Special 3
医療法人葵鐘会 フォレストベルクリニック 乳幼児期の複雑な予防接種のスケジューリングを可能にするシステムをFileMakerで作成し運用
院長 飯沼由朗氏,副理事長兼CMIO 吉田茂氏
2014-3-5
ワクチン接種のスケジュール作成を
サポートする“ワクチンスケジューラ”
愛知,岐阜を中心に複数の産科専門施設を連携した産科医療ネットワーク(Bell-net)を運営する医療法人葵鐘会
(きしょうかい)では,FileMakerによる産科・新生児管理データベースを構築して,既製の電子カルテだけではカバーできない周産期医療のシステム化を進めている(詳細はCase5
を参照)。
葵鐘会では,前名古屋大学医学附属病院メディカルITセンター長の吉田茂氏をCMIO(兼副理事長)として迎え,グループとしてIT化の推進を図っている。吉田氏がFileMakerで構築した乳幼児のワクチン接種のスケジュール管理システムが運用されているフォレストベルクリニックの診療の現況とシステムの運用を取材した。
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●グループによる産科施設の運用で安心安全の周産期医療を提供
医療法人葵鐘会は,愛知,岐阜で8つの産科クリニックと1つの病院を運営する(表1)。2014年7月には,名古屋城に近い名古屋市西区に新たにキャッスルベルクリニックをオープン予定で,グループ内の医師が連携して産婦人科医2名体制による24時間365日の管理体制を構築する“ベルネット”方式によって,安心安全の周産期医療を提供するネットワークを広げている。さらに,経済産業省の2013年度「日本の医療機器・サービスの海外展開に関する調査事業」において,葵鐘会を代表団体とする「ベトナムにおける日本式周産期医療提供プロジェクト」が採択され海外展開も進めている。
名古屋市守山区のフォレストベルクリニックは,JR中央線の高蔵寺駅から車で5分,2011年5月にベルネットの7番目の施設としてオープンした。月間の分娩数は60件,外来は1日120〜150人。スタッフは助産師19名,看護師18名,診療放射線技師1名,柔道整復師1名などとなっている。クリニックでは,産科,婦人科のほかに,国際東洋医学センターでの漢方外来,女性検診センターによる乳がんや子宮がん検診を行っているのが特長だ。また,専属の柔道整復師による妊婦も受けられる女性向けのマッサージを提供するなど,周産期のニーズに対してきめ細かく対応する体制を整えている。飯沼由朗院長は,「肩こりや腰の痛みを訴える妊婦さんは多いのですが,整体や接骨院では妊婦の診療を断るケースもあり,なかなかマッサージなどの施術を受けられませんでした。当院では,専属の女性スタッフが週5日対応し産後ケアなども行っています」と,クリニックでの診療について語る。
●グループ内の施設の電子カルテをクラウド化して運用
葵鐘会では,以前からFileMakerによる産科データベース,新生児管理データベースを構築して電子カルテと連動した運用を行ってきた(Case5
参照)。吉田副理事長は,2010年ごろより非常勤の新生児科医として勤務していた葵鐘会ロイヤルベルクリニックでFileMakerを使ったユーザーメードによるシステム構築を進めていたが,2013年7月に同法人のCMIOに就任し,組織全体のITを推進する立場となった。吉田副理事長は,CMIOとしてIT化の方針を次のように語る。
「葵鐘会は,現在,年間7000〜8000件の分娩を扱っています。これだけの数が集まる妊産婦や新生児に関するデータベースは貴重ですので,臨床研究などにも役立てるようなデータ管理システムを整備していくことがひとつの目標です。このシステム構築については,基本的にはFileMakerをベースにしたユーザーメードと,FileMakerの医療系デベロッパとして実績のあるジュッポーワークスなどとも連携していきます。それと同時に,法人全体として適切で効果的な医療ITの運用ができるように,各施設のIT機器やネットワークなどのインフラを見直して再整備していくことも役割のひとつと考えています」
ベルネットの各施設には,電子カルテシステムとして富士通製の「HOPE EGMAIN-NX」が導入されている(エンジェルベルホスピタルを除く)が,現在,このシステムのクラウド化を進めている。吉田副理事長は,葵鐘会グループでの電子カルテのクラウド化について次のように語る。
「クラウド化によって,ベルネットの医師がどこのクリニックで診療しても同じIDとパスワードで同じ環境で電子カルテが使えますし,患者さんがグループのどこの施設にかかっていても情報を共有できます。例えば,里帰り分娩で稲沢のセブンベルクリニックから,分娩はフォレストベルで行い,出産後再びセブンベルに帰るというケースでも,あたかもひとつの施設で診ているように連続的に記録を参照できます。各施設のEGMAIN-NXを順次クラウド化する計画を進めており,2014年2月にオープンするグリーンベルARTクリニックからスタートし,今後各施設に広げていく予定です」
●多種多様で複雑な乳幼児期の予防接種スケジューラを開発
吉田副理事長が,FileMakerによる新たなソリューションとして開発し,フォレストベルクリニックで運用を開始したのが,乳幼児のワクチン接種スケジュール管理システム(以下,ワクチンスケジューラ)である。
乳幼児期には感染症の予防のため,さまざまなワクチンの予防接種が行われるが,近年,その種類が増えたことや,ワクチンによって接種の回数や時期,接種間隔などが異なることから,煩雑なスケジューリングが必要になっていた。吉田副理事長は,「昔は小児科医は予防接種の種類と接種間隔を憶えることが基本でした。しかし,現在では接種するワクチンの種類が増えており,ワクチンの接種スケジュールをフリーハンドで作成するのは不可能になりつつあります」と言う。
乳幼児期における予防接種には,予防接種法で接種が推奨されている定期接種(2歳未満で7種,原則無料)と,個人の意思で受ける任意接種(同4種,自費)がある(表2参照)。ワクチンには,不活化ワクチンと生ワクチンがあり,同日に複数のワクチンを接種するのは構わないが,日にちがずれる場合には不活化ワクチンは1週間,生ワクチンでは4週間,接種の間隔を空ける必要がある。また,各ワクチンには推奨される接種時期や,複数回の接種が必要な場合には接種間隔が決められているなど,接種のための条件は複雑を極める。さらに,実際にスケジュールを組む際には,かかりつけ医の診療日や自治体などの集団接種の実施日を考慮する必要が出てくる。また,スケジュールが決まっていても子供の体調で受けられなくなれば,すべてのワクチンの予定を最初から組み直すことが必要になるなど,一筋縄ではすまないことがわかる。吉田副理事長は,「日本小児学会では推奨する予防接種スケジュールを公開しており,しっかり指導している施設もありますが,母親の判断に任せているところもあります。予防接種法では健康被害に対する救済制度が設けられていますが,接種の規定から外れている場合には被害があっても救済の対象とならない可能性があります。複雑なスケジューリングをサポートして,接種のルールに沿ってピンポイントで日程を自動的に決定できる仕組みを作りました」と吉田副理事長はワクチンスケジューラの必要性を説明する。
●接種時期,間隔の禁忌を計算して接種日を自動的に決定
ワクチンスケジューラでは,ロタ,Hib,肺炎球菌,四種混合,BCG,B型肝炎,インフルエンザ,MR,水痘,ムンプス,日本脳炎などの11種のワクチンについて,誕生日(出生日)からの日にちを計算し,必要な接種間隔を判定して接種日を自動的に決定する。何回目かのワクチンの接種日をずらせば,前後の接種日についても適正な間隔になるように自動的にリスケジュールされる。同じ日に予定されていた他のワクチンの予定も,自動的に移動されるようになっている。また,BCGなど自治体の集団接種の予定が優先されるものについては,BCGの予定を優先して,他のワクチンの予定を決定する機能を搭載している。
定期接種は,住民票のある自治体で受けないと補助の対象とならないため,「里帰り分娩などで実家に戻って出産した場合に,自宅に戻る日まで開始日をずらしてスケジュールを組むこともできます。フリーのソフトで接種スケジュールを作成できるものがありますが,誕生日からおおよその接種時期を示すだけで,小児学会の推奨表のレベルと変わりません。ワクチンスケジューラでは,ピンポイントで接種日を決定できます」(吉田副理事長)と機能を説明する。さらに,1か月健診でのiPadの新生児問診票システム
とも連携しており,問診内容に予防接種に関する質問を設けて居住地や接種希望のワクチンなどをあらかじめヒアリングして,個々の事情にあわせた情報を提供するように運用されている。
FileMakerによる構築のポイントについて吉田副理事長は,「このシステムの開発は,ワクチンの種類や禁忌,接種間隔など乳児期のワクチン接種の内容についての相当な理解が必要です。ユーザーメードの利点は,ワクチン接種のルールを熟知している医師が直接作成できることです。特に,このワクチンスケジューラでは,プログラム的にも開始日と終了日があいまいで,間隔の条件には日と週と月が混在するなど,ベンダーに作成を依頼しても仕様書作成だけでも大変で,仕様変更への対応は不可能に近いでしょう。FileMakerでは,トライアンドエラーで現場で修正しながら対応する“アジャイル型”の開発ができることが大きなメリットになります」と述べる。
●ユーザーメードとベンダーシステムを連携した構築を推進
フォレストベルクリニックでは,2012年からスケジューラの運用を開始し,現在では900人超えるデータが蓄積されている。「1か月検診の際に看護師さんがヒアリングをしながら入力してくれます。ワクチンごとに個別にクリックすれば設定できますので,スタッフはゲーム感覚でお母さんの予定を聞きながら,予約の混雑状況なども考慮して決めてくれます。現在はフォレストベルとロイヤルベルクリニックで運用されていますが,今後,グループ内の各施設に広げていく予定です」(吉田副理事長)。
吉田副理事長は,今後のユーザーメードシステムの展開について,「医療情報システム構築を自ら手がけるユーザーが集まるJ-SUMMITS
を立ち上げて活動してきましたが,ユーザーメードのレベルアップやFileMakerデベロッパとの協調、さらには基幹システムとの融合など順調に成果を上げています。葵鐘会でも,クラウド化した電子カルテシステムとの連携なども含めて,今後さらに開発を続けていきます」と述べている。
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