Case 7 医療法人社団 敬愛会 佐賀記念病院
FileMakerを使ってペーパーレスの電子カルテを“ユーザーメード”で構築し,診療の効率化を低コストに実現
副院長/小児科 山口秀人氏 情報管理室 實松恵子氏
2012-2-1
佐賀記念病院のFileMakerを中心とした電子カルテ構成図
佐賀記念病院(177床,11診療科)では,FileMakerを使った電子カルテシステムを構築し,医事システムや画像・検査データファイリングシステムなどと連携した病院基幹システムとして,ユーザー自らによる運用が行われている。同院の電子カルテの核となっている「ANNYYS(エニーズ)」は,FileMakerによるオープンな小児科電子カルテ開発の取り組みである。その取り組みをあわせて,山口秀人副院長,情報管理室の實松恵子課長に取材した。
●FileMakerによる全病院的な電子カルテの運用へ
佐賀記念病院では,2006年からFileMakerを使った電子カルテシステムの構築をスタートした。電子カルテにはANNYYSを採用し,臨床検査や画像などの医療情報を管理する多機能診療支援ツール「RS_Base」と連携し,医事システムとして外来には「M7Rezept」(Msis社), 病棟は「日医標準レセプトソフト」(ORCA)を導入した。
ANNYYSは,日本外来小児科学会の電子カルテ開発プロジェクトで,小児科の臨床現場の発想を生かした電子カルテとして,FileMakerで開発されたシステムである。山口副院長は,2003年からプロジェクトに参加し,開発に取り組んできた。また,山口副院長は医療者の手による医療ITシステム構築の普及・促進を図るJ-SUMMITS(日本ユーザーメード医療IT研究会)の メンバーとしても活動している。そのANNYYSを山口副院長が小児科の外来で,ワープロがわりに診療に使い始めたことがきっかけとなって,全病院的な電子カルテに発展していった。山口副院長は,「ANNYYSを実際に病院の診療に導入した最初の施設として取り組み,所見入力やオーダまで作り込んできました」と語る。
實松課長は,構築当初の取り組みを次のように説明する。
「最初の動機は待ち時間の短縮でした。患者さんが診察室の前で待っているのに,カルテがなくて診察できない状況を改善したいというのがスタートです。山口副院長のANNYYSが使いやすいという評判が診療科の先生方に広がっていって,FileMakerで構築しようという流れが自然と現場の中でできていきました」。
同院では,小児科向けだったANNYYSをベースとして,内科,整形外科,眼科などの診療科ごとにカスタマイズを行い,2007年4月には全診療科の外来で電子カルテに移行し,ペーパーレス運用となった。また,医事システムについてもANNYYSとの接続性の高いM7Rezeptにリプレイスした。
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小児科のためのFileMakerベースの電子カルテ ANNYYS(エニーズ)
ANNYYS(http://www.annyys.net/
)は,WindowsとMacの両方で使えることを考慮してFileMakerを使用して開発された小児科向け電子カルテで,誰でも,どこでも,どのようにでも使えるシステムをめざすという願いを込めてエニーズと名付けられた。"ANNYYS"の表記は,6名の開発メンバーの頭文字をとったもので,山口副院長もその1人である。ファイルはオープンソースとしてホームページ上で公開され,ユーザーは自己責任でカスタマイズして利用できる。
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●受付,会計のシステムを現場で工夫してFileMakerで構築
ペーパーレス化に伴って,自動受付,会計待ちのシステムもFileMakerで構築した。受付では,初診時に診察券のバーコードを発行し,再診からはバーコードでの自動受付を可能にした。診察終了後の会計の際には,バーコードを読み込むことで会計の受付と順番表示を行うシステムを構築した。これらも電子カルテと連動するかたちで,すべてFileMakerで自作したものだ。「ペーパーレスになった時点で,受付や会計をどうやって行うかが問題になりました。以前は,受付から会計まで診察の流れは紙カルテがキーとなっていましたので,それに代わる手段を現場のスタッフと相談しながらFileMakerで実現していきました」と實松課長は説明する。
そのほか,病棟,リハビリテーション,皮膚科のエステ予約管理(図2),医師スケジュールや施設予約,掲示板などのグループウエア機能などをFileMakerで構築している。
●使う側の要望にそった開発ができることがFileMakerのメリット
FileMakerによるシステム構築は,ほとんどが山口副院長と實松課長によって開発が進められてきた。最初のヒアリングを元にFileMakerでプロトタイプを作成し,現場でスタッフに使ってもらいながらその都度要望に応じて作り込んで行くかたちで進められた。
「ボタンやフィールドなどは,目の前ですぐに位置を変えたり変更できるのが,FileMakerのいいところですね。システム作りで注意したのは,自分よがりにならないことです。使う人の要望に耳を傾けて,それを実現するにはどうしたらいいかを優先して作ることが,長く使ってもらえるシステムを作るコツだと思います」
實松課長は,病院の薬局助手のパートとして働いている時に,山口副院長に“スカウト”されてFileMakerによるシステム構築に取り組むことになった。FileMakerどころかPCも素人だったという實松課長は,「FileMakerでは,プログラムを知らなくても,画面を見ながらやりたいことを手探りでも何とか実現できます」と評価する。
●訪問介護や病棟でiPadとFileMaker Goを使ったソリューションを構築中
FileMakerと,RS_BaseやORCAなどオープンで安価なシステムの採用は,結果的にシステムの導入,運用コストを大きく抑えることに繋がった。山口副院長によれば,年間のシステム運用の予算は200~250万円だと言う。もちろん,サーバやクライアントの端末,プリンタなどハードの調達,DICOM機器の接続は山口副院長自ら行い,診察券のバーコード印刷や受付でのサーマルプリンタなども實松課長を中心に情報管理室で手配,構築を行うなどすべて“手作り”によるところも大きい。
システムが病院全体の取り組みに広がった2008年に,構築担当の部署として情報管理室が設置され,現在は實松課長以下3名の体制となった。外部のベンダーに頼らないシステム構築は,担当する個人への依存が大きいことが心配されるが,山口副院長は,「システムは,FileMakerが中核ですが,データベースなどはオープンな規格を採用していますので,何かあればデータの移行は可能です。しかし,大切なのは組織として,システムの構築,運用ができるスタッフを育てることです」と語る。 實松課長は,ユーザーメードの構築を考える施設へ次のようにアドバイスする。
「スタッフは専門のシステムエンジニアなどを採用するのではなく,院内のPCなどの知識がある人材を募るほうが良いと思います。病院のシステム構築で難しいのは,病院の運用や業務の流れを理解することです。これがわからないと,必要とされる機能がわからずに作っても使ってもらえません。病院の中の世界を理解しているスタッフが担当することが重要ですね」。
同院では,次の段階として蓄積された臨床データの活用のためのツールを充実させていくという。「データの後利用が可能だとわかれば,医師や看護師の入力のモチベーションも上がります」と實松課長は言う。さらに,山口副院長は,「ANNYYSの普及が進めば全国でデータを集約した臨床研究も可能になります。そのためにも,オープンソースとしての開発にも力を入れていきたいですね」と展望を語っている。
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