FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.39

Case30 公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院 院内の臨床データベースをFileMakerプラットフォームで統合し,臨床研究のさらなる質の向上をめざす

副院長/研究所副所長 福井基成氏,糖尿病内分泌センター部長 濵崎暁洋氏,医療情報部 長谷川義継氏

▲左から長谷川氏,福井氏,濵崎 氏

▲左から長谷川氏,福井氏,濵崎 氏

公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院(病院長:吉村長久)は,大阪市北区の総合病院として29診療科で高度急性期・急性期医療を提供しているが,同時に京都大学と密接に連携して学術研究を行う医学研究所の付属病院として,医学研究に力を入れているのが特色だ。同院では,各診療科でFileMakerに集積された臨床データベースを,共通のプラットフォームで統合し入力項目の共通化や横断検索を可能にした“統合臨床データベースシステム”の構築を進めている。臨床研究の推進のためのインフラづくりの取り組みを,福井基成氏(副院長兼研究所副所長),濵崎暁洋氏(糖尿病内分泌センター部長)と,医療情報部の長谷川義継氏に取材した。

医学研究所の付属病院として1928年に設立

北野病院は,大阪の実業家だった田附政次郎氏の寄付を元に設立された田附興風会医学研究所の付属病院として,1928年に開設。現在は大阪市中心部(北区扇町)で699床,29診療科,外来患者数1日平均1500人の診療規模を持つ総合病院として高度急性期・急性期医療を提供している。同院の特色は,医学研究所とともに医学研究にも積極的に取り組んでいることだ。医学研究所には12の研究部門と医学研究支援センターがあり,北野病院の各診療科や部署と連携してさまざまな臨床および基礎研究が行われている。
その中で,北野病院では臨床研究のさらなる充実をめざして,さまざまな取り組みが進められている。医学研究所では,2013年から,検査などで生じた残余検体などを超低温(−80℃)で保存・管理するシステムをスタート,現在1万本を超える検体が保存されている。さらに,臨床研究データベースの充実をめざして,2015年に「検体保存臨床データベースワーキンググループ(WG)」を立ち上げて,各診療科のデータベースを集約し,共同利用できるシステムの構築を進めている。

各診療科の研究データベースをFileMakerで統合

院内を横断した統合臨床データベース(以下,統合臨床DBと略記)は,診療科が個別に構築していた臨床・研究用データベースをFileMakerプラットフォームで統合。電子カルテシステム(CIS:日本アイ・ビー・エム)とも連携して,データの入力支援,診療科を横断した検索などを可能にすることをめざしている(図1)。統合臨床DBの構築について福井氏は次のように説明する。
「これまで各診療科ではその専門分野において質も精度も高いデータが蓄積されていました。しかし,個々に独立したデータベースであったため,当該診療科でしかこのデータを有効に活用できませんでした。そこでWGが中心となり,FileMakerプラットフォーム上にこれらのデータベースを置き,他の診療科や部署が利用することができる共有項目などを定めて,相互に参照できるようにしました。統合によって,重複入力の削減や情報の共有化,診療科を横断した統合検索を可能にし,臨床研究のさらなる質の向上をめざしています」
構築は,医療情報部の長谷川氏を中心に各科の研究用DBをFileMaker Serverに集約,WG参加の診療科を中心にデータの相互利用を可能にした。現在,参加している診療科は,呼吸器内科,糖尿病内分泌内科,リウマチ膠原病内科,腎臓内科,消化器内科(内視鏡),眼科,救急部など。また,統合臨床DBは,CISとESSアダプタ(Actual Technologies社製)を使用したデータ連携によって,電子カルテからデータを取り込む。これによって,患者IDをキーにしたFileMakerへの患者基本情報や検査データのリアルタイムの取得が可能になった。このCISとFileMakerの連動と患者ポータル画面については,(株)ジュッポーワークスが構築した。そのほかの院内におけるFileMakerでの開発は,長谷川氏が担当している。長谷川氏は,「電子カルテとのデータ連携はESSアダプタで,リアルタイムでデータの取り込みが可能になりました。それによって各ファイルでの電子カルテのデータがより現実的になりました」と述べる。

図1 診療科を超えた臨床データベースを実現

図1 診療科を超えた臨床データベースを実現

 

診療科ごとの統合臨床DBの利用

統合臨床DBでの各診療科のファイルは,(1) 電子カルテから(図2),(2) 各診療科の外来予約歴,入院歴(FileMaker)から,2つの方法で起動できる。

図2 統合臨床DBの電子カルテからの起動 電子カルテ上部のFMボタンをクリックすることで患者ポータル画面が起動する。

図2 統合臨床DBの電子カルテからの起動
電子カルテ上部のFMボタンをクリックすることで患者ポータル画面が起動する。

 

〈呼吸器内科〉
呼吸器内科では肺がんのデータベースをFileMakerで作成していたが,統合臨床DBの構築を機に喘息(BA),COPD,肺炎,呼吸不全などの疾患のデータベースを追加した。呼吸器内科では,電子カルテから起動し,呼吸器内科ポータル画面(図3)で患者ごとに疾患ファイル(肺がん,BA,COPDなど)のデータの有無,外来診療歴,入院歴などを一覧できる。記入・未記入を色で判断できデータの入力漏れを防ぐ。
各項目のファイル(図4は呼吸不全)では,疾患の入力項目のなかで診療科内の他ファイル(COPDなど)にレコードがある場合のフラグや,他科の項目にデータがある場合の通知機能があり,ほかのファイルやデータベースとデータを共有して入力を支援する。また,検査結果項目は電子カルテから取得したデータをポータル機能とルックアップ機能で表示する。さらに,呼吸器内科で作成した全ファイルを患者IDで統合した各ファイル間の統合検索,院内ポータルでの診療科を横断した統合検索の機能が搭載されている。

図3 呼吸器内科ポータル画面

図3 呼吸器内科ポータル画面

 

図4 呼吸器内科の呼吸不全ファイル

図4 呼吸器内科の呼吸不全ファイル

 

〈糖尿病内分泌内科〉
一方で,糖尿病内分泌内科では,FileMakerの外来予約歴からその日の外来リストを直接起動して入力する(図5)。外来リストには,患者個々に確認が必要で研究のために収集すべきデータ項目がピックアップされており,入力(収集)ずみの項目は青,未入力が赤で表示されている。糖尿病内分泌センターでのデータベースの構築について濵崎氏は,「統合臨床DBでは,研究用データの入力が診療実時間内で終わることをめざしました。臨床研究のデータには,ご本人の病歴や家族歴といった外来で患者さんから直接収集する必要がある項目があります。そのために以前は,前日に外来予約のリストと研究対象の患者さんのリストを突き合わせて,聞くべき項目を準備する必要がありました。外来リストでは,診察時に対象の患者さんや項目が一目でわかり,漏れなく収集することができます」と説明する。

図5 糖尿病内科の外来リスト画面

図5 糖尿病内科の外来リスト画面

 

FileMakerでオープンで自由度の高いシステムを構築

統合臨床DBでは項目について,参加全診療科が共通に入力するもの(身長,体重,喫煙歴など),相互に参照が可能な項目(糖尿病の有無など),診療科独自の項目の3段階に分けている。濵崎氏は,「データには,どの診療科でも必要で必ず入力される項目があります。それを共通項目として相互に利用することで,重複した入力を減らすことがねらいです。一方で,同じ項目でも診療科によって必要な詳しさ(粒度)が違うこともあり,日本医療情報学会の“コア項目セット”なども参考にしながら共通項目のレベルを設定しています」と説明する。さらに,統合臨床DBでは院内ポータル画面(図6)で各診療科のファイルを患者IDで統合し,診療科を横断した“統合検索”を可能にする。濵崎氏は,「自分が入力したデータだけでなく,他科のデータも含めて検索できることで,新しい知見が得られることを期待しています。FileMakerによるシステムでは,他科による検索に公開し得る自科データの範囲を,おのおのの診療科が定めやすく,結果として多くの診療科が統合診療DBに参加しやすくなります」と述べる。
FileMakerでの構築について福井氏は,「電子カルテでは,研究用のデータ入力や解析のためには構造化されたテンプレートの作成が必要で,それでもすぐに解析はできません。FileMakerであれば,入力した瞬間からデータベースとして使えます。忙しい診療の合間にデータ入力をしてもらうには,正確で多くのデータを簡単に扱えることが大切です。それを診療科に合わせて構築できるのがFileMakerの利点だと思います」と評価する。

図6 院内ポータル画面での共通検索

図6 院内ポータル画面での共通検索

 

精度の高い統合臨床DBを生かして医学の発展に貢献

統合臨床DBによる臨床研究の可能性について福井氏は,「これまでは,例えば胃がんの術式と術後の肺炎の罹患率といった科をまたがったデータの集計・解析はなかなか困難でした。今後,統合臨床DBのデータが充実していけば,そういった検討も可能になると期待しています」と述べる。さらに,今後の展開については,「臨床研究のための同意書は,統合臨床DBで管理されていますが,個人情報保護法の改正などにも対応すべくバージョンアップを行っているところです。その上で臨床データと検体の利用を進めていきたいと考えています」と述べる。
創立の理念を引き継ぎ,医学研究に取り組む同院での臨床研究体制のさらなる進化が期待される。

 

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公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院

公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院
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