Case 10 独立行政法人 国立病院機構大阪医療センター 入力部分のFileMakerでの構築を含めて大手ベンダーと連携して作り上げた“ユーザーメード”の電子カルテシステム
産婦人科医長/医療情報部長 岡垣篤彦氏

2012-7-15


産婦人科のスタッフと。岡垣篤彦医長(中)

産婦人科のスタッフと。岡垣篤彦医長(中)

国立病院機構大阪医療センターでは,2000年からベンダー製の電子カルテ(富士通)とFileMakerによる“ユーザーメード”のシステムを連携した病院情報システムの開発に取り組んできた。2011年12月には,電子カルテシステムがHOPE/EGMAIN-EXからGXにリプレースされ,FileMakerとの連携も第3世代となった。基幹システムとの連携やFileMakerによる入力部分の構築を含めてベンダーが担当することで,大規模病院でのユーザーメードによるシステム構築を実現している。同センターでのシステム構築を牽引する産婦人科医長/医療情報部長の岡垣篤彦氏に,電子カルテシステム構築のコンセプトと,ユーザーメードによる医療システム構築のポイントを取材した。

●インターフェイスをFileMakerで構築し基幹システムと連携

「ユーザーメードの構築が理想の電子カルテに近づき,医療の質を向上する」(岡垣氏)

「ユーザーメードの構築が理想の電子カルテに近づき,医療の質を向上する」(岡垣氏)

ベッド数約700床,36科目の診療科,外来患者は1日約1100人,擁する医師は260人。大阪医療センターは三大疾患であるがん・心臓病・脳卒中の治療実績で高い評価を得ており,国が提供する「政策医療」を担う高度総合医療機関だ。
同センターでは,2000年にオーダリングシステムのリプレースを行ったが,その際に一部の診療科の電子カルテ化と入力部分のFileMakerによる構築という変則的な導入を行った。その経緯を岡垣氏は次のように説明する。
「産科のカルテ記載のための部門専用システムをMacとFileMakerで構築していたのですが,それを富士通の電子カルテの入力部分に採用して産科,総合内科,循環器科の3つの科で導入しました。当時は大規模病院での電子カルテ導入が始まったばかりであり,インターフェイスの部分をFileMakerでユーザーが直接作ったらどうなるかという実験的な取り組みでもありました」
電子カルテでは,特にインターフェイスの部分でユーザーの不満が大きいが,ベンダー側の不理解とユーザー側の説明不足という側面が大きい。その部分にFileMakerによるユーザーメードを取り入れることで,理想に近いシステムを実現した。
「現場を一番よく知るユーザーがシステム構築にかかわることで,要望にあったシステムを構築できることがユーザーメードの強みであり,それを実現したのがFileMakerでした」(岡垣氏)

●現場でサイクルを回す“アジャイル”型の開発をFileMakerで実現

同センターでは,2006年の病院情報システムのリプレースで富士通の電子カルテシステム「EGMAIN-EX」を導入した。この時に,FileMakerによる電子カルテの入力部分の適用を全36診療科に拡大した。
「理想はユーザーメードですが,当院の規模になるとすべてをユーザーがコントロールすることは困難です。そこで,ユーザーメードと連携することを条件に入札を行い,富士通が基幹の電子カルテとFileMakerによるインターフェイス部分の開発を含めて担当することになりました」
FileMaker部分の開発にあたっては,富士通の4~5チームが36診療科をヒアリングし,プロトタイプを作成,意見を聞いて修正するという工程を繰り返して行った。通常,電子カルテの導入ではフィードバックのないウォーターフォール型の開発しか行われないが,FileMaker部分に関しては実質「アジャイル(Agile)」型となった。
「医師や看護師は,要望を言葉(仕様書)にするのは難しいですが,イメージを描くことはできます。理想の画面イメージからそれを実現できるシステムを作ってもらいました。少しずつ修正しながら完成形に近づけていくというアジャイル型の手法が可能になったのは,FileMakerのRDBとレイアウトの自由度,開発効率の高さがあったからです」(岡垣氏)

婦人科外来再診カルテ基本画面 左が所見入力,右が過去の記録の参照カラム。カーソルを合わせると画像が拡大する。

婦人科外来再診カルテ基本画面
左が所見入力,右が過去の記録の参照カラム。カーソルを合わせると画像が拡大する。

 

●あらゆる情報を一覧できる“ハブ”となる電子カルテを実現

2011年末の更新では,基幹の電子カルテをEGMAIN-GXにリプレース,基幹システムとFileMakerのデータ連携などは 仕組みが大きく変わり大変な作業になったが,FileMakerによるフロント部分は変更の必要がなくスムーズに移行できた。今回の更新では,呼び込みデータの最適化によるFileMakerカルテの起動のスピードアップ,FileMakerで記述した以外のデータや,眼科や産科などで稼働する基幹以外の システムのデータ取り込みなどの機能強化を図った。
現在,FileMakerの電子カルテには,10種類の台帳,89ファイル,合計341のレイアウト(画面)でそれぞれに10~600のフィールドがあり,総項目数は6万5000項目以上(重複を含む)になる。基幹部分は通常の電子カルテ(GX)であり,最後のインターフェイスの部分がFileMakerで,基幹から1患者分のデータを渡す(CSV形式)ことで参照を可能にする。入力したデータは,基幹の電子カルテサーバに書き込まれる。データの保存と入力でレイヤーを分けることで信頼性と使い勝手の良さを両立して いる。
また,同センターでは,電子カルテサーバとは別にFileMaker Serverによる参照系のシステムを構築している。基幹の電子カルテサーバに保存されたデータをFileMaker Serverに取り込むことで,FileMaker電子カルテと同じレイアウトで参照,集計,分析が可能だ。参照系では,抗がん剤履歴管理,褥瘡・転倒管理,MRSA発生状況など,電子カルテのデータを活用したファイルが作成されている。参照系のFileMaker Serverで扱われているレコード数は,検体検査が約5000万件,注射・処方で250~300万件,DPC情報で約1390万件などとなっている。
岡垣氏は「本来,電子カルテに期待されるのは,あらゆる情報を一覧できる“Hub(ハブ)”としての役割です。残念ながら今のベンダー製のシステムは,設計や技術が不充分で機能を果たしていません。電子カルテに登録されているデータは宝の山です。それを活用できるのがFileMakerによる構築のメリットです」と強調する。

FileMakerカルテより薬剤管理記録を参照

FileMakerカルテより薬剤管理記録を参照

 

眼科カルテ眼底所見画面

眼科カルテ眼底所見画面

 

●“ユーザーメード”の一層の普及のためにはガイドラインが必要

iPadでの電子カルテ参照なども開発中。

iPadでの電子カルテ参照なども開発中。

同センターの情報部門のスタッフは,DPCやがん登録など医事の統計データの管理を行うスタッフ5名,そのほかメンテナンスなど運用管理を行う外部スタッフと契約しており,昼間4~5名,夜間1名の体制となっている。運用管理のうち1名がFileMakerの専門技術者で日常の変更などに対応する。「画面の一部修正でもベンダーでは時間とコストがかかります。院内に専任の担当者がいることで,すぐに対応できることがユーザーメードの利点です」と岡垣氏は説明する。
ユーザーメードによるシステム構築の課題と展望を岡垣氏は次のように語る。
「ユーザーメードで構築する際に重要なことは,個人に頼るのではなく組織として対応することです。また,ユーザーメードの課題は,システムの安全性や信頼性に対して病院管理者が不安を持つことです。当センターでは,その部分をベンダー製の電子カルテを基幹システムに採用することで担保しましたが,ユーザーメードシステムの安全な使い方について,何らかのガイドラインがあれば管理者側もユーザーも安心して運用ができます。今後は,日本ユーザーメード医療IT研究会(J-SUMMITS) や日本EUC学会などで,ガイドライン作りを進めることがユーザーメードの一層の発展のためには必要ではないでしょうか」
同センターでは,仮想サーバによる電子カルテのiPadでの運用や,災害時の無線LANによる電子カルテ運用など,次を見据えた開発を継続して行っている。ユーザーメードのトップランナーとしてこれからが期待される。

 

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独立行政法人 国立病院機構大阪医療センター

独立行政法人 国立病院機構大阪医療センター
大阪市中央区法円坂2-1-14
TEL 06-6942-1331
病床数:694
FileMaker Site License:1220
http://www.onh.go.jp/


(インナービジョン2012年7月号 別冊付録 ITvision No.26より転載)
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