FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.42
院長 道家孝幸 氏 副院長 山崎 肇 氏
Case 34 札幌市 Do-Clinic 整形・運動器リハビリテーション 電子カルテ「ANNYYS_D」とiPadを活用して,整形外科医と理学療法士が連携した運動療法を核とした診療を展開
札幌市中央区のDo-Clinic(ドゥクリニック)は,札幌市電の「西15丁目」停留場近くに2019年6月に開院した,整形外科・運動器リハビリテーションの専門クリニックである。整形外科医の道家孝幸院長と理学療法士の山崎 肇副院長がタッグを組み,整形外科疾患に対して理学療法士による運動療法を主とした診療を展開している。同クリニックでは,電子カルテシステムにFileMakerプラットフォーム(クラリス・ジャパン)で構築された「ANNYYS_Developer版」を導入し,PACSやさまざまな検査機器を連携した診療情報システムを構築している。医師と理学療法士が密に連携した診療を支える,電子カルテを中心としたシステム運用を取材した。
整形外科医と理学療法士が連携する新しい診療を展開
札幌医科大学出身の道家院長は,大学や北海道内の医療機関で肩関節や骨粗鬆症を専門とする整形外科医として経験を積む中で,従来の手術を中心とした整形外科の診療では治せない患者が多いと感じていたという。
「手術をしても良くならなかったり,反対に骨の変形や腱損傷があっても痛みがなく動きにも支障がないといった症例を経験してきました。試行錯誤する中で,整形外科を受診するような患者さんのほとんどは,運動機能の低下やバランスの悪さが原因だと気がつきました。そこで,解剖学的な破綻だけを診るのではなく,患者さんの全身の状態を把握して運動機能を治すことが必要だと考え,そのコンセプトを実践するクリニックを立ち上げました」(道家院長)
クリニックには,山崎副院長を含む7名の理学療法士(PT)が在籍し,運動機能を改善・向上するためのリハビリテーションを中心にした治療を行う体制を整えている。院内には,一般的な整形外科で用いられる物理療法(電気刺激や温熱療法など)の機器はなく,150m2の広いリハビリ室には,施術用のベッド7台のほか,体組成計やトレーニング機器などがそろう。道家院長は,「運動療法についてはPTがスペシャリストです。診療では最初に私が骨折や腱の損傷などを診断し,あとは痛みの原因や動きについてPTと連携して運動機能を評価してリハビリテーションを行って治療していきます」と言う。山崎副院長はリハビリテーションの方針について,「PTは,患者さんの運動機能の何が問題かを評価して,リハビリを通じて治していきます。リハビリのコンセプトは“自ら治す”で,患者さんが自発的に動き,自ら治すことをお手伝いすることがPTの役割だと言えます」と述べる。
オープンから1周年を迎え,これまで約1800人の患者を診療したが,手術を勧めたのは20人に満たないという。道家院長は,「1年が経過し,リハビリで症状が改善していく患者さんを見て手応えを感じています。われわれの診療方針が浸透するには少し時間が必要かと思っていましたが,おかげさまで来院者数も右肩上がりで着実に広がっていることを実感しています」と言う。
同クリニックでは,“健康寿命を延ばす”ことをめざして,病気になる前の予防が重要になることから,骨粗鬆症検診,運動器健診,乳児股関節検診,野球肘検診などの検診・健診プログラムを充実させている。道家院長は,「運動機能の低下は,姿勢の悪さや身体の硬さ,筋力の衰えから始まります。そのために身体の動きをチェックする運動器健診や骨密度などを計測して骨粗鬆症の予防につなげる骨粗鬆症検診などを行っています。早い段階から全身の状態を管理することは,患者の健康状態の把握にもつながります」と説明する。
カスタマイズの柔軟性を評価して「ANNYYS_D」を採用
同クリニックでは,電子カルテシステムにFileMakerプラットフォームを採用した「ANNYYS_Developer版(以下,ANNYYS_D)」を採用,医事システム(日本医師会ORCA管理機構の日医標準レセプトソフト),PACS(アストロステージ社製)などと連携したシステムを構築している。
道家院長は,クリニックのIT化のコンセプトについて,「新しいスタイルの診療を実現するための電子カルテが必要だと考えていましたが,既製の電子カルテではカスタマイズが必要でコストがかかることがネックでした。開院前にシステムのリサーチを目的に国際モダンホスピタルショウに参加したときに,出展していたクラリス・ジャパンのブースで紹介されたのがANNYYS_Dでした」と述べる。
電子カルテを中心にPACS連携や検査機器とのDICOM連携を実現
ANNYYS_Dは,日本外来小児科学会・電子カルテ検討会で開発された電子カルテで,ANNYYS_D自体はフリーウエアだが,開発メンバーの一人である秋山幸久氏が代表取締役を務める(株)エムシスが,事務局として導入支援や運用のサポートを行っている。山崎副院長はANNYYS_Dについて,「FileMakerベースの電子カルテであり,こちらの要望を反映したカスタマイズも可能で,ユーザーとしてエムシスと一緒に作り上げていけると感じて導入を決めました」と述べる。PACSなど他システムや各検査機器との連携などについてはエムシスが担当して構築した。
同クリニックでは,ANNYYS_Dの患者基本画面の上部に,骨粗鬆症について,治療中や骨密度測定を行っているかどうかを“骨”マークと次の測定の目安の月(半年後,1年後など)を表示している(図1)。道家院長は,「骨粗鬆症は症状がなく進行するので予防と継続的な治療を行うことが重要です。画面上に表示することで,診察の際に忘れずに患者さんにお知らせすることができます」と言う。
検査機器は,X線撮影装置,超音波診断装置,骨密度測定装置などが導入されているが,これらの機器とはMWMオーダ連携によって,ANNYYS_Dからの検査指示を出すことでIDや患者名などが転送され,装置側で再入力せずに検査がスタートできる。
医師とPTの双方向の連携を可能にする電子カルテを構築
電子カルテでは,医師とPT,医師の診療記録とリハビリ記録の一元的な管理と情報連携のしやすさにこだわった。山崎副院長は,「これまでの病院の電子カルテは,リハビリ部門は別のシステムになっていることが多く,医師のカルテとリハビリカルテの情報を相互に参照できない弊害を感じていました。ANNYYS_Dでは,医師とPTの情報が一元化でき,双方向に情報共有できます」と述べる。
リハビリ部門には,エムシスがFileMakerプラットフォームで開発した「リハカルテ」を導入した。リハカルテは,エムシスがリハビリ管理総合ソフトウエア「リハタスク」の経験を生かして開発したもので,同クリニックが第1号ユーザーとなる。リハカルテでは,実施内容や評価の記録のほか,iPadを使った写真の取り込みが可能になっている(図2)。山崎副院長は,「写真や動画をカルテ上に記録したいと思っていたのですが,なかなか実現できませんでした。iPadとFileMakerを組み合わせることで,撮影,記録,説明,情報共有を一気に実現することができました」と言う。リハカルテの情報は診察室の端末からも参照でき,道家院長は,「患者さんの最新の状態を確認できます。写真があることで直感的に把握できるメリットは大きいですね」と評価する。山崎副院長も,「PTも医師のカルテを手元のiPadで確認できるので,情報連携のハードルが下がりました」と述べる。
ANNYYS_Dのシステム構成は,FileMaker Server(Mac mini)1台,クライアントは診察室,リハビリ室,受付などにiMacやWindows PCを設置するほか,リハビリ室ではiPadを7台導入して,カルテの入力や患者説明に活用している。山崎副院長は,iPadの活用について,「iPadであればスタッフの数が増えても,比較的安価に増設できます。実際にPTは開院当初の4名から7名に増えましたが,iPadを増やして1人1台の環境で業務ができています。診療では,ドローソフトを使って実際にタッチペンで写真に書き込みながら説明できるのは大きなメリットです」と言う。
iPadを写真撮影や患者説明,さらに問診などへ活用
同クリニックは,待ち合いスペースのデザインや,腰や膝関節の悪い患者さんにやさしいヒップバーやいすなど,細部にまでこだわっている。道家院長は,院内のIT化についても,「まだ理想の2~3割しか実現できていません。iPadについても,これからは問診や患者さんへの病態の説明などにも活用していきたいと考えています。患者さんにとって,より便利でスムーズに診療を受けてもらえるようにさらに工夫をしていきたいですね」と言う。
道家院長が取り組む整形外科診療を,ANNYYS_DをはじめとするFileMakerプラットフォームが支えていく。
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