Case 8 社団法人大島郡医師会病院 
介護支援,放射線業務,リハビリ部門などで,FileMakerを使って現場のニーズにきめ細かく対応したシステムを構築
放射線室 岡山雅樹氏  総務課 青木一史氏  医事課 竹元祐介氏

2012-2-15


左から青木,岡山,竹元の各氏

左から青木,岡山,竹元の各氏

鹿児島県奄美大島の大島郡医師会病院は,内科,整形外科など13診療科と療養型病床を中心に188床で診療を展開するほか,介護老人保健施設「虹の丘」を併設し,訪問看護ステーション,居宅介護支援事業所,通所リハビリテーションを運営するなど,地域の医療,介護をトータルに支えている。同院では,現場のニーズに応えて介護支援や放射線科の業務管理システムなどを FileMakerを利用して“ユーザーメード”で構築を行っている。システム導入に人手や予算など多くのリソースを割けない中小施設における,システム構築の取り組みを取材した。

●変更の多い介護保険の書類作成をFileMakerで構築したことがスタート

放射線室では照射録管理など業務管理システムを構築

放射線室では照射録管理など業務管理システムを構築

同院で,FileMakerによるユーザーメードのシステムの構築が始まったのは,2005年頃のこと。最初は,併設する居宅介護支援事業所のスタッフから,介護保険の改定に対応してレイアウトを自由に変更できるシステムができないかと相談されたことがきっかけだったと,総務課の青木一史副主任は次のように説明する。
「居宅事業所では,ベンダ製の介護業務支援システムが稼働していたのですが,介護保険の改定に伴う変更や,自治体ごとに異なる書類の書式に柔軟に対応するために,書類作成システムを細かい修正やレイアウトの変更が簡単にできるFileMakerで作り始めました。それをベースにして,計画書の作成や経過記録の入力などの機能を,現場の要請を聞きながら追加して,さまざまな介護の情報を管理できるシステムに発展していきました」。
一方で,放射線科では岡山雅樹室長がX線撮影の際の照射録のデータベース(DB)化をFileMakerで進めていた。「手書きで管理していた照射録をDB化して,医事課からの撮影内容の問い合わせなどにも迅速に対応したいと考えて取り組みました。検索や,同じような内容はコピーすることで簡単に入力できるようになり,業務の効率化が実現できました」と振り返る。
これらのシステム構築が評価されることで,その後,2人が中心となって院内のさまざまなシステム化に要望に応えることで,同院でのユーザーメードシステムが発展していくことになった。

●独学でFileMakerを学び, 現場の要望にあったシステムを 少しずつ構築

リハビリテーション室の業務支援ソフト

リハビリテーション室の業務支援ソフト

現在では,院内では放射線科のほかに,リハビリテーション室のリハビリ業務支援システム,栄養士室での栄養管理システムなどを運用し,介護関連事業所では居宅介護支援事業所をはじめ,通所リハビリ,訪問リハビリ,訪問看護などでFileMakerで構築したシステムが活用されている。居宅介護支援事業所で稼働中の「居宅介護支援マネジメント」(図1)では,利用者の基本情報の入力や,アセスメント,支援経過記録,予防計画・評価,住宅改修・福祉用具購入などの入力と書類作成が行える。また,放射線科の業務管理システムでは,患者基本情報のほか,撮影記録(照射録入力,統計),始業・終業点検(チェックリスト)などの機能を提供する(図3,4)。
とはいえ,当初はデータベースやプログラムに関する知識はまったくなく,手探りでスタートしたと青木副主任は振り返る。
「AccessなどのDBソフトウエアも試したのですが,わかりづらくていろいろと試行錯誤しました。その中でFileMakerは,自分が考えたことが直感的に実現できたことから使い始めました。最初は独学だったので市販の参考書を見たり,FileMakerを使っていた医局の医師に聞いて少しずつ進めていきました」。
岡山室長もFileMakerの使い勝手について,「DBを作るだけならほかにもいろいろなソフトウエアがありますが,FileMakerはさらに作り込みたいと思った時に,関数や計算式などが初心者にもわかりやすく使いやすいのが魅力でしたね」と語る。

図1 居宅介護支援マネジメント画面

図1 居宅介護支援マネジメント画面

 

図2 リハビリテーション業務支援画面

図2 リハビリテーション業務支援画面

 

図3 放射線業務支援:撮影照射録画面

図3 放射線業務支援:撮影照射録画面

 

図4 放射線業務支援:撮影件数統計画面

図4 放射線業務支援:撮影件数統計画面

 

●部門ごとのデータベースをFileMaker Serverで統合し情報共有を進める

病院全体としての情報システムの導入状況は,医事課のレセプトコンピュータと放射線科のPACSが稼働するのみだが,診察室や病棟などにはPCが設置されており,院内のLANについては将来を見越して配線が終了している。岡山室長は,「LANについては,部門や機器の導入時に継ぎ足しで配線されていたため,われわれですべての配線を見直し,院内全体のLANを再構築しました」と,地道にインフラの整備を進めていると語る。
現在は,病院として「情報管理部門」のような組織はなく,個別にシステムの改善や拡張を行っているのが現状だ。青木副主任は,「ここまで本来の業務の傍ら構築を進めてきて,少しずつ病院側の理解も得られつつあります。いずれにせよ,PCやネットワークなしでは,これからの診療業務はできませんし,かといって市販のシステムを導入するには,メンテナンスなどのコストもかかります。われわれのような規模の施設では,FileMakerによるユーザーメードのシステムが,現場の細かい要望にも対応できるだけでなく,コストの面でも大きなメリットがあると思います」と説明する。実際に,市販のソフトが入っていても,FileMakerで作ったシステムのほうが使いやすいと現場からの評価は高いという。

●訪問介護や病棟でiPadとFileMaker Goを使った ソリューションを構築中

iPad2とFileMaker Goの活用にも取り組む

iPad2とFileMaker Goの活用にも取り組む

2011年10月にFileMaker Serverを導入し,これまで部門ごとに構築されてきたFileMakerのDBを一元管理する予定だ。
「利用者の基本情報などを統一して,これまで部署ごとに構築されてきたデータを一元管理することで,1人の患者さんの入院から在宅までの流れをトータルに把握できるようなシステムを構築していきたいと考えています。当施設には,通所と訪問のリハビリがありますが,訪問リハの実施内容を登録できれば,利用者のリハビリの進捗状況をトータルで共有することができます。幸い各事業所は同じ敷地内にありLANが構築されていますので,FileMaker Serverによって比較的容易に連動できるのではと考え ています」と青木副主任は言う。
その一環として,データの入力や参照にiPadを利用したシステムの構築を検討して,一部は試験的に運用を始めている。
「訪問先でiPadを使ってデータ入力を行い,事業所に戻ってからデータを転送するような運用を考えて,FileMaker Goを使ったシステムを構築中です。病棟でもバイタルデータなどの入力を行いたいという要望もあり,院内でのiPadの利用も検討しています。患者・利用者の基本情報の統一を含めて,組織としての情報の活用を進めていきたいですね」(青木副主任)。
これまで,青木副主任,岡山室長が中心になってFileMakerのシステム構築を進めてきたが,新たに医事課の竹元祐介氏が加わった。現場から始まったユーザーメードのシステムが,同院の医療,介護の業務を支える幹線として成長していくことが期待される。

 

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社団法人大島郡医師会病院

社団法人大島郡医師会病院
鹿児島県奄美市名瀬小宿3411
TEL 0997-54-8111
FileMaker Pro:26
FileMaker Pro Advanced:1
FileMaker Server:1
http://hp.oshima-med.or.jp/


(インナービジョン2012年2月号 別冊付録 ITvision No.25より転載)
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