FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.39

Case31 三田市民病院 FileMakerプラットフォームの「GOODNET」を中心にした情報共有で,安全で効率的なカテ室運用を実現

循環器内科部長・心臓センター長 吉川糧平氏,臨床工学科 深田陽平氏

▲左から吉川 氏,深田 氏

▲左から吉川 氏,深田 氏

三田市民病院(300床,病院事業管理者・院長:荒川創一)は,地域医療支援病院として兵庫県三田市を中心とする約30万人に対する急性期医療を担っている。同院では,増加する循環器疾患に対してより高度で専門的な治療を提供するため,2009年に心臓センターを立ち上げた。センターでは,循環器部門システムとして「GOODNET」(グッドマン)を導入,FileMakerプラットフォームの特長を生かし,映像配信システムなどとも連携して,安全かつ効率的なカテーテル検査室の運用を行っている。情報共有をキーワードに構築された循環器部門システムの運用を,循環器内科部長・心臓センター長の吉川糧平氏と,臨床工学科の深田陽平氏に取材した。

心臓センターを中心に24時間体制で循環器疾患に対応

三田市は兵庫県の南東部に位置し,大阪や神戸のベッドタウンとして発展してきた。三田市民病院は1949年に設立,1995年には病院をリニューアル,地域医療支援病院として三田市を中心とする2次医療圏の中核病院の役割を担っている。
循環器内科では,2004年に吉川氏が赴任後,スタッフの増員や血管撮影室(カテ室)の拡充(1→3部屋)など血管内治療の体制を充実させてきた。2009年には心臓センターを開設し,日帰りカテ検査や冠動脈CTなどの外来,救急患者を含めた重症病棟などに24時間体制で対応し,2017年度には年間1125件の心臓カテーテル検査・治療を行っている。
循環器部門のシステム化は,吉川氏の赴任と同時に始まった。吉川氏は,京都桂病院でFileMakerプラットフォームで構築された循環器ネットワークの使用経験があり,有用性を実感したことから,紙管理だった部門のシステム化を進めた。吉川氏は,「カテ治療は繰り返し治療を行う患者が多く,過去の記録を参照しながら進めることが重要です。それだけに電子カルテには収まらない多種多様な情報を簡単に記録でき,素早く参照できるシステムが必要です。FileMakerでは,日々変化する現場の状況に対応できる柔軟性と情報がすぐに取り出せる検索性の高さを実感していましたので,FileMakerプラットフォームでのシステム構築を進めました」と述べる。同院には,動画像管理システムとしてGOODNETが導入されていたことから,GOODNETのカテーテル台帳(カテ台帳)やレポートシステムをベースとして,2006年に入職した深田氏が中心となり,グッドマンとも協力しながらFileMakerでの構築を進めてきた。

GOODNETを導入して循環器関連のデータを統合管理

同院では,2017年の血管撮影装置(フィリップス社製「Azurion」)の更新に合わせて,循環器ネットワークを一新した。GOODNETについても,新バージョンに更新され,動画像管理システムや心臓解析システム,カテ台帳や各種レポートシステムなどをトータルに提供する循環器総合ソリューションとなった。バージョンアップしたGOODNETは,FileMakerにおいてもパッケージ化された部分のユーザーによる修正や機能の追加はできなくなったが,深田氏は,「項目などの追加・修正に関しては迅速に対応してもらえます。また,導入に当たっては,われわれからも要望を出してシステムに反映してもらいました」と述べる。電子カルテシステム(ソフトウエア・サービス)とも連携し,患者基本情報やオーダ(カテ検査の予定)などを取り込み,GOODNETで作成したレポートはPDFとして登録する。
吉川氏は心臓センターの新しいネットワークについて,「心カテの件数が増えたことで,患者安全はもちろん業務の効率化やスタッフの働き方などを考慮して,カテ室だけでなく病棟も含めて円滑な診療を進めるためのシステムを構築しました」と,そのねらいを説明する。

患者呼び出しと映像配信システムでカテ室の情報を共有

カテ治療では,医師,看護師,臨床工学技士,診療放射線技師など多くのスタッフがチームとして診療に当たる。深田氏は,「それだけに,いかにスタッフ間や部門内での情報共有をスムーズに進めるかがシステム構築のポイントでした」と述べる。
その一つが,GOODNETの機能の一つである患者呼び出しシステム「G-CALL」と,血管撮影検査画像録画配信システム「Riders」(菱電商事)を連携した情報共有システムである。G-CALLは,患者呼び出しシステムと予定表,SNS形式のコミュニケーションツール,患者情報共有ツールなどを統合したシステムである。カテの予定表と連動して該当患者の入退室の依頼などをメール形式で行う。また,Ridersはシネ画像,IVUS(血管内超音波),ポリグラフ(心電図),患者監視カメラなどの映像を1つのモニタに集約して出力できるシステムである。この2システムの端末をカテ室と循環器病棟のナースステーションに設置,カテ室では3室の状況を1か所でモニタリングでき,病棟では大型モニタでカテ室の状況を把握できる。吉川氏は,「従来は電話(院内PHS)連絡でしたが,互いの状況がわからず患者の入退室にタイムラグが発生するなど行き違いが多くありました。G-CALLではカテ室のステータスが確認でき,連絡もSNSのように簡単で互いに状況を確認できます。また,映像でカテ室の状況が直接見られるので,指示出しや急変対応などが迅速に行えるほか,病棟スタッフも安心して業務を進めることができます」と述べる。
患者呼び出しシステムでは,“呼出”“カテ中”“お迎え”などのボタンで進捗状況を登録し,該当患者の背景色が変化する。また,呼出やお迎えボタンを押すことで,メールが発信され,SNSのようなタイムライン表示で確認や既読の管理ができる。さらに,病棟では音声とパトライトでメールの到着がわかるようになっている。

循環器病棟のナースステーションでは,大型モニタを掲示してカテ室の状況をリアルタイムで把握。メールの到着はパトライト(↓)でも通知。

循環器病棟のナースステーションでは,大型モニタを掲示してカテ室の状況をリアルタイムで把握。メールの到着はパトライト()でも通知。

 

G-CALLの予定表(左)と患者呼び出しシステム(右)画面

G-CALLの予定表(左)と患者呼び出しシステム(右)画面

 

スタッフ間の情報共有を促進し安全で効率的な手技を提供

G-CALLの“患者情報共有ツール”は,カテ治療を行う患者に対する注意事項や申し送り事項などを記入し共有できるシステムだ。医師,看護師,臨床工学技士がそれぞれ入力でき,患者詳細画面として全スタッフが確認できる。毎朝,カテ室で行われるカンファレンスでは,当日の治療内容についてスクリーンに予定表と患者情報共有ツールを表示し,CTや検査カテの画像も表示しながら情報を共有する。深田氏は,「GOODNETに情報が集約されているので,短時間で効率良く全スタッフが情報を共有することが可能です」と言う。
また,入室時には患者のリストバンドのバーコードを読み取り,本人認証と同時に,検査室内のモニタにGOODNETの画面を表示し,術式,使用デバイスなどの確認を行う“タイムアウト”を行っている。深田氏は,「大型モニタに表示することでスタッフ全員が情報を確認,共有できます。これも当院の工夫としてお願いして装備してもらったものです」と説明する。

G-CALLの“患者情報共有ツール”

G-CALLの“患者情報共有ツール”

 

カタログや資料をすぐに参照できる“カテマニュアル”

“カテマニュアル”は前システムで深田氏が構築していたもので,新しいGOODNETにも移行された。血管内治療には,カテーテルをはじめとして多くのデバイスが使用される。同院で登録されている材料だけでも数千種類あるが,カテマニュアルはそれらのデバイスや周辺機器のカタログ,術式を解説した資料などを登録して簡単に参照できるように工夫した仕組みだ。深田氏は,「カテーテル治療は日進月歩で,使用するデバイスの進化も早く,その数も膨大です。われわれも日々勉強していますが,すべてを把握することは難しいことです。手技中に医師に的確な情報を提供するため,また,スタッフ間の経験差を埋めるためにも,デバイスなどの情報を確認できるように作成しました」とねらいを説明する。
また,カテレポートには,入力を確実に行うためフィルタによるチェック機能が搭載されている。記入項目を記載者の職種(医師,臨床工学技士など)で色分けし,各自が入力するべき項目を明確にし,記入されると色が消えて記入漏れを防ぐ。深田氏は,「忙しい臨床の中で,記載漏れはどうしても発生するので,チェック機能として追加しました。正確で確実なレポート作成を支援できていると思います」と述べる。
深田氏は,カテレポートに関してはほぼ完成形に近いのではとして,「今後は,カテマニュアルなど独自の工夫の部分をさらに充実させていきたいですね」と,これからの方向性について説明する。
ネットワークを活用して患者安全と業務効率を向上し,スタッフの働き方にも配慮した同院のシステムは,カテ室や手術室の情報共有の新しい形となることが期待される。

カテマニュアル画面

カテマニュアル画面

 

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三田市民病院
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