Case 19 独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター
院内に情報管理部門を設置し基幹の電子カルテとFileMakerを組み合わせて最適な情報システムを構築
副院長 谷水正人氏 病院情報管理部 舩田千秋氏
2015-2-1
谷水氏(前列右),舩田氏(前列中央)と
病院情報管理部スタッフ
愛媛県松山市の国立病院機構四国がんセンター(病床数:405,院長:栗田 啓)は,四国地方のがんに対する中心的施設として,高度で専門的な診療の提供のみならず,臨床研究,教育研修および情報発信を行っている。また,愛媛県のがん診療連携拠点病院として,がん診療連携クリニカルパスの運用にも積極的に取り組んでいる。同センターでは,医師や看護師を含めたスタッフで構成される病院情報管理部を中心に,基幹となる電子カルテシステムと,FileMakerによるユーザーメードシステムの利点を生かした病院情報システムの構築を行っている。副院長の谷水正人氏と病院情報管理部スタッフに取材した。
電子カルテと現場の“ギャップ”をカバーするFileMaker
四国がんセンターでは,2011年に電子カルテシステム(ソフトウェア・サービス:以下SSI)を導入し,それまでのオーダリングシステムと紙カルテによる運用から原則ペーパーレスによるシステム構築を行った。同時に,それまで診療科や部門で個別に構築されていたFileMakerによるユーザーメードシステムを,病院ネットワークのFileMaker Serverに集約して,電子カルテを補完する運用を開始した。システム構築を統括する谷水氏は病院情報システム構築の方向性を次のように説明する。
「電子カルテシステムには,ベンダー製のシステムを導入して,病院の基幹としての安定稼働と信頼性の高さを担保しました。一方で,診療の現場には,診療科ごとに異なる運用があり,診療報酬の改定や診療ガイドラインの変更など日々変化する状況に対応する必要があります。そういった医療現場の変化に,臨機応変に素早く対応できるシステムとしてFileMakerによるシステム構築を採用しました」
同センターでは,症例管理,手術台帳管理,地域連携室での相談内容管理,FAX紹介などの文書フォーマットから,電子カルテ導入時の使い勝手に関するアンケートフォームまで50以上のデータベースがFileMakerで構築されている。SSIの電子カルテとの連携については,業界標準インターフェイスであるODBC接続で連携し,データを取得する。
谷水氏は,基幹の電子カルテとFileMakerの役割について次のように述べる。
「医学の進歩や医療制度の更新に合わせて医療情報システムも進化が必要ですが,残念ながらベンダー製電子カルテだけで対応することは,現場の労力や予算の面からも困難です。FileMakerでは,医療現場の変化を捕らえて柔軟に対応できます。そこで構築されたシステムの中から,必要不可欠な項目や情報は,時間が経てば電子カルテに反映されていくでしょう。FileMakerが電子カルテに置き換わるのではなく,医療現場のニーズを最初に形にするためのツールであると捉えています。今後も新しいデータベースが作られていくと思いますが,FileMakerは電子カルテの先を常に走り続けるために永遠に必要になると思います」
現場のニーズを判断して最適な方法でシステム構築
同センターでは,病院情報管理部が電子カルテシステムの管理と同時に,FileMakerのソリューションについても管理やシステム構築を担当する。谷水氏は,「FileMakerのシステムは,電子カルテと現場のニーズの“ギャップ”を埋める役割を果たしていますが,病院情報管理部は,現場の要望を聞き,FileMakerで解決できるか,電子カルテ側の改善要求とすべき案件かを判断して,病院として最適なシステムとなるように調整する役割を担っています。電子カルテとFileMakerの両方を理解し,院内の業務を把握しているからこそ可能になります」と述べる。
病院情報管理部では,医師,看護師2名,薬剤師,診療情報管理士,事務補助2名(非常勤),委託スタッフ2名で,院内のシステム管理とFileMakerでの構築メンテナンスを行う。谷水氏は,「システムの円滑な運用には,人員の配置が必要です。システム専任のスタッフを置くことは国立病院機構の組織では難しいのですが,実績を重ねることで理解を得て正規職員を配置できるようになりました」と経緯を述べる。
病院情報管理部に外部スタッフとして常駐するのは,地元松山のITベンダーである(有)オー・エス・ジー。以前から病歴や栄養管理,看護管理などの部門システムを構築していたが,電子カルテ導入以後,2名のスタッフが常駐し,病院情報システムの管理,FileMaker関連システムの構築と管理などを行っている。同社の浅野泰教氏はシステム運用における役割について,「メインの電子カルテのトラブル対応のほか,マスタのメンテナンス,ネットワークやプリンタの故障などのフォローなどを行っています」と説明する。
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地域連携パスや相談業務にFileMakerシステムを活用
FileMakerで構築されているソリューションの一つに,同センターを中心に地域で運用されている“がん地域連携パス”の管理システムがある。通常の地域連携では,患者を紹介するかかりつけ医と中核病院の専門医が情報共有して治療や経過観察を行うが,この連携パス管理システムでは,がん特有の長期的な症例進捗状況や受診の予約情報を管理できる。連携パス管理システムの構築について,病院情報管理部の地域クリニカルパス開発研修室の舩田千秋氏は,「クリニカルパス自体は電子カルテで作成し運用することが可能ですが,連携パスは扱う期間が5年から10年と長いことから,同じスパンでは扱えないためFileMakerで構築しました。FileMakerでは,電子カルテには入力されていないデータや,データはあっても取り出しにくい情報を,簡単に扱うことができるので,連携パスの管理が容易になりました」と述べる。
連携パスは,乳がん,胃がん,大腸がんなど11種類程度が用意されているが,運用実績が多いのは,泌尿器科の前立腺がんの全摘出術と小線源治療,肺がん術後など。がん地域連携パスの運用について舩田氏は,「地域や医療機関によって運用はさまざまですが,当センターでは,連携先に参加するメリットを感じてもらえるように診療報酬の請求が可能な運用を基本にしています。そのためには,必要な書類の準備や進捗管理を迅速に進めることが必要で,地域連携室などの現場で情報を入力でき,必要に応じて修正や変更が可能なFileMakerのメリットは大きいですね」と言う。
また,家族性腫瘍の台帳管理もFileMakerで構築されている。同センターでは,家族性腫瘍相談室を設けて,家系や生活調査,遺伝子診断などを行い発症原因を検索し,その情報をもとにカウンセリングを行っている。これらの情報は高度なプライバシー情報となることから,電子カルテの情報とは分けて管理する必要がある。舩田氏は,「紙カルテの時から,家族性腫瘍の情報に関しては通常のカルテとはファイルを別にして金庫に保管するという運用を行っていました。電子カルテでは院内での守秘管理が困難であり,閲覧の権限を職種などで細かく設定できないこと,より詳細にデータ管理をしたい情報があることなどから,電子カルテとは別にFileMakerで構築しました。必要な時に項目の追加が可能で,権限のコントロールがIPアドレスや端末名で細かく設定でき,権限の切り分けに関しても対応できます」と評価する。
臨床現場の変化に対応するシステムをFileMakerで構築
今後のシステムの方向性について谷水氏は,「地域医療連携のシステムは,まだ明確な運用や概念が定まっていません。その意味では,構築しながら変更できるFileMakerに適した領域だと言えます。しかし,院内の場合と同様に,地域連携においてもシステムだけ入れてもだめで,まず人を配置して組織を構築することが必要です。システムについても同様で,さまざまな状況が刻々と変化する現状では,最初から遠い先の最終ゴールをめざすことよりも,目の前の課題を1つ1つ確実にクリアすることが求められます。その中では,ユーザー自身でシステムを構築でき,運用しながら改善できるFileMakerが必要とされる部分でしょう」と述べる。
人とシステムが連携した最適なシステム構築を進める四国がんセンターでは,今後もFileMakerが重要な役割を担っていきそうだ。
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舩田千秋氏
*現・名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンター
(インナービジョン2014年2月号 別冊付録 ITvision No.31より転載)