FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.43
心臓病センター センター長 柴田剛徳 氏
Case 35 宮崎市郡医師会病院 地域で最先端の循環器医療を展開する心臓病センターの診療を支える「GOODNET 7」
宮崎市郡医師会病院(川名隆司病院長,267床)は,1984年に医師会立の共同利用施設・開放型病院として開設,以来,地域の基幹病院として急性期医療を担ってきた。2020年8月に災害拠点病院としての機能を果たすべく,それまでの海側から高台となる山側の土地に新築移転した。新病院の心臓病センターでは,循環器疾患に対する最先端医療の提供をめざし最新の設備と体制を整えている。診療を支える循環器情報ネットワークとして,Claris FileMakerプラットフォームを採用した「GOODNET 7」〔ニプロ(株)〕が導入された。同院副院長で,心臓病センターのセンター長を務める柴田剛徳氏に,センターの診療の概要と循環器最先端医療を支えるネットワークの運用を取材した。
最先端の循環器医療を提供する心臓病センターを開設
新病院は,宮崎県の医療防災拠点の中核施設となるもので,ヘリポートや救急科を新設して救急医療体制を強化した。また,緩和ケア部門,地域周産期母子医療センター,心臓病センターを設けて,重点的に診療を行うことが掲げられている。
心臓病センターは,循環器内科と心臓血管外科が連携し,循環器疾患に対する高度医療を提供する体制を整えた。「心臓移植以外のほとんどの循環器疾患に対応しています」(柴田センター長)という言葉どおり,循環器内科では冠動脈インターベンション(PCI),末梢血管カテーテル治療(EVT),カテーテルアブレーション(ABL),構造的心疾患(structural heart disease:SHD)に対するTAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)やMitraClip治療(経皮的僧帽弁形成術),WATCHMAN(左心耳閉鎖システム)による治療を行うチームがそろう。また,心臓血管外科治療のほか,心臓・大血管リハビリテーション,心不全地域連携にも取り組む。循環器内科医(19名),心臓血管外科医(4名)のほか,看護師,診療放射線技師,臨床工学士,理学療法士,薬剤師,栄養士,医療事務を含めて,チーム医療を展開しているのが特徴だ。
集中治療室は,ICU・CCUを合わせて14床。設備としては,血管撮影室4室,ハイブリッド手術室,心臓血管外科手術室,320列CT2台,3T MRIなどが整備されている。また,心臓・血管超音波検査室は10室で,年間1万5000件を超える検査を行う。心臓カテーテル治療は年間1000件,EVTは300件,ABLは500件。同院は紹介患者と救急患者のみの診療ながら,循環器系疾患の患者数では全国14位(病院情報局,2018年)で,中でも急性心筋梗塞は8位(同)と全国でも有数の患者数となっている。
同センターでは,“断らない医療”と“安心して受診できる質の高い医療”をめざしている。柴田センター長は,「地域医療とは“地方の医療”ではなく,地方だからこそ最先端の医療を継続して提供することが重要であり,大都市と遜色ない高度な医療を提供することが必要です。そのためにも地域の医療機関との連携や,住民に向けた啓発など病院からの情報発信にも積極的に取り組んでいます」と説明する。
心臓病センターの診療情報をGOODNET 7で一元管理
新病院の心臓病センターでは,循環器情報ネットワークとしてGOODNET 7を導入し,電子カルテシステムと連携して運用している。電子カルテは,地元・宮崎市の(株)コア・クリエイトシステムが開発した「カルテMan・go!(マンゴー)」が導入された。柴田センター長は,「これだけの検査・治療機器が稼働する中で,患者さん一人ひとりの情報を把握して診療するためにはネットワークは不可欠です。診療情報を一元管理して的確に診断し,安全に治療を進行させるための循環器情報ネットワークとしてGOODNET 7を導入しました」と述べる。
GOODNETは,循環器動画像ネットワークから臨床現場のニーズに合わせDICOMビューワや院内Web配信システムなどへと機能を拡張し,循環器部門の情報を統合するトータルソリューションとして発展してきた。特に,多様で煩雑なデータ管理が必要なカテーテル検査関係のレポーティングシステムや台帳をFileMakerプラットフォームで構築,新しいデバイスや術式への対応,施設ごとに異なるワークフローに柔軟に対応して,多くの導入実績を誇る。GOODNET 7は,2020年4月にリリースされた最新バージョンで,ネットワークの高速化,電子カルテとの連携機能の強化,DICOMビューワ(GoodView)の機能強化などが図られている。
柴田センター長は,「センター内で発生するデータはGOODNET 7で統合的に入力・管理し,電子カルテには動画はWebで,そのほかの検査データはPDFで送信することで,検査や治療部門の情報が院内の電子カルテ端末でどこからでも参照することが可能です」と述べる。
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研究や臨床で活用できるデータベースを構築
GOODNET 7のレポーティングシステム(G-Record Report System)では,心カテ台帳,エコー台帳,急性冠症候群(ACS)調査票,心不全台帳,看護記録,手技記録,心臓血管外科手術台帳などのデータベースが構築されている。心カテ台帳では,検査・手技ごとにCAG,PCI,EVT,心臓電気生理学的検査(EPS)/ABL,植え込みデバイス,TAVIなどの手技やデバイスなどの情報の入力・管理が行える。PCIでは手技のサマリの作成や,病変(狭窄部位)について血管(分枝)ごとに記録できる。また,手技の記録だけでなくフォローアップのデータ入力も可能で,ACS調査票では急性冠症候群について発症からの病態を記録できる。同様に,心不全台帳は,心不全症例の記録で入院時だけでなく退院後の連携パス情報まで含めた記録が行える。今回の構築では,血管撮影室でのCAGやPCIの際の経過記録を入力できる看護記録を新たに構築した。看護師による術中の処置や投薬,デバイス使用などの入力をサポートするほか,ポリグラフ(循環器用生体情報モニター)と連携してバイタルデータを取り込んで時系列表示することも可能になった。
柴田センター長は,「われわれが必要としているのは,記録のためのデータではなく,研究や臨床にフィードバックできる,“使う”ためのデータです。そのために,GOODNET 7が持っている機能に加えて,われわれが必要な項目や情報を提供して,データが容易に漏れなく記録できるようにシステムを作り込んでもらいました」と話す。実際に同センターでは,学会や研究会での成果発表を積極的に行って年間250件を超える実績がある。同院では,利用(研究,論文作成)のために,GOODNET 7で入力したデータを解析する統計処理ソフトウエア「IBM SPSS Statistics」を5台導入し,常に解析が行える体制を整えている。
柴田センター長も古くからの“FileMaker使い”だが,FileMakerプラットフォームについて「ほかのデータベースソフトに比べて,項目の追加や変更が容易で,自由度が高く,ある程度のルールがわかれば誰でも構築できることが魅力です。GOODNETもFileMakerプラットフォームの利点を生かした柔軟性の高さが利点だと思います」と述べる。GOODNETは2012年から稼働しているが,「今はデータベースが非常に複雑で,項目も膨大になっているのでメンテナンスはニプロに任せています。細かい修正に対するレスポンスは早くて助かっています」(柴田センター長)と述べる。
映像や音声によるリアルタイム連携にネットワークを活用
一方で,柴田センター長は,「ネットワークではリアルタイムの情報伝達,共有が可能で,院内で行われる手技や診療業務のサポートも大きな役割です」と述べ,術中映像を院内にリアルタイムで配信・記録する“術中映像配信・共有システム”や,電子カルテと連携してカテ室の効率的な運用を行う“患者呼出システム”を構築して,安全で質の高い診療を提供している。
循環器情報ネットワークのこれからについて柴田センター長は,「理想は,どんなモダリティでも,どこのシステムでもデータを一元管理して,一つの電子カルテ画面から参照できることです。いずれはそうなると思っています。あとは,モバイルデバイスを活用して,院外から院内の情報が参照できるようになるといいですね」と述べる。
地域医療にこそ最先端の医療が必要という理念をさらに実現するために,循環器情報ネットワークの活用が期待される。
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