Case 21 心臓病センター榊原病院
手術とカテーテル治療の患者データをFileMakerで一元管理し安全・正確で質の高い循環器医療を提供
外科部長 都津川敏範氏
2015-7-6
都津川敏範氏
岡山県岡山市の社会医療法人社団十全会心臓病センター榊原病院(榊原敬理事長,岡崎悟院長,病床数297床)は,1932年の開設以来,循環器領域の専門病院として最先端の治療と“病客さま”のコンセプトのもと最高の環境で,質の高い医療サービスを提供している。同院では,2012年の新病院のオープンから,心臓手術(オペ)と心臓カテーテル検査・治療(カテ)の患者データを統合的に管理する“オペカテ台帳”を,FileMakerで構築し運用している。電子カルテシステムとも連携しつつ,高度な循環器医療の情報管理をサポートするFileMakerシステムの運用について,心臓血管外科部長の都津川敏範氏に取材した。
全国でも有数の心臓病に対する専門病院
心臓病センター榊原病院は,心臓病の専門病院として冠動脈バイパス術,ステントグラフト治療,冠動脈ステント治療,不整脈に対するカテーテルアブレーションなど,最先端の心臓病治療に取り組んでいる。同院は,開設80周年を迎えた2012年に岡山市北区に移転し,新病院をオープンした。新病院は,電子カルテシステムを導入し,ハイブリッド手術室2室を含めて7つの手術室,7室の心臓カテーテル室,ICU30床,HCU20床などをそろえ,リハビリテーションのためのフィットネスクラブや室内プール,院内レストランからコンビニまで,循環器疾患に対する最高水準の治療の提供と療養環境に配慮した施設となっている。
心臓血管外科では,心臓弁膜症,冠動脈バイパス手術から胸部大動脈手術まで,心臓・大血管疾患の治療に取り組んでおり,2014年には613例の手術を行った。開胸せずカテーテルで人工弁を留置する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)や,人工心肺を使用せず拍動させたまま手術を行うオフポンプ手術,大動脈瘤に対して経血管的にステント留置を行うステントグラフト内挿術など,最先端の術式を導入している。都津川部長は同院での外科手術について,「肋骨と肋骨の間を5〜8cm程度切開して行う低侵襲心臓手術(MICS)に積極的に取り組んでいます。高齢者にも行っているのが特徴で,弁膜症などに行うMICSの症例数では全国で1,2を争う症例数があり,心臓大血管手術数でも5本の指に入ります」と述べる。
同院では,外科と内科が一体となって治療を進める“ハートチーム”による診療体制を構築している。TAVIやステントグラフト治療のほか,冠動脈バイパス治療でもカテーテルによるステント留置術との“ハイブリッド”治療などで,外科と内科の連携によって安全で質の高い治療を提供する。
また,手術では,外科医3名,麻酔医1名,看護師3名,人工心肺を扱う臨床工学技士2,3名と,こちらもチームを組んで行う。それだけに,内科との連携なども含めて,手術にかかわる情報の管理や共有が必要になっていると都津川部長は言う。
「1人の飛び抜けた術者が手術の成績を上げるのではなく,チームとしてのレベルを向上することが必要で,そのためにはスタッフ同士,チーム内での情報の連携と共有が欠かせません」
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FileMakerによる手術患者データベースを構築
同院では,新病院への移転と同時にFileMakerプラットフォームを利用して,手術・カテーテル治療患者のデータ管理を行う“オペカテ台帳”を構築した。都津川部長はオペカテ台帳のコンセプトについて,「手術に関連する必要不可欠な情報を一元的に入力することで,術前カンファレンスから術中,術後の退院サマリや学会報告などのデータ作成までを,FileMakerだけで可能にするシステムをめざしました。複数の場所にデータを入力したり,管理するのではなく,1か所に集約することで関係するスタッフ全員がほとんどの情報を把握でき,安全で質の高い手術を行うことが可能になります」と述べる。
オペカテ台帳は,心臓血管外科で行われる手術,循環器内科のカテーテル治療の患者データをFileMakerで一元的に管理するためのシステムであり,心臓血管外科では,手術予定の患者に対して,予定術式や血液検査や超音波検査などの計測データ,手術における輸血の必要性,人工心肺の利用,手術記録などの情報を入力している。患者の氏名などの基本情報は,ODBC接続で患者IDをキーにして電子カルテから取り込み,その他の項目は,手術を担当する医師やスタッフが必要な項目を入力する。都津川部長は,「術前のカンファレンスでは,必ずオペカテ台帳のデータを基にして検討を行います。担当医師はそれまでに必要な情報を入力することが原則です」と説明する。そのほか,手術室の看護師や人工心肺を担当する臨床工学技士などが必要な情報を入力する。「手術に必要な輸血のオーダや,人工心肺の準備なども,口頭ではなく,各スタッフがオペカテ台帳の記録を基に行います。手術に必要なあらゆる情報がここに集約されていますので,術式の決定や安全な手術のためには入力が欠かせません」(都津川部長)。
内科と外科の手術データを集中的に管理
同院では,旧病院時代から,手術患者のデータ管理をFileMakerを利用して行っていた。新病院への移転にあたって,入力項目を充実させ,電子カルテとも連携してオペ・カテの情報を統合して管理できる運用をめざし,FileMakerベースでの構築を新病院のシステムベンダーである(株)岡山情報処理センター(OEC)に依頼した。実際の開発はFileMaker Business Alliance(FBA)のPlatinumメンバーで豊富な実績と高い技術力を持つ(株)ジュッポーワークスが担当した。都津川部長は,「心臓治療で必要な情報を統合的に集中管理できるシステムにしたいと考えていました。情報は分散させずに1か所に集めることが重要です。メインのデータベースが1つに決まっていれば,二重の入力がなくなり収集率が高まります。電子カルテでも収集は可能ですが,必要な情報を適切なタイミングで取り出すことが困難です。FileMakerでは,心臓の手術に関連する必要な項目を選択して構築が可能で,追加や変更にも柔軟に対応でき,検索性にも優れています。従来からのデータの継続性も含めてFileMakerを選択しました」と構築の経緯を説明する。
開発のスケジュールはタイトだったが,FileMakerの開発効率の高さから,短期間での機能の実装と運用が可能になった。システムでは,心臓血管外科手術に関するさまざまな情報が入力できるように多くの項目が用意されているが,医師によって担当する手技や領域が異なるため,術前カンファ,手術台帳,手術記録などのほか,TAVIやバイパス術など術式によってタブ分けして,必要のないタブはグレーアウトさせることで使い勝手を高めている。
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多種多様な心臓手術の情報を管理して質の高い医療を提供
手術成績の集計や学会発表,症例登録などは,オペカテ台帳で必要な条件で検索することで,データの抽出や統計処理などに利用できる。心臓血管外科領域では,手術症例データベース(日本心臓血管外科手術データベース〈JACVSD〉,現在は外科系症例データベースであるNational Clinical Database〈NCD〉も加わっている)の登録にも利用されている。
電子カルテシステムにはオペカテ台帳を直接起動するボタンが設けられており,FileMakerがインストールされている端末であれば,データを連携して起動するようになっている。電子カルテで患者を選択した状態であれば,手術やカテ治療のデータを検索して表示される。FileMakerは,外来,病棟,ICU,手術室エリアの端末で約100台にインストールされている。
都津川部長は現在のFileMakerと電子カルテシステムの運用について,「基本的にFileMakerでは,追記や記述の変更が可能ですので,真正性を確保する必要がある診療記録としては電子カルテが必要です。退院サマリなどに関しては,オペカテ台帳の記述をもとにコピー&ペーストで電子カルテに入力しています。オペカテ台帳は,手術の記録を一元的かつ統合的に集約するための仕組みとして運用しています」と説明する。
今後のオペカテ台帳の方向性については,「心臓手術の領域では,TAVIなどをはじめとして新しい手技や技術が日進月歩で追加されます。そういった項目の追加や変更についてもFileMakerであれば柔軟に対応できますので,その特性を生かして,データベースとして活用していきたいですね」(都津川部長)とのことだ。
循環器疾患の専門病院として最先端を走り続ける同院にとって,重要なエビデンスとなる医療情報の管理にFileMakerが大きな役割を果たしている。
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