FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み
ITvision No.33
Case24 医療法人社団千栄会 高瀬クリニック FileMakerベースのCardioAgent proレポートシステムや冠動脈CTレポートなどで循環器医療に特化した診療をサポート
放射線部 技師長 佐野始也氏
医療法人社団千栄会 高瀬クリニック(高瀬真一院長)は,循環器専門の24時間体制の診療を提供するクリニックとして1998年に開院。現在は,血管内治療と外科手術の両方に対応可能なハイブリッド手術室を含む4つの血管撮影室,320列Area Detector CT(ADCT),1.5T MRIなどを装備して,PCIや不整脈治療から大動脈ステントグラフト内挿術まで循環器内科,心臓血管外科による高度な治療を提供する。同クリニックの機器は,ほとんどが東芝メディカルシステムズ社製であり共同研究サイトの役割を担っているが,動画像ネットワークについても「CardioAgent pro(以下,CardioAgent)」が導入されている。CardioAgentの循環器レポートシステムにはFileMakerプラットフォームが採用されているほか,CTや超音波検査のレポートについてもFileMakerによるユーザーメードシステムが構築されている。放射線部の佐野始也技師長にCardioAgentとFileMakerによるネットワーク構築について取材した。
循環器医療に特化して専門的で高度な医療を提供
高瀬クリニックは,1998年に「高度な技術力の提供」「経済的負担の軽減」を理念に掲げ,循環器専門クリニックとして診療を開始。2005年には心臓血管外科を開設,血管撮影室の増設やCTの導入など装備の充実を図った。2014年6月には,同じ高崎市で昭和病院を運営する医療法人社団千栄会と法人合併し新たなスタートを切り,高瀬クリニックは同年12月から一般病床35床の病院となった。これによってロータブレーターなどの手技も可能になり,循環器医療の提供において地域での存在感をますます高めている。
同クリニックでは,4部屋の血管撮影装置(バイプレーン2,ハイブリッド手術室を含むシングルプレーン2)とCTはハイエンドの「Aquilion ONE/ViSION Edition」,1.5T MRI「Vantage Titan」を装備し,CT,MRIを駆使した循環器診療が可能な体制を整えている。
診療放射線技師は7名。循環器の専門医療機関という施設の性格から,1つのモダリティに特化するのではなく,一人ひとりの患者に対して診療の経過を把握してさまざまな検査や治療のサポートを行うことが求められると佐野技師長は言う。
「そういう意味では,CTやMRIだけでなく,心電図やエコーなど幅広いデータを参照しながら理解していくことが必要で,それらを統合的に扱える情報ネットワークは不可欠でもあります」
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多列CTの導入をきっかけに循環器画像ネットワークを導入
同クリニックでは,2005年にそれまでCDで管理されていた動画像データをネットワーク化し,東芝メディカルシステムズの動画像情報ネットワークシステムであるCardioAgentを導入した。CardioAgentでは,カテーテル検査室(カテラボ)で必要とされるさまざまなレポートシステムが用意されている。このレポートシステムのプラットフォームとして採用されたのがFileMakerで,開発はソフトクオリティ(本社:京都市,齊藤孝行社長)が担当している(図1)。カテラボ向けの市販の情報システムでは,FileMakerを採用した製品が90%以上を占めており,多様な手技や豊富なデバイスなど,カテラボならではの項目の追加や変更に柔軟かつ素早く対応できることが大きなシェアとなった要因と言えるだろう。
動画像ネットワークの導入について佐野技師長は,「シネ時代よりは省スペースになったとはいえ,CDの保管場所の問題,メディアの紛失や共有にも限界があることから,動画像ネットワークに移行しました。それに伴って患者情報や検査リストの整備などデータベース化が必要となり,CardioAgentの導入につながりました」と説明する。2010年にCTのバージョンアップと同時に静止画(PACS)サーバも導入され,動画,静止画,各種レポートシステムを参照できる環境が整った。院内には,検査室,診察室,病棟などに参照用クライアントが25〜30台が設置されている。
FileMakerプラットフォームによる柔軟なデータ管理を実現
CardioAgentでは,カテラボのさまざまなニーズに対応した,FileMakerベースの柔軟なシステム構築とカスタマイズ対応が特長だ。今回,ロータブレーターなどの新たな手技が追加されたが,新しいデバイスや手技の導入など,日々進化する診療内容に対応できるように,項目やタブの追加など仕様変更にはカスタマイズを行っている。例えば,東芝メディカルシステムズが開発した入射皮膚線量モニタリング機能“Dose Tracking System(DTS)”がいち早く導入されたが,そのデータもCardioAgentに取り込まれている。佐野技師長は循環器のレポートシステムについて,「CardioAgent導入前にはFileMakerで自作もしていましたが,1人の患者さんで複数の病変があった場合の記述など複雑で難しいところがありました。CardioAgentのレポートシステムでは,詳細で複雑なデータの入力が1画面で可能になり,レポートから動画像へのリンクやキー画像のレポートへの貼付など,データの活用が可能になりました」と述べる。
項目の追加やレイアウトの修正などのカスタマイズは,継続して行われている。修正内容は,緊急性のあるものを除いて,ある程度まとまった時点で依頼し,ほとんどの修正はリモートで対応する。佐野技師長は,「目の前の画面を見ながら電話でやりとりしてその場で修正された内容を確認できるので,ほとんど現場で対応しているのと変わらない感覚です」と述べる。また,データのバックアップについては,毎日1週間分のフルバックアップを取り,トラブルがあった場合には過去に遡ってデータの保持が行えるように対応している。
冠動脈CTなどニーズに合わせてFileMakerで独自にシステム構築
同クリニックでは,CardioAgentのレポートシステムのほかに,スタッフによってFileMakerで独自に作成されたデータベースがFileMakerServerに登録され運用されている。冠動脈CT,超音波検査,MRIなどのレポートや検査情報の管理など20を超えるファイルがあり,診療放射線技師をはじめ,内科・外科の医師や臨床工学技士など7,8名がFileMakerで構築を行っている。
佐野技師長は,FileMakerデータベースの運用について,「個々にFileMakerを使って,自分が必要なファイルを作成しています。登録については放射線部で集約してソフトクオリティに依頼していますが,それぞれのファイルのメンテナンスや運用については各部署や作成者に任せています」と説明する。佐野技師長は,CardioAgent導入以前からFileMakerを使ってカテレポートを作成してきた経験があり,現在では冠動脈CTのレポートシステムを作成している。そのねらいについては,「当院の豊富な冠動脈CTの症例数をベースとして,研究や学会発表に必要なデータをピックアップして解析を行うためのデータベースとして利用しています。項目を登録することがねらいで,リレーションやスクリプトなどあまり複雑なことはしていません。FileMakerでは,研究の目的に合わせて項目を追加したり,過去の項目を簡単に利用できることがメリットです」と説明する。冠動脈CTレポートでは,患者情報,撮影情報,所見,被ばく線量管理などをベースの項目として,多くの情報が入力できるようになっている(図2)。同クリニックには2万例を超える冠動脈CT検査のデータの蓄積があり,佐野技師長は豊富な症例データをベースにして多くの学会発表や論文投稿などの成果につなげている。
動画像を含めた情報管理を進めて電子カルテ化へ
佐野技師長は今後のFileMakerによるシステム運用について,「個別に作成されたレポートについては,今後相互リンクさせていけばより使い勝手が良くなるので連携できるように検討を進めていきます」と述べる。
その次のステップとして検討されているのが,電子カルテシステムの導入である。同クリニックでは,画像情報に関してはデジタル化が進んでいるものの,カルテに関しては現在も紙で運用されている。佐野技師長は今後の電子化について,「当院は1日300人近い外来患者数があり,医師の負担を考えると電子カルテ化はハードルが高いのですが,画像システムでの経験を生かして柔軟に考えていきたいですね」と述べる。カテラボの情報化を進めてきた経験を生かした今後の展開が期待される。
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