FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.35

Case26 東京警察病院 FileMakerプラットフォームの「GOODNET」で循環器のカテーテル検査,心エコー検査のレポートを柔軟でオープンな環境で運用

臨床生理検査科 椎原大介氏

椎原大介 氏

椎原大介 氏

東京警察病院(診療科23,415床)は,警察関係者のみならず,救急や高度医療の提供で地域中核病院の役割を担っている。同院は,2008年に千代田区飯田橋から中野区の現在地に新築移転し,電子カルテシステムを導入して院内の全面デジタル化を進めた。臨床生理検査科では,心臓カテーテル検査や心臓超音波検査のデータ管理のため,グッドマンの循環器総合ソリューション「GOODNET」を導入し,多種多様なデータの効率的な管理と運用を実現している。FileMakerプラットフォームを採用したGOODNETの導入と運用について臨床生理検査科の椎原大介氏に取材した。

フィルムレス,ペーパーレスでの診療環境を構築

同院では,移転と同時に電子カルテシステム(NEC,MegaOak HR)を導入,同時にPACSやRISなど部門システムを整備してフィルムレス,ペーパーレスでの運用をスタートした。旧病院では,一部オーダリングシステムが稼働していたものの,ほぼ紙運用だったことから一気にデジタル化が進んだことになる。臨床生理検査科でも,各種検査データのシステム化を進めることになったが,システム構築を担当した椎原氏は,「ペーパーレス,フィルムレスへ一気に転換しましたので,移転前にはシステムの選定やワークフローの確認,マスタ作りにかかりきりでした」と当時の状況を説明する。
旧病院では,循環器の超音波検査と心カテのレポートについては,2003年頃から椎原氏がFileMakerで自作したシステムで運用していた。新病院への移転に当たり,これらの蓄積されたデータベースを生かしながら,既存システムではカバーできない循環器関連の情報管理に柔軟に対応できることから,循環器部門の情報システムについてはFileMakerプラットフォームを採用したグッドマンのGOODNETが採用された。

GOODNETを導入して循環器の動画像管理やレポート作成を支援

GOODNETを導入して循環器の動画像管理や
レポート作成を支援

 

動画像を中心に循環器データをトータルで管理するGOODNET

臨床生理検査科では,電子カルテの部門システムとして生理検査情報システム(日本光電,PrimeVitaPlus)を導入し,心電図,超音波,脳波などの生理機能検査全般のデータを管理している。GOODNETは,そのサブシステムとして循環器系のデータを中心に血管撮影装置(シーメンスヘルスケア社製シングルプレーン),血管内超音波装置(IVUS)3台,光干渉断層映像装置(OCT)2台,循環器用超音波診断装置4台(東芝メディカルシステムズ社製3台,フィリップス社製1台)などを接続し,動画像(マルチフレーム)の保存と各種レポート作成機能を提供する。GOODNETは,画像関連のオーダや患者基本情報については放射線情報システム(横河医療ソリューションズ)とリンクし,作成したレポートや解析結果は生理検査システムへPDFで送信するなど,RISと生理検査情報システムの両方と接続して循環器部門の業務を補完する役割を担っている(図1参照)。さらに,2016年のシステム更新で院内へのWeb画像配信も開始している。
循環器関連の情報管理にGOODNETを採用した理由を椎原氏は,「多種多様で項目が多い循環器関連の情報管理は,既存の生理検査部門システムの中では項目の追加や変更などには限界があります。DWHを使う方法もありますが手間と時間がかかることから,柔軟な対応が可能なFileMakerプラットフォームを採用したGOODNETを導入しました。もう1つは,心カテ部門の担当としては超音波とカテーテルのレポートは一連のものとして運用し参照できることが必要だという判断もありました」と述べる。
FileMakerで作成したレポートをPDFで生理検査情報システムに転送する運用については,「FileMakerでは変更履歴の管理が難しいため,最終の確定レポートのみをPDFで上位の生理検査情報システムに送っています。電子カルテ側からは,この最終確定レポートが参照できる運用にしています」と述べる。
GOODNETの端末は13台で,カテーテル検査室,超音波検査室,病棟(循環器,集中治療室)などに設置されている。同院でのカテーテル検査件数は年間約650件,冠動脈形成術年間約200件,循環器関連の超音波検査件数は年間約4900件が行われている(2015年)。臨床生理検査科のスタッフは21名で,そのうち循環器グループは6名。

図1 東京警察病院臨床生理検査部門システム概要図

図1 東京警察病院臨床生理検査部門システム概要図

 

図2 心臓カテーテル検査のレポート画面

図2 心臓カテーテル検査のレポート画面

 

図3 循環器超音波検査のレポート画面

図3 循環器超音波検査のレポート画面

 

FileMakerプラットフォームの柔軟性を生かした開発

生理検査部門システムでは,メーカーやシステムベンダーに縛られないオープンな環境を採用しているのが特徴だ。椎原氏は,「1社で統一すれば機器やシステム間の連携は容易ですが,それに縛られて製品の選択は制限されます。ベンダーにとらわれずに最適な機器を選択してベストな検査環境を実現するために,標準規格によるオープンな環境を構築しました。波形データの標準規格である“MFER”を用いたデータ取り込みにも,いち早く取り組んで接続しています。GOODNETの超音波レポートの構築で,当時まだ一般的ではなかったDICOM-SRへの対応を要求したのもそのためです」と述べる。
GOODNETの超音波レポートでは,超音波検査装置で解析した測定データをDICOM-SRで送信し,自動的に取り込む。従来は装置からプリントされた数値を手入力していたが,自動入力によってワークフローは格段に向上した。椎原氏は,「超音波メーカーにはDICOM-SRでのデータ出力を依頼し,それを受けるレポートのインターフェイスをグッドマンにFileMakerで開発してもらいました。DICOM-SRといっても機種によって出力に微妙な違いがあって作り込みは大変だったと思います」と当時の経緯を振り返る。
2006年からFileMakerプラットフォームによるカテ室の台帳管理やレポートシステムの開発に本格的に取り組んだグッドマンとしても,同院での開発の経験はソリューションとして生かされているという。FileMakerを利用したシステム構築のメリットについて椎原氏は,「汎用的で開発の柔軟性が高いFileMakerをベースにして,開発ベンダーとしてグッドマンがわれわれの要望に対応してくれる体制は非常に助かっています。これまでさまざまなカスタマイズをお願いしていますが,対応力は高くほとんど実現できています。システムは高度になっており,すでにわれわれが自作できるレベルではありません。それだけにカテ室周りの現場を熟知したスタッフがいるグッドマンが間に入ることで,現場のニーズを確実にシステムに反映できると思います」と評価する。

デジタル環境の充実をめざし第2世代へ

同院では,2014年に電子カルテやPACSなどを更新し,2016年にはネットワーク設備や無線LANのバージョンアップなどインフラ部分についても更新を進めて,病院情報システム全体が第2世代へと順調にバージョンアップされている。
GOODNETも2014年に第2世代へと更新された。第2世代では,カテーテル手技中の治療行為や使用した材料を記録する“術中記録管理システム”を構築した。従来は日本光電のカテ室情報管理システムである「Cath-Pro」で記録していたが,その機能をGOODNETで構築し手技記録をレポートシステムで統合して管理するものだ。データの入力は,治療行為は画面上の項目をクリックすることで,使用材料に関しては物品のバーコード(EAN)を読み込むことで自動的に行える。椎原氏は,「従来はCath-Proで入力したデータをPDFにしてGOODNETへ転送し,レポートと合わせて管理していましたが情報としては中途半端でした。更新に当たってその部分を見直して,GOODNET側で入力から管理まで統合できるようにしました。従来からGOODNETではCath-Proでは扱えない情報を補っていましたが,こういった柔軟性もFileMakerでなければ難しい部分かもしれません」と述べる。
今後の展開について椎原氏は,「病院情報システムは無線LANなどのインフラを含めて第2世代への移行が順調に進んでいます。そういった環境の中では,循環器のデータについても無線LANを利用して病棟でのオーダのリアルタイムの取得や画像の送信が可能になれば,利用の幅も広がるかもしれません。動画像データの送信など今後の活用についても検討していきたいと考えています」と話す。
病院の情報システムともにバージョンアップを続ける同院でのGOODNETの今後の活用が大いに期待される。

 

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一般財団法人自警会 東京警察病院

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