU)など,小児の循環器疾患に対する高度医療を提供する体制を整えている。不整脈内科は,芳本氏を科長として2021年に開設され,カテーテルアブレーションや,ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)などの植込み型デバイスによる不整脈治療を行う。循環器センターでは,年間200件以上の心臓血管外科の小児開心術,循環器科の心カテは300件を超えるなど,県内全域のほか県外からの受診も多い。

FileMakerでの循環器データベースを構築

同院では,以前から循環器センターを中心に超音波レポートや心臓血管外科の手術記録などを,FileMakerによる“ユーザーメード”で構築してきた。芳本氏が最初に赴任した2005年頃には,「院内の各部署にFileMakerの使い手がいて,さまざまなデータベース(カスタムApp)が構築されていました。個々のPCからFileMaker Serverでの管理に移行した時期で,スタンドアローンでの運用に比べて患者データの共有や検索が容易になり,利便性が向上したのを覚えています。私自身もFileMakerを使っていたので,サーバの管理やメンテナンスを行うようになりました」と説明する。
2015年に循環器動画像を管理していたGOODNETに,超音波画像のデータを統合した際に超音波のレポートシステムとしてG-Recordを採用した。この時に院内のFileMakerのデータをGOODNET(G-Record)のFileMaker Serverに統合。そして2021年9月のGOODNET 7への更新に合わせて,循環器センターの診療データ管理をG-Recordへと移行した。

G-Recordに院内データベースを集約して入力・参照を効率化

G-Recordに院内データベースを集約して入力・参照を効率化

 

GOODNETによる統合管理を開始

GOODNET(G-Record)に移行した理由を芳本氏は次のように語る。
「1つは超音波検査やカテーテルによるインターベンションの手技が多様化し,扱う項目や入力すべきデータが飛躍的に増えたことです。測定できる項目やそれに基づいた評価も複雑になり,従来の内製のカスタムAppのフリーテキスト入力がメインのシステムでは,手間や時間がかかって対応しきれなくなっていました。また,超音波診断装置のDICOM-SRなどデータの自動取り込みに対応して,入力の手間を省き正確なデータ収集が可能なシステムを構築するためにも,内製ではなく専門技術を持ったベンダーに頼むことが必要だと判断したのも理由の一つです」と説明する。
もう一つは,手術症例データベース(National Clinical Database:NCD)のスタートだ。循環器領域では日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)のほか,小児循環器領域では日本先天性心疾患インターベンション学会のレジストリ(JCIC-R)もスタートしている。芳本氏は,「レジストリ登録のための入力フォームもFileMakerで自作していたのですが,登録項目が増えて文字が小さくなりレイアウトが煩雑になって限界がきていました。正確な入力と利便性の向上のため,これもG-Recordで構築することにしました」と言う。

柔軟性と外部連携などでデータ入力を支援

GOODNET 7は,循環器の動画像を中心にさまざまな診療データを管理するためのソリューションを提供する。その中でもレポートやカテーテル室の検査台帳(カテ台帳)については,FileMakerを採用して施設のニーズに合わせた柔軟なシステムを提供しているのが特徴だ。今回の更新では,従来からの超音波レポートに加えて,心カテレポート(カテ台帳),心臓血管外科のオペレポート,MRIのレポートなどが新たに構築された。現在,FileMakerは,循環器センターのほかCCU(Cardiac Care Unit)や小児集中治療科など120台の端末にインストールされており,同時起動50台(フローティングライセンス)で運用されている。
G-Recordへの移行では,柔軟性ある入力フォーム,電子カルテなど外部システムと連携した入力の省力化,NCDとの整合性などを考慮して構築を進めた。芳本氏は,「柔軟性では,自由記載の領域を含めて入力項目をできるだけ多くして,カバーできる項目を増やしました。同時に,電子カルテにあるデータは極力利用できるようにデータウエアハウス(DWH)から取り込めるようにしました」と述べる。NCDなどのレジストリの入力サポートとしては,必要な項目を集約し,ページ内のタブの切り替えなどによって,1つの画面内で入力や参照ができるようなレイアウトを工夫した。芳本氏は,「今までは,情報を集めるために電子カルテなどあちこち探す必要があったのですが,集約されたことで利便性は格段に向上しました」と評価する。

ローコード開発を生かした柔軟なシステム構築

G-Recordでは,プラットフォームにFileMakerを採用したことで,ローコード開発によってレイアウトの変更はもちろん,仕様の変更などにも柔軟に素早く対応できる。芳本氏は,「今回の構築でも最初から完璧をめざすというよりは,運用しながら最適化しようと考えていました。現場からの要望を判断して修正をニプロに依頼していますが,こういった構築ができるのもFileMakerならではです。実際に入力項目については,もう少しシンプルにしてほしいという要望が出て,見直しを進めているところです」と話す。
FileMakerでの構築の歴史が長い同院だが,その位置づけについてはいろいろと議論があった。芳本氏は,「FileMakerでは簡単に電子カルテのような機能を持ったシステムがつくれるので,FileMakerでいいじゃないかという意見が出たこともありましたが,セキュリティやデータの堅牢性などを考えればFileMakerは“レポートメーカー”として位置づけて,作成したものをPDFなどで電子カルテに保存する方向で進めました」と述べる。現在は,FileMakerで作成したレポート類は,PDFに変換して電子カルテのnonDICOMストレージに保存して管理する運用をとっている。
データ活用の方向性について芳本氏は次のように述べる。
「大量に蓄積されたデータを診療に生かすには,データを抽出して二次利用できる仕組みが必要です。そういったデータベースが構築できれば,例えば今診ている患者さんと同じ症例で,手術の結果,治癒した場合の体重の条件などの情報から治療の方向性を決定できます。それが研究レベルではなく,日々の診療の中で収集されたデータを基に知識データベースとして診療に生かすことが理想です。知識データベースが構築できれば,ベテランの医師の経験を若い医師が手に入れることができ,それによって目の前の患者さんを助けることができます。単にビッグデータを収集するのでなく,真に患者さん個々に還元できる仕組みをめざして構築したいと考えています」
今回のGOODNETの更新では,患者情報を匿名化して研究などに利用可能な形でデータを書き出す仕組みも整備して,蓄積された診療データの活用を支援している。

■ローコード開発プラットフォームClaris FileMakerを採用したG-Record画面

図1 小児カテーテルレポート(カテーテル検査:術中記録)

図1 小児カテーテルレポート(カテーテル検査:術中記録)

 

図2 小児カテーテルレポート(JCICレジストリ:術前・術中情報)

図2 小児カテーテルレポート(JCICレジストリ:術前・術中情報)

 

図3 心臓血管外科オペレポート(オペ術前情報)

図3 心臓血管外科オペレポート(オペ術前情報)

 

先進のIT化と工夫でさらなる病院DXをめざす

芳本氏が室長を務めるITシステム管理室では,コロナ禍をきっかけにオンライン診療やQRコードを使った問診システムなど,ITを使ったさまざまな診療支援システムの構築を行っている。芳本氏は,「院長からITで解決できないかと課題をもらうのですが,病院では個人情報保護やセキュリティの壁や予算の問題もあって簡単にはいきませんが,工夫してなんとか解決するのを楽しんでいます」と言う。同院では2023年度に電子カルテシステムのリプレイスを予定している。芳本氏は,「基幹システムとの連携をより進めることで,蓄積されたデータをさらに診療に活用できるようなシステムに発展させていきたいですね」と今後の方向性を語っている。

 

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静岡県立こども病院
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