FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.36
Case27 社会医療法人蘇西厚生会 松波総合病院 FileMakerを核にした病院情報システム「M@TRICS」など,先進的な医療ITソリューションを支える独自の開発体制を構築
病院長 松波和寿氏 システム開発部課長 山北慎吾氏
岐阜県羽島郡笠松町の松波総合病院は,民間病院ながら岐阜大学,県総合医療センター,岐阜市民病院とともに県の急性期医療を担う医療機関として中核病院の役割を担っている。同院は,2014年の新病棟建設を核とする病院リニューアルに合わせて電子カルテシステムを導入し,従来から活用してきたFileMakerによる診療支援システムCSS(Clinical Support System)と連携した新たな病院情報システム「M@TRICS(Matsunami Total Realtime Information and Communication Systems)」が稼働した。同院でのFileMakerを中心とする医療ITシステム構築のコンセプトと先進的なシステム開発を支える開発部門の運用について,同院院長でJ-SUMMITS(日本ユーザーメード医療IT研究会)副代表でもある松波和寿氏と,システム開発部課長の山北慎吾氏に取材した。
2つの病院施設を核に介護,福祉までヘルスケアサービスを提供
2014年に新病棟として“ノースウィング”がオープン,それまでの病院棟を改修し介護老人保健施設とリハビリテーション施設を統合して2015年に“サウスウィング”として開設し,新たな体制で診療をスタートした。このリニューアルで病床数を432床から501床に増床し,ノースウィングには屋上ヘリポートを備え,ハイブリッド手術室1室を含めた8室の手術室,ICU8床など急性期医療を支える設備を整えた。
両施設は約100mの渡り廊下で結ばれており,患者も職員も自由に往来できるようになっているが,この距離が離れていることが新たな病院情報システム構築のきっかけともなった。同院では,2014年に電子カルテシステム(NEC,MegaOakHR)を導入,従来から同院が独自にFileMakerプラットフォームで構築してきたCSSと統合した「M@TRICS」と名付けられた病院情報システムが稼働した。仮想化技術(citrix)やFileMaker Goで開発したアプリケーションを活用し,iPadやiPod touchなどでのWi-Fiによるアクセスを可能にして,両施設をシームレスに結んだ診療を実現している。
松波院長はM@TRICSのコンセプトについて,「ベンダー製の電子カルテシステムとFileMakerでの診療支援システムを融合させることで,医師をはじめとする病院スタッフが働きやすいシステムを構築しています。データの真正性を保つために基幹の電子カルテシステムは必要ですが,融通が利かず使いづらい部分をFileMakerを活用して病院のワークフローに合わせた,かゆいところに手が届くシステムを提供するのがねらいです」と述べる。
基幹電子カルテとFileMakerの診療支援システムを融合
CSSでは,基幹の電子カルテシステムと連携して,ベンダー製の電子カルテではカバーできないワークフローやデータ活用を可能にしている。さらに,電子カルテのほかに紹介状や同意書など紙ベースの書類をスキャンして管理する「Apeos PEMaster ProRecord Medical」が稼働しており,これらを組み合わせて効率的な診療が可能になっている。松波院長は「FileMakerは比較的ローコストで導入でき,われわれのような予算の限られた民間病院では,工夫次第でやりたいことが実現できる費用対効果の高いプラットフォームです」とFileMakerを中核とした病院情報システム構築のメリットを説明する。
また,FileMakerでの構築のメリットとして,iOS用のアプリであるFileMaker Goを使って,iPadやiPod touchなどを院内システムに活用できることを松波院長は挙げる。同院では,各病棟にiPod touchを導入し,褥瘡や皮膚疾患などの写真をiPodのカメラで撮影してFileMaker Go経由でCSSに取り込みファイリングしている。保存した画像はコピー&ペーストで電子カルテにも簡単に貼り付けられる。松波院長は,「高価な専用端末ではなく,FileMaker GoとiPod touchで電子カルテのセキュリティをクリアしたシステムが簡単に構築できます」と説明する。
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開発依頼をオンラインで受付,開発工数を換算してコスト管理
同院では,法人内のシステムの開発,保守管理を担当するシステム開発部を設けて,FileMakerをはじめとする院内のさまざまなシステムの開発や保守を行っている。松波院長は,「FileMakerのシステム構築は,当初は私も含めてユーザーが個々に直接作っていましたが,現在はシステム開発部に一任しています。システム開発部では,FileMakerに限らず院内からの開発要請を受けて対応しています」と説明する。
システム開発部のスタッフは7名で,そのうちFileMakerで開発を行うのは3名。松波院長は,「開発部のスタッフは必ずしもシステム開発の専門的スキルを持った人材ではなく,入職後にFileMakerを含めて技術を習得するなど経歴はさまざまです。誰でも使えるようになるのがFileMakerの利点でもありますね」と述べる。
システム開発部では,院内からの開発要望を受け付け部内での進捗状況を管理する“開発申請書”システムをFileMakerで作成し運用している。山北課長は,「開発申請書は以前からあってWordで管理されていましたが,記入して申請する手続きが面倒であまり使われていませんでした。われわれとしても,自分たちの業務を把握したいという希望があり,FileMakerで構築しCSSからオンラインで依頼できるようにして,スムーズな依頼と一覧管理を可能にしました」と説明する。
同院では,院内の業績管理にBSC(Balanced Score Card)を取り入れているが,システム開発部では財務の視点から年間の開発目標額を設定して,院内から請け負った開発案件を金額に換算して売上(コスト削減額)として計算し,開発工数の“見える化”を行っている。例えば,システム部門のスタッフの作業量(1人月)を100万円として,25日で割って1日4万円を引受金額として設定し,開発にかかった時間で計算して,仮に外部に発注した場合にかかる金額をシステム開発部の売上として計上する。部門としての目標を設定し,削減されたコストを可視化することでスタッフのモチベーションアップにもつながっている。山北課長は,「目標はあくまで目安ですが,自分たちの業務を数値化することは一つの指標になります。これをFileMakerの申請書システムに搭載して,数値の進捗状況なども簡単に把握できるようになりました」と述べる。
2016年には年間238件の開発案件があり,システム開発部が対応することで約750万円のコスト削減(システム開発部の売上)となった。そのほか,院内の端末管理や電子カルテベンダーとのQA(問い合わせ)管理などもFileMakerで作成している。
老健システムやEHR開発などさらなるシステム構築に挑む
同院では,現在,介護老人保健施設向けのシステムをFileMakerで開発を進めており,FileMaker Goで施設外からの情報参照も可能にするなど既存システムにはない仕組みを盛り込んでいる。また,病理などの検査結果を担当医にメールやメッセンジャーで送信する仕組みをFileMakerで開発できないか検討中だ。松波院長は,「医療安全の観点から医師に対して検査結果が出たことをプッシュし,見た記録を残すことで見逃しなどの問題を解決できないかという試みです。こういった仕組みもFileMakerであれば工夫次第でそれほどコストをかけずに実現可能です」と述べる。
松波院長をはじめ,院内で生まれる発想やニーズを吸い上げ,それを解決するための体制が整っていることが,同院での医療ITを活用したさまざまな取り組みにつながっている。次のチャレンジにも期待が高まる。
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