Case 13 医療法人研信会 知立クリニック
透析業務支援システムをFileMakerで構築し,患者情報の一元管理,業務の効率化,安全性の向上を実現
事務部 前田 勉 主任 技術部 竹本知弘 臨床工学技士
2013-7-1
資材部門ではiPadでオーダを確認しながら材料出しを行う。
医療法人研信会知立クリニック(院長:石井利治)は,愛知県知立市にある透析専門医療機関である。研信会グループ(会長:鈴木信夫,理事長:小島かな子)では,知立クリニックのほか,刈谷中央クリニック,大府クリニックの3つの透析専門クリニックを西三河地区で運営している。知立クリニックでは,透析業務の支援システムをFileMakerで構築,3施設をVPNで接続しFileMaker Serverで患者情報の一元管理を行っている。基幹システムがない中で,透析業務の効率化をめざしてFileMakerでユーザーメードによる構築に取り組んだ同クリニックの取り組みについて,事務部の前田勉主任,臨床工学技士の竹本知弘技士に取材した。
●愛知県の西三河地区の透析医療を支える専門施設を展開
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知立クリニックは1974年に開院,西三河地区(知立,安城,刈谷,豊田,高浜)の透析専門施設として,60床の透析ベッド,入院施設(19床)を持ち,シャント手術や入院透析など透析や腎臓内科の専門医による質の高い医療の提供はもちろん,食事や薬事療法など地域の透析患者に対するきめの細かい総合的な支援体制を整えている。一般外来では循環器疾患や糖尿病患者の治療も行っている。スタッフは,常勤医師3名(非常勤8名),看護師27名,臨床工学技士4名,診療放射線技師2名,看護助手10名,管理栄養士2名など。そのほか,分院として刈谷中央クリニック(透析ベッド40床),大府クリニック(透析ベッド60床)があり,それぞれで透析医療を提供している。
●透析業務支援システムをFileMakerのユーザーメードで構築
研信会グループでは,2008年に業務のIT化の推進の必要性が出てきたことから,院内に「情報システム検討委員会」を設置し,電子カルテ化を含めたIT化の検討をスタートした。当初,検討委員会では,パッケージの電子カルテシステムや透析支援システムの導入を視野に検討を行い,実際に導入施設の見学も行ったが,最終的にパッケージでは3つのクリニックの連携や独自の業務に対応することが難しいと判断された。前田主任は,「クリニック規模の複数施設を連携した電子カルテの例がないこと,透析業務支援のパッケージは透析装置をリンクして情報を支援するものが多く当院のニーズと合わなかったこと,そしてコストが問題になりました」と振り返って言う。
そこでクローズアップされたのが,院内の各部署で業務をサポートする目的で使われていたFileMakerである。診療情報提供書の作成や薬剤業務の支援などのために,FileMakerが使われており,その作りやすさと拡張性などから,可能性が注目されていたという。「最後にパッケージシステムを導入するか,FileMakerによる自院の開発で構築するかの選択になり,理事長を含めた話し合いの中で,櫻内靖浩大府クリニック院長の一声でユーザーメードの構築を行うことになりました」と前田主任は説明する。
検討委員会での方針決定後,実際の業務は,事務部の前田主任が中心になって構築にあたることになった。「特にFileMakerの知識があったわけではありません。病院の業務をサポートするという事務部の役割の一環として構築を担当することになりました。市販のFileMakerの参考書などを見ながら,独学で少しずつ構築していきました」(前田主任)。現在では,現場の担当として竹本技士が中心となって管理,構築にあたっている。
●FileMakerによる患者情報管理で3施設を連携したネットワーク構築
知立クリニックの透析患者は約200名,法人全体では400名にのぼる。透析治療は2日に1回(週3回),1回の透析時間は約4時間が基本となるが,透析室では60床の透析ベッドで昼と夜の1日2サイクルで対応する。治療にあたっては,個々の患者に対して医師の処方に基づいて人工腎臓(ダイアライザー),注射を用意する必要があり,また,感染症防止などの観点から使用するベッドは個人ごとに決まっており,患者情報の管理とスタッフ間での共有,スケジュールや資材の管理などが求められる。
FileMakerによるシステム導入前は,ナースステーションのホワイトボードにベッドごとの透析スケジュールや内容を記載した一覧表を作成し管理していた。竹本技士は,「処方の変更などがあった場合には手書きで修正する必要があり,しかもホワイトボードだけでなく,カルテ,透析記録まで複数箇所に転記する必要があり,ミスが起こるリスクがありました」という。同クリニックでは,透析患者に対して月2回採血を行い,その結果をみて担当医が処方内容を変更する。以前からこの業務のために,市販のソフトウエアで「データチェック」と呼ばれるシステムを自作し運用していた。「過去の検査結果を時系列に表示し,最新の検査データを確認して注射内容や人工腎臓の変更などを医師が入力するシステムです。入力された処方内容は各部署で確認できましたが,単独のシステムであり,これを院内で共有するシステムをFileMakerで実現するところからスタートしました」(前田主任)。
FileMakerで構築した透析業務支援システムでは,3施設で50台近いPCを導入,FileMaker Serverで患者情報を一元管理し,医師の処方変更などの情報がリアルタイムに更新されるようになった。また,レセプトコンピュータは,日医標準レセプトソフト(ORCA)を導入し,FileMaker側への患者基本情報の取り込み,透析業務支援システムで入力した処方情報のフィードバックなど連動を実現している。
FileMakerで構築された「検査データチェックシステム」では,検査データに基づいた指示入力,その指示に基づいた人工腎臓・注射準備用の指示箋の発行,カルテ2号紙用ラベル,透析チャートの発行などが可能になっている。そのほか,透析スケジュールの管理,入退院,転出入管理,診療情報提供書発行システム,手術録作成(Webビューワに画像サーバの画像を表示させて使用),栄養管理などのシステムを構築した。前田主任は,「診療情報の一元管理,業務の効率化とミスの減少を目的にシステムを構築しましたが,発生源入力による情報の一元管理によって,手書きによる転記などの作業がなくなり,業務の効率化とミスの減少が実現できました」とシステム化のメリットを説明する。
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●資材部門での材料出しのチェックにiPadを活用
知立クリニックを中心とした3施設のデータ連携では,光ファイバーによるVPNを構築して知立クリニックのFileMaker Serverを共有している。この施設間のネットワークについては,NTT西日本の協力でIP電話の機能を持たせると同時に,内線電話としても利用できるようにして施設間の通信費のコストダウンも実現した。
また,同クリニックでは,透析のダイアライザーなどの資材準備の際に,iPadを活用している。透析業務支援システムの情報をもとに当日に必要とされるダイアライザーの種類と数の一覧を作成し,そのデータをiPadに表示して,サプライ室で参照しながら準備を行う。透析室のスタッフは,「以前はやはりホワイトボードを確認して,必要な数を確認していました。直前の変更もあり,転記などミスに注意が必要な気を遣う作業でしたが,現在では最新の情報を参照しながら資材準備ができます」と評価している。iPadは,知立クリニックのほか各施設に導入され,6台が運用されている。
透析業務の複雑なワークフローの効率化にシステム化は大きな効果をもたらすが,FileMakerによる柔軟なシステム構築は,その1つの選択肢として期待される。
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