Special 4
大分県大分市 おの英伸クリニック ANNYYS_Developer版を利用して三原則をクリアした電子カルテシステムを診療で活用
院長 小野英伸 氏
2014-4-1
ANNYYS_D版をベースにした電子カルテを診療に活用
大分市のおの英伸クリニックは,消化器内視鏡を専門とする小野英伸院長が,2004年1月に開院した内科,消化器科,大腸肛門科を標榜するクリニックである。同クリニックでは,開院当初から院長自らがFileMakerで構築した電子カルテを利用してきたが,2013年10月に新たにFileMakerベースの電子カルテソリューション「ANNYYS_Developer(以下ANNYYS_D)版 」が導入された。ANNYYS_D版の事務局も務めるエムシス のサポートを受けて,診療科にあわせたカスタマイズを行い,電子カルテの三原則を担保した運用が始まった同クリニックの電子カルテの現況について小野院長にインタビューした。
●消化器内視鏡の検査・治療に特化した診療を提供
小野院長は,大分赤十字病院で消化器内科部長を務めた後,2004年に消化器内視鏡の検査・治療を中心にしたクリニックを開業した。クリニックのある西大分地区は,かつて別府湾の交通の要衝だった“かんたん(菡萏)港”を中心に栄えた港町で,地域には古くから住む高齢者や代々続く有床診療所が多い。その中で,小野院長は,高解像度の内視鏡装置を導入し,大腸検査の前処置のための専用の待機スペースとトイレを設置するなど,消化器内視鏡検査にポイントを置いた診療を行ってきた。1日の内視鏡検査は下部(大腸)2件,上部(胃)3〜4件,日祝,木曜日の休診日を除いて毎日検査を行う。外来は,内視鏡検査を含めて1日平均40人だが,小野院長は「大腸は予約制ですが,胃の内視鏡は予約外でも随時対応しています。ポリシーで広告や宣伝は行っていませんが,患者さんの口コミで右肩上がりで少しずつ増え,大分市内だけでなく福岡など遠方から来院される患者さんもいます」と診療の現況を説明する。
●10年間で1万例の診療記録を自作電子カルテで管理
小野院長は,10周年を迎えたクリニックの診療について,「専門である消化器内視鏡の検査・治療を中心に,年間1000件の内視鏡を行ってきました。まもなく1万例に到達します。大きな病院のように最先端の装置はそろえられませんが,基本的なスクリーニングやポリープの切除,生検などを実施して,手術が必要な場合には古巣の大分赤十字病院へ紹介するなど連携して取り組んでいます」と語る。
古くからのFileMakerユーザーである小野院長は,バージョン3(1995年)の頃から個人的に住所録管理などに活用してきた。「FileMakerはデータベースはもちろん,ワープロや表計算としても使えるので,ほとんどFileMakerだけで済ますほど愛用していました」(小野院長)と言うが,大分赤十字病院時代には内視鏡室のデータ管理やサマリ入力などのシステムを自作して診療支援にも活用してきた。開業にあたって本格的なFileMakerの活用をめざし,インターネットで公開されていた整形外科向けシステムをベースにFileMakerで電子カルテを自作した。小野院長は,「勤務医時代のシステムも生かしながら,消化器内科向けで,自分自身が使いやすい電子カルテをめざして開発しました。消化器内科では内視鏡画像の管理がポイントになりますが,画像を含めて患者ごとの検査データを管理して,サムネイルで参照できるように工夫しました」と自作電子カルテ開発のポイントを説明する。
小野院長は,病院の電子カルテと開業医に必要とされる電子カルテとは機能が異なると,次のように言う。
「勤務医の診療は,患者さんを短時間に水平断面で把握することが求められます。例えば,吐血で来院した急患に対しては,その時点での出血の原因を把握し処置を行うための情報が提供されることが重要です。一方で,開業医にとっては,患者さんの情報を時系列の中で把握することが求められます。患者さんの既往歴や家族歴,過去の検査データなどを理解して,全体を把握しやすい電子カルテ画面が必要です。自作の電子カルテでは,画像を含めて患者さんのデータを時系列で把握できるシステムを構築しました」
さらに,小野院長が電子カルテと連携可能なレセプトシステムとして採用したのが,エムシスが開発していた医事会計システム「M6Rezept(エムロクレセプト)」である。その経緯について小野院長は,「FileMakerベースのレセプトシステムならば電子カルテと連携して,診察時の入力が直接レセプトに反映できるのではと期待して,いろいろと製品を探して出会ったのがエムシスでした」と説明する。
当時のM6Rezeptはまだβバージョンで(現在は医事会計システム「M7Rezept(エムナナレセプト)」として正式稼働),電子カルテとの連携はかなわなかったが,これがANNYYS_D版の導入へとつながっていった。
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●ANNYYS_D版導入で信頼性と継続性が向上
同クリニックでは,2013年10月にFileMakerベースで開発された電子カルテソリューションであるANNYYS_D版を導入した。ANNYYSは,日本外来小児科学会電子カルテ検討会の電子カルテ開発プロジェクトとして,小児科医を中心に臨床現場の発想を生かした電子カルテとして開発された。ANNYYSはオープンソースとして公開されてきたが,ANNYYS_D版は,その成果を引き継ぎ,あらゆる診療科に対応できる電子カルテソリューションとして2013年にリリースされた。従来通り,無料でダウンロードできカスタマイズも可能だが,ANNYYS_D版では事務局が中心となって,ユーザーサポートや保守業務の提供,FileMakerの技術を持つデベロッパーの紹介などを行って,ユーザーの構築をサポートすることが特徴だ。ANNYYS_D版の事務局は,ANNYYS開発メンバーの1人である秋山幸久氏が代表取締役を務めるエムシスが担当する。
ANNYYS_D版導入に至った経緯について小野院長は次のように説明する。
「自作電子カルテの運用が10年を迎えて,動作環境を変えないようにするため,構築当初のままでFileMakerのバージョンアップができない状況で,さらにPCなどのハードウエアにも限界にきていました。また,保険請求の監査で電子カルテの三原則への対応を指摘されたのですが,自分の技術ではそこまでの対応はできませんでした。そこでエムシスに相談して,ちょうどANNYYS_D版のリリースのタイミングと合ったことから導入を決定しました」
ANNYYS_D版では,5段階のセキュリティレベルでアクセス権限をコントロールできるほか,タイムスタンプや署名機能を搭載して,“保存性”,“見読性”,“真正性”の電子カルテの三原則を担保できるようになっている。
●過去の自作システムがANNYYS_D版で融合
同クリニックのANNYYS_D版は,レセプトシステムのM7Rezeptと連携し,小野院長が自作した機能を“検査ポータル”として画面カスタマイズされている。ANNYYS_D版は,電子カルテの基本的な機能を備えた土台であり,FileMakerを使うことでユーザーごとに必要な機能を,柔軟に追加することが可能だ。同クリニックのカスタマイズはエムシスが担当したが,小野院長は,「カルテ側で開いた患者さんの過去の検査データが,連動して検査ポータルに一覧で表示されます。リストからレコードをクリックすることで,以前のシステムで詳細を確認することが可能です。構築の際には,FileMakerの基本機能で何ができるかがわかるだけに無理なお願いもしましたが,これまで蓄積してきた診療データを生かして,使いやすいシステムになりました」と評価する。
●レセプトとの連携で診療業務を効率化
電子カルテ端末は受付,診察室のほか,処置室に設置されている。また,同クリニックでは院内処方を行っているが,調剤時にカルテの情報をiPadで参照しながら処方業務を行っている。小野院長はANNYYS_D版導入後の運用について,「レセプトとの連携で,事務作業は大きく簡略化されました。以前は,診察室で入力した電子カルテのデータを見て,スタッフが受付で再入力していたのですが,ANNYYS_D版では診察室での入力が,すぐにレセプトに反映されるようになり,転記ミスなどもなくなりました」とメリットを説明する。
ANNYYS_D版では,ユーザーにあわせたサポートプログラムが用意されているが,同クリニックではリモートサポート/アップデート保守(27万6000円)を契約して,サーバのリモートメンテナンス,月々のマスタ更新,プログラム更新アップデート作業の提供を受けている。小野院長は,「これまではFileMakerのバージョンアップも見送ってきましたが,ANNYYS_D版では常に最新の状態で使用できます。また,リモートサポートでトラブルやプログラムの不具合などにも迅速に対応してもらえるので安心です」と述べる。
●あえて効率化(電子化)しないという選択
同クリニックでは,臨床検査は外部の検査センターに委託し,検査結果は紙で提供されている。小野院長は,この検査結果を自ら電子カルテに手入力している。その理由に ついて小野院長は,「電子カルテで便利になることは良いことですが,データ化されたことで記憶には残りにくくなりました。検査結果はデジタルデータで提供してもらうことも可能ですが,あえて患者さん1人1人のデータを入力することで,印象に残すようにしています」と語る。電子カルテについても,「単に便利にするだけではなく,医師の能力を発揮させるような仕掛け作りが必要です。その意味で,ただ電子カルテを使う側になるだけでなく,ユーザーメードの視点を持っているほうが,仕掛けの背景にある意図を考え,工夫することができるのではと思います」と述べる。今後の課題について小野院長は,「レセプトとの連携で事務作業は軽減されましたが,医師の電子カルテへの入力負担は変わりません。診察時に入力をサポートしてくれる“医療クラーク”を置くような運用も必要かもしれません。ただし,最終的に入力内容を医師が承認するプロセスが必要で,さらに医師の業務負担が増えることになります。これを今後なんとか解決していきたいと考えています」という。
FileMakerのヘビーユーザーも納得するANNYYS_D版電子カルテ。サポート体制の充実によって拡張性や継続性を担保しながら,さらなる発展が期待される。
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