Case 3 土佐市民病院 
独学3か月で作り上げた“医師の業務を楽にする”ためのシステム
診療部長/外科医長 都築英雄氏

2011-2-1


イラストなどを使って患者への説明にも活用

イラストなどを使って患者への説明にも活用

土佐市民病院(150床)では,FileMakerによる入院時指示書,入院診療計画書など紙カルテ,紹介状や診断書などの各種の書類作成と情報共有,ICD-10などの病名検索が可能なシステムを構築し,オーダリングシステムを補完するかたちで運用されている。このシステムを手掛けたのが,同院の診療部長で外科の都築英雄医長である。都築医長は,独学でFileMakerを学び,3か月でシステムを立ち上げた。電子カルテシステム未導入病院での,ユーザーによる“医師の負担軽減”をめざした診療支援システムの構築と運用について,都築医長に取材した。

●手書きをなくし医師の負担軽減をめざして構築に着手

都築英雄氏

都築英雄氏

土佐市民病院では,1998年からオーダリングシステムが稼働しているが,注射などの指示書や入院時に作成する各種書類,紹介状や保険の診断書作成など数多くの手書き文書が必要とされていた。都築医長は,FileMakerシステムの構築のねらいを次のように話す。
「診療の中での繰り返し記載などを極力なくし,医師の診療や業務を楽にすることを第一に考えました。業務は紙での運用を基本として,オーダリングシステムのPCを利用して入力をデジタル化して情報の共有と活用が可能なシステムを構築しました。そのツールとして,医療分野での活用事例を見て電子カルテに近いシステムが作れるのではと考えてFileMakerを採用しました」

●FileMakerで作成期間3か月,180万円のコストで構築

2009年10月から制作作業に着手し,市販のFileMakerの解説本などを頼りにほぼ独学で構築に取り組んだ。最初に,練習として手術台帳を作成し,続いて,介護保険書類,入院時書類などの文書類をデジタル化した。患者基本情報台帳とリンクして効率よく各文書の作成や過去のサマリなどの記録が参照できるようにした。ちょうどDPC準備病院となりICD-10コードなどの記載が必要となったことから,ICD-10などの検索システムをFileMaker Pro Advancedで作成し,これらのシステムを合わせてWindowsデスクトップにインストールしたFileMaker Serverで共有し,病院全体のシステムとして2010年1月に運用をスタートした。都築医長は,「FileMakerはもちろん,PCサーバに関する知識もなく,参考書を見ながら試行錯誤の取り組みでしたが,思いのほか簡単にできたという印象で,ネットワークでの運用もその動作速度に驚きました」と振り返る。
2010年8月のユーザー拡大時には,サーバをWindowsからクライアントアクセスライセンス(CAL)が不要なMacに変更し,FileMaker Server Advancedにアップグレードして,院内120台のPCからインスタントウェブパブリッシング(IWP)機能を使用したブラウザからのアクセスを可能にしている。FileMaker Proのクライアントライセンスは30ライセンスで,外来,病棟を中心にインストールされている。

●FileMakerの機能を活用して文書作成時間を半分以下に短縮

現在,同院では図1のようなシステムが構築されている。FileMakerを使って,患者基本情報を中心として,カルテ,サマリ,診断書,介護保険関係書類,生命保険診断書などが,リレーションやポータルなどの機能を使って誰でも簡単に作成できる。これによって,それまで転記や同じ内容を何度も書く必要があった書類の作成作業の負担を大幅に削減し,新規の入院時では書類作成時間は半分に,再入院では2分ほどで完了するようになったという。都築医長は「極端なことをいえば,入院時の書類作成の負担が,医師の入院の判断のタイミングに影響したことはゼロではなかったと思います。それは,作成する書類の多さと,同じことを何度も書かなければいけないという作業の負担です。これを軽減できたことは,診療の質の向上を陰から支えているといっていいでしょう」と話す。

図1 土佐市民病院 カルテ・文書管理システム

図1 土佐市民病院 カルテ・文書管理システム

 

リレーションやポータル機能などFileMakerの機能を活用して医師の診療業務をサポートする。患者情報などの入力,参照を行う基本情報画面

リレーションやポータル機能などFileMakerの機能を活用して医師の診療業務をサポートする。患者情報などの入力,参照を行う基本情報画面

さらに,個人がよく使う項目や単語などを登録し,利用時に自分の名前を選択すれば,個人が使いやすい環境でいつでも利用できる仕組みを取り入れた。都築医長は「オーダリングシステムでの不満は,個人を認識して最適なユーザーインターフェイスやデータが提示されないことです。医師にとって,他科の項目や用語の使用頻度は低いのです。利用者個人にカスタマイズすることで,使い勝手が大きく向上します」とそのねらいを説明する。
また,WordやPowerPoint,PDFで作成された患者への説明書を,FileMakerで共有して各端末で病状や手術説明に利用できるようにしている。このファイルを,院内すべての端末から利用できるようにするために,FileMaker Server Advancedにアップグレードし,併せてサーバマシンをMacに変更した。
このほか,医師サマリ,看護サマリ,紹介状(診療情報提供書)の作成と,宛先の開業医の住所印刷,高知県のがん登録書類の作成とがんのステージ検索,循環器科の心エコー,マルチスライスCT,心臓カテーテル検査の所見用紙などがネットワークで動いている。生命保険診断書作成,介護保険の書類作成・管理,手術台帳については,サーバからは切り離して医局の端末のみで運用している。
同院では,オーダリングシステムのデータを利用することができず,IDや氏名,住所などの患者基本情報は,レコードの作成時に医師が入力している。
現在のレコード数は,入院患者を中心に作成されており,約1000件のデータが入力されている。医師は全員が何らかのかたちでFileMakerのシステムを利用し,8割はフルに活用している。そのほかのスタッフにも徐々に広がりつつあり,看護部門からの要望で看護サマリのシステムを作成しフィールド内に絵が描ける機能を採用した。これは,その後手術記事や心臓レポートにも採用されている。地域医療相談室,診療情報管理室などでも,サマリの参照や書類の作成で活用されている。

●FileMakerはユーザー視点でのシステム構築を支援する

都築医長は,FileMakerでのシステム構築のポイントを次のように語る。
「最初に“何をやりたいか,何を実現したいのか”をはっきりさせて,そのための方法を考えていくことが重要です。ホームページなどで公開されているアプリケーションを分解してみることも参考になります。今でも,悩むのがスクリプトの作成です。リレーションやルックアップは,わかりやすくてすぐに理解できたのですが,スクリプトはなかなか手強く,今でも参考書などを見ながら作業することが多いですね。ただ,一度作ってしまえば,流用や一部変更で対応できますので,そのあたりもFileMakerのいいところです」
今後のFileMakerでの取り組みとしては,クリニカルパスへの応用と,将来的には電子カルテに負けないシステムを作り上げていきたいという。都築医長は,将来基幹システムが電子カルテに移行したとしても,同意書や説明などで紙が必要な部分は残り,FileMakerによるシステムが必要とされる余地は大きいと語る。
「基幹となる病院情報システムは,必ずしも医師の業務の効率化を最優先に考えているとは言えず,医師が自分たちでシステムを構築する仕組みは必要です。FileMakerのメリットは,低コストで拡張性が高く,自分たちの手でいつでも簡単に変更できることです。奥が深く,使う側の技量によってどこまでも発展可能で,無限の可能性を感じています」。

 

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土佐市民病院

土佐市民病院
高知県土佐市高岡町甲1867
TEL 088-852-2151
病床数:150
FileMaker Server Advanced:1
FileMaker Pro Advanced:1
FileMaker Pro:30
http://www13.ocn.ne.jp/~tosa/


(インナービジョン2011年2月号 別冊付録 ITvision No.23より転載)
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