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宮城県仙台市 宮澤循環器科内科クリニック 診察のムダを省き,診療情報を一覧できる電子カルテを,医事システムと連携してFileMakerで独自開発
院長 宮澤佑二氏

2012-7-25


宮澤佑二院長(中央)とスタッフ

宮澤佑二院長(中央)とスタッフ

宮城県仙台市泉区の宮澤循環器科内科クリニックは,市営地下鉄・泉中央駅から徒歩5分に1993年に開院した循環器専門のクリニックである。宮澤佑二院長は,開院当初からFileMakerを使った処方箋発行システムの構築を手始めに,患者とじっくり向き合うための診療支援システムを“ユーザーメード”で作り上げてきた。現在は,患者受付から,画像を含めた検査データの参照,検査オーダや処方の発行まで行える電子カルテシステムとして構築され,FileMakerと連携可能な医事システム「M7Rezept」と連携して運用されている。クリニックの診療の概要と,FileMakerによるシステム構築,東日本大震災時の対応などを含めて宮澤院長に取材した。

●循環器疾患に対する漢方を含めた内科的なアプローチを行うクリニック

診察室のFileMakerで独自に開発した電子カルテを前に診察する宮澤院長

診察室のFileMakerで独自に開発した電子カルテを前に診察する宮澤院長

宮澤循環器科内科クリニックは,循環器疾患の術後のフォローアップや心臓などの不調を抱える患者に対して,漢方を含めた内科的なアプローチを行うことを目的に1993年に開院した。診療の特徴を宮澤院長は次のように説明する。
「循環器疾患では,急性期の治療や外科的な手術は重要ですが,慢性期や術後の長期的なフォローアップ,著明な症状はなくても不整脈や高血圧など日常的に心臓に不安を抱えている患者さんに対する診療も必要です。患者さんの症状や体質にあった適切な治療法を専門的な視点から提供しています」

同クリニックでは,治療の一環として漢方を取り入れているのが特徴だ。循環器疾患では,急性期の外科的な治療だけでは症状が改善しなかったり,検査をして異常が認められなくても慢性的な不調が続くことがある。「漢方は,その方の症状や体質によって柔軟に対応できますので,治療の選択肢のひとつとして提供しています」(宮澤院長)。

1日の平均外来患者数は50~60人。クリニック周辺は,地下鉄や東北自動車道など交通の便がよくベッドタウンとして発展している地域だが,外来の数は開院からあまり変わらず,継続的に通院する患者が多いことが特徴だ。
「1人の患者さんを長期間にわたって継続的に診ることが多く,開院からずっと診ている方も多くいます。診療では,できるだけ時間を取って1人ひとりとじっくりとお話しを聞くように心掛けています。特に広告などは出していませんので,病院からの紹介や患者さんの口コミで受診されるケースが多いですね」(宮澤院長)。

●FileMakerを使って独自開発した電子カルテシステムが診療をサポート

受付の端末 患者を受け付けると当日の検査内容などを記載した外来受付票を印刷

受付の端末 患者を受け付けると当日の検査内容などを記載した外来受付票を印刷

クリニックでは,FileMakerを使って宮澤院長が自ら構築した電子カルテシステムが稼働している。宮澤院長は,開院時からFileMakerによる自作で院内のシステム開発を手掛け,少しずつ拡張しながら現在は医事システムと連携した電子カルテシステムまで発展してきた。構築の経緯を宮澤院長は次のように語る。
「処方箋を手書きせずにすむように,処方箋発行システムをFileMakerで作ったのが最初です。そこから,紹介状などの文書作成や患者さんの基本情報の蓄積など,受付と診察室の両方からシステムを広げていきました。当初からの開発コンセプトは,転記や記録の重複などムダを省いて,診察の時間,患者さんとの面談の時間を長く取ることです。そのために,所見は紙カルテに手書きして後からスキャンするスタイルにしました。これも,入力に時間をとられないようにする考えからです」

検査受付端末 外来で受付終了した患者が一覧表示され,患者名を選択することで必要な情報を確認できる。

検査受付端末 外来で受付終了した患者が一覧表示され,患者名を選択することで必要な情報を確認できる。

一方で,診察室では受付した患者一覧から患者名を選択すれば,当日の検査予定,過去の検査結果,処方内容,心電図やX線画像などが展開し,該当する患者に関するあらゆる情報が簡単に参照できるように工夫されている。「過去のデータや検査結果を探すことが一番時間がかかります。必要なデータがすぐに一覧でき,データを参照しながら診察ができることが電子化のメリットです」(宮澤院長)。

現在,FileMakerでは,受付,予約,患者情報,検査予定,検査結果,処方発行,文書作成などのシステムが構築され,FileMaker Server1台と診察室,外来受付,検査受付,事務など10台の端末で運用されている。手書きした紙カルテのほか,紹介状などの文書,心電図などは,スキャナで取り込み,FileMakerの画像管理機能を拡張するプラグインであるFactory's FileMaker Plug in 2(有限会社ファクトリー) を使って,参照できるようにしている。そのほか,外注の血液検査は,媒体からデータを取り込み,DICOMでサーバに保存されているX線検査の画像データはJPEGに変換してFileMakerに取り込んでいる。変換にはAppleScriptを使って自動化しているが,これも宮澤院長が書いたものだ。

●医事システム「M7Rezept」を導入しFileMakerと連携して運用

2008年に,FileMakerの一層のデータ活用と業務の省力化を図るために,FileMakerと連携可能な医事システムとして「M7Rezept(エムナナレセプト,有限会社エムシス) 」を導入した。これによって,FileMakerで入力した処方などのデータがそのままレセプトに反映され,転記などの手間がなくなった。「開院から導入した医事コンピュータはFileMakerとの連携ができず,別々に運用していました。いろいろと探したところANNYYS(FileMakerで構築した小児科の標準電子カルテ)と連携する医事システムとしてM7Rezeptを見つけて,2008年に導入しFileMakerと連携した運用が実現しました。FileMaker Serverのデータと直接連携でき,外来受付での二重入力がなくなり使い勝手が大きく向上しました」(宮澤院長)。

宮澤院長は,FileMakerを解説本など独学で勉強して,ほとんどのシステムを1から作り上げてきた。FileMakerでのシステム構築のメリットを宮澤院長は次のように語る。 「自分が使いやすいようにカスタマイズできることです。ベンダー製のシステムは,小さなクリニックの個別のワークフローにあったものはなく,カスタマイズにはコストもかかります。修正のための説明や手間の時間を考えると,自分で直接作ったほうが早いですし,コストも抑えられます。ユーザーのニーズにあったシステム構築を可能にするのがFileMakerでした」

コストについては,「電子カルテの部分は自前で構築していますので,FileMakerのライセンスとサーバなどの端末導入代,医事システムの保守料金程度しかかかっていません」とのことだ。

■診察室基本画面

診察室基本画面

 

診察室基本画面

心電図やX線画像などをFileMakerに取り込み,患者を選択するだけで過去の所見から当時の検査結果まで簡単に参照することができる

 

診察室基本画面

DICOMサーバからJPEGに変換して取り込む手順をAppleScriptで自動化

 

●震災時にはUSBメモリのバックアップデータとノートPCで処方箋を発行

2011年3月11日に発生した東日本大震災では,同クリニックも大きな被害を受けた。宮澤院長は診察中だったが,ビルの5階にあるクリニックは大きく揺れ,棚が崩れてカルテが散乱し,超音波診断装置やベッドが室内を滑るなど危険な状況だったという。FileMakerのサーバ(PC)は無事だったが,停電によって診療の継続は不可能になった。しかし,翌日には常服薬を求める患者が来院したため,USBにバックアップした診療データとノートPCで,診療データを確認して処方の発行などを行ったという。
「まだ,停電が続いていて診療を行える状態ではなかったのですが,ノートPCで処方データを確認して手書きで処方箋を出しました。USBへのバックアップは,ハードディスクへのバックアップに加えて安心のために毎日行っているものですが,通信や電気といったライフラインが途絶した発災当初には,最小限の構成でも運用可能な環境と,データの整備が重要だということを実感しました」(宮澤院長)。

これからのシステム構築の方向性について宮澤院長は,「FileMakerの新しいバージョン12では,オブジェクトフィールドでの画像などのファイルの扱いが強化 されていると聞いていますので,もっと簡単に画像を取り込んで参照や説明に活用できるようにしていきたいですね」と語る。

患者と向き合う時間を作るための電子カルテの進化を,これからもFileMakerがサポートする。

■宮澤循環器科内科クリニックシステム構成図

宮澤循環器科内科クリニックシステム構成図

宮澤循環器科内科クリニックシステム構成図

 

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